岩石学

火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

火山研究解説集:薩摩硫黄島
詳細版 目次

1 地質・岩石:

構造 噴火史 岩石 同位体・微量成分 メルト包有物

2 火山活動:

最近の活動 昭和硫黄島

3 火山ガス・熱水活動:

火山ガス SO2放出量 温泉 海底遊離ガス 土壌ガス 変質 ガス分別

4 放熱量:

衛星観測 総放熱量 火山熱水系

5 地球物理観測:

地震活動 地殻変動 その他

6 マグマ活動:

脱ガス過程 マグマ溜まり

Maficinc photo sm.jpg

  • 昭和硫黄島流紋岩に含まれるマフィックインクルージョン


Table of Contents

はじめに

噴火により噴出した火山岩を岩石学や化学的な手法で分析・解析し,マグマ溜まりの特徴(マグマの化学組成,温度,圧力など)を明らかにすることができます.ここでは,前半に,主として,小野ほか(1982)とSaito et al. (2002)で行われた岩石学的研究を紹介します.後半に,そのデータと岩石相平衡実験データを用いてマグマ溜まりについて考察を行います.

マグマの化学組成

全岩化学組成

全岩化学組成(主成分10元素)

マグマの化学組成は,火山岩を粉末試料にして蛍光X線分析装置(X-ray fluorescence spectrometer; XRF)で分析することにより知ることができます.これは,物質にX線を照射すると,物質を構成する元素の固有X線が発生することを利用した分析方法であり,発生したX線の波長から元素種を,そのX線の強度から元素濃度を決定できます.XRFは,地質学で広く用いられています.

主要な10元素の濃度を全岩化学組成図に示します. カルデラ形成期の竹島火砕流,後カルデラ期の硫黄岳,昭和硫黄島は,極めて近い化学組成を示し,1つの流紋岩マグマだまりを起源としていることを示唆しています.一方,後カルデラ期に形成された稲村岳は玄武岩マグマによるものです.即ち,後カルデラ期には玄武岩と流紋岩が噴出しており,後カルデラ期には少なくとも2つのマグマだまりが存在した可能性があります.

マフィックインクルージョン

昭和硫黄島流紋岩に含まれるマフィックインクルージョン

後カルデラ期流紋岩(硫黄岳および昭和硫黄島火山岩)には,玄武岩質安山岩〜安山岩組成のマフィックインクルージョン(mafic inclusion)が含まれています.マフィックインクルージョンとは,火山岩に含まれている苦鉄質の岩石で,その起源はマグマである場合もあれば,マグマが上昇中に捕獲した地殻・マントル物質である場合もあります.硫黄岳および昭和硫黄島火山岩に含まれるマフィックインクルージョンは,流体として捕獲された形状を示すこと,火成岩的組織を有することなどから,流紋岩マグマが苦鉄質マグマを捕獲して形成されたと考えられています.

右写真は昭和硫黄島流紋岩中のマフィックインクルージョンです.流紋岩に比べ暗灰色で,外形は最大20cm程度,斑晶量は15vol%以下です.硫黄岳流紋岩のマフィックインクルージョンも同様な組織を示しますが,昭和硫黄島流紋岩のものに比べて,外形は小さく(最大5cm程度),斑晶量も少ない(5vol%以下),存在度も少ないという特徴があります.

また,上の全岩化学組成図に,マフィックインクルージョンの化学組成がプロットされています. 昭和硫黄島流紋岩中のマフィックインクルージョンは,安山岩組成(SiO2=56-61wt%)で,硫黄島に噴出した玄武岩と流紋岩で示される組成の範囲内で幅広く分布し,玄武岩と流紋岩の混合によって形成されたことを示唆しています.

一方,硫黄岳流紋岩のマフィックインクルージョンは玄武岩質安山岩組成(SiO2=54-55wt%)で,稲村岳マグマに近い組成を持っています.稲村岳スコリア組成とその石基組成(Ngm)の線上に位置しているので,稲村岳マグマが少し結晶分化して形成された可能性を示唆しています.

鉱物組成

鉱物モード組成

鉱物モード組成

火山岩に含まれる斑晶鉱物の種類と存在量も重要なマグマの特徴のひとつであり,鉱物モード組成といいます.

右の表(鉱物モード組成)は,薩摩硫黄島火山全史の主要な火山岩の鉱物モード組成です. 薩摩硫黄島火山の玄武岩に含まれる斑晶は,斜長石が最も多く,単斜輝石,斜方輝石,カンラン石が次いで多く,鉄・チタン鉱物をわずかに含みます. 流紋岩は, 斜長石が最も多く,単斜輝石,斜方輝石が次いで多く,鉄・チタン鉱物をわずかに含みます.カルデラ噴火ではさらに石英やホルンブレンドを含んでいる場合があります. 石基とは,火山岩中で斑晶や泡以外の,小さな鉱物やガラスで構成されている部分で,マグマ溜まりではケイ酸塩メルト(溶融物)であったものです.薩摩硫黄島の流紋岩の多くは,80-90%以上が石基であり,斑晶が少ないマグマであったことがわかります.

斜長石の化学組成

電子線マイクロアナライザー(Electronprobe micro-analyzer;EPMA)の外観とその測定原理

上述のように,薩摩硫黄島火山の火山岩で,最も多く含まれる鉱物種は斜長石です. 斜長石は,主として,SiO2, CaO, Na2Oで構成された鉱物で,マグマの分化の度合いに応じて,CaとNaの量比が変化します.Caの量比(An#=Ca/(Ca+Na)x100)が大きいと未分化,少ないと分化が進んでいると考えられます.また,斑晶の中心部をコアと言い,斑晶が晶出を開始した時のマグマの情報を持っています.従って,斜長石斑晶のコアのAn#を分析することで,その斜長石が晶出を開始した時点のマグマの情報を引き出すことができます.

一般的に斑晶は2mm以下と小さいので,その化学分析には電子線マイクロアナライザー(Electronprobe micro-analyzer;EPMA)という微小領域分析装置が用いられています.EPMAは,物質に電子線を照射すると,その物質を構成する元素の固有X線が発生することを利用した分析方法です.

後カルデラ期火山岩の斜長石化学組成

後カルデラ期火山岩の斜長石斑晶のコアの化学組成を右図に示します. 稲村岳はAn#72-96,硫黄岳・昭和硫黄島はAn#44-70の組成を持っています.即ち,玄武岩では高いAn#のコアを持つ斜長石が晶出し,流紋岩では玄武岩よりも低いAn#のコアを持つ斜長石が晶出しています. 一方,昭和硫黄島のマフィックインクルージョンはAn#42-96で,玄武岩から流紋岩に相当する幅広い組成を持っています.硫黄岳のマフィックインクルージョンの大半はAn#~90で高いAn#を示し,1つのみAn#52と流紋岩と同様のAn#を示しています.

マフィックインクルージョンにある斜長石斑晶のコアの化学組成が幅広い組成を持つということは,玄武岩,流紋岩の両起源の斑晶があることを示し,両マグマの混合によってマフィックインクルージョンが形成されたことを示唆しています. また,昭和硫黄島マフィックインクルージョンの方が硫黄岳マフィックインクルージョンより,流紋岩起源の斜長石が多いことは,「昭和硫黄島マフィックインクルージョンの方が硫黄岳マフィックインクルージョンより流紋岩マグマの混合の割合が大きい」ことを意味します.

一方,マフィックインクルージョンの石基斜長石(石基中の小さな斜長石)のコア組成はAn#60-80に集中し,均質な組成を示します.このことは,マフィックインクルージョンを形成したマグマのメルトは玄武岩と流紋岩の間の中間的な組成だったこと,両マグマが混合した結果形成された均質なメルトから石基が晶出したことを示唆しています.

斜長石のゾーニングプロファイル

マフィックインクルージョンの斜長石の反射電子像と化学組成線分析結果

上記のように,斜長石のAn#はその斜長石が晶出した時点のマグマの組成や分化程度を反映して変化します.このため,斜長石斑晶の成長に伴うAn#の変化を追うことで,斜長石が晶出してきたマグマの変化を明らかにすることができます.このような結晶内で中心部から周縁部へ化学組成が変化している構造をゾーニング(zoning,累帯構造)と言い,その変化を示した図をゾーニングプロファイルといいます.EPMAで斜長石斑晶内でのAn#の分布を調べれば,斜長石のAn#のゾーニングプロファイルがわかります.

右図は昭和硫黄島流紋岩に含まれるマフィックインクルージョンの斜長石斑晶の断面について,CaとNaの量比(An#=Ca/(Ca+Na))についてのEPMAによる線分析結果です.これらの斜長石は An#40~90の幅広いコア化学組成を持ちますが,その各コア組成で,均質なコアを持つもの,コアからリムに向かって徐々にAb-richになるもの,累帯構造があるもの,等の様々なタイプのゾーニングプロファイルを示しています.この組成変化は,斜長石が晶出している際のメルトの組成や温度変化によるものと考えられます.

一方,硫黄岳流紋岩に含まれるマフィックインクルージョンの斜長石はほとんどはコアAn#>80で均質なコアを持っています.

これらの結果は,昭和硫黄島マフィックインクルージョンの起源であるマグマは幅広いメルト組成や温度を持っていたことを示しています.また,硫黄岳マフィックインクルージョンを放出した噴火は,噴火直前に玄武岩マグマが流紋岩マグマに注入されたことを示しています.

輝石の化学組成

後カルデラ期火山岩の輝石化学組成(En-Fs-Wo)

後カルデラ期火山岩には,どれも単斜輝石(Cpx)と斜方輝石(Opx)が存在します,単斜輝石,斜方輝石は,主として,SiO2, CaO, MgO, FeOで構成された鉱物で,輝石のCa, Mg, Feのモル比は,晶出する時点のマグマの化学組成に依存します.そのため,斜長石のAn#と同様に,輝石のCa, Mg, Feのモル比を測定することで,輝石が晶出したマグマの情報を引き出すことができます. 輝石のCa, Mg, Feのモル比は,通常,右図(後カルデラ期火山岩の輝石化学組成(En-Fs-Wo))のような,頂点がWo, En, Fsである三角ダイヤグラムで表されます.Wo,En,Fsはそれぞれ輝石の単成分である珪灰石(Wollastonite,CaSiO3),エンスタタイト(Enstatite,MgSiO3),フェロシライト(Ferrosilite,FeSiO3)です.

この図をみると,後カルデラ期火山岩(稲村岳,硫黄岳,昭和硫黄島,およびマフィックインクルージョン)ののうち,硫黄岳と昭和硫黄島の流紋岩の輝石はほぼ同じWo-En-Fs量比を示す一方,稲村岳は硫黄岳・昭和硫黄島よりわずかにEn成分が多い(Mg-rich)ことがわかります. 一方,マフィックインクルージョンは,稲村岳,硫黄岳,昭和硫黄島の組成範囲に広く分布しています.

後カルデラ期火山岩の輝石化学組成(Mg#)

また,左図(後カルデラ期火山岩の輝石化学組成(Mg#))に単斜輝石(Cpx)および斜方輝石(Opx)のMg#について示します.Mg#は,輝石に含まれるMgとFeのモル比(=Mg/(Mg+Fe))を表しています.マグマのMg#は結晶分化作用で大きく変化し,それにつれて晶出する輝石のMg#も変化するので,輝石のMg#はマグマの分化程度を推定する良い指標です.

稲村岳の単斜輝石コアの化学組成は硫黄岳・昭和硫黄島よりわずかにMgに富んでおり,マフィックインクルージョンは稲村岳,硫黄岳・昭和硫黄島の組成範囲に含まれます. また,稲村岳の斜方輝石(Opx)コアのMg#は硫黄岳・昭和硫黄島よりMgに富んでおり,マフィックインクルージョンは1個を除き,硫黄岳・昭和硫黄島と同様な組成分布を示します.

後カルデラ期火山岩の輝石化学組成(Al2O3濃度)

輝石のAl2O3濃度も,その輝石が晶出したマグマのAl2O3濃度を反映している可能性があります.

右図(後カルデラ期火山岩の輝石化学組成(Al2O3濃度))は,後カルデラ期火山岩の輝石のAl2O3濃度とその出現頻度です. 稲村岳火山岩の単斜輝石(Cpx)および斜方輝石(Opx)は,硫黄岳・昭和硫黄島より高いAl2O3濃度を持っていることがわかります. 一方,マフィックインクルージョンの単斜輝石(Cpx)は,稲村岳,硫黄岳・昭和硫黄島の組成範囲を含む大きな変動を示します.この大きな変動は,単斜輝石が玄武岩と流紋岩の両方のマグマを起源としている,もしくは,輝石の急成長によってAl2O3濃度が高くなった(Tsuchiyama, 1985),のどちらかで引き起こされたと考えられています. また,マフィックインクルージョンの斜方輝石(Opx)のAl2O3濃度は,Mg#の結果と同様に,硫黄岳・昭和硫黄島と同様な組成を示しています.

これらの結果は,斜長石のAn#と同様に,マフィックインクルージョンの輝石が,玄武岩マグマと流紋岩マグマの両方を起源としていることを示しています.

カンラン石の化学組成

後カルデラ期火山岩のカンラン石化学組成(Mg#)

斜長石のAn#や輝石のMg#と同様に,カンラン石のMg#もマグマの分化程度を知るための良い指標です.稲村岳と昭和硫黄島マフィックインクルージョンにカンラン石斑晶がわずかに存在しています.右図に,これらのカンラン石のコアのMg#と出現頻度,さらに,リムの組成範囲も示します.

稲村岳と昭和硫黄島マフィックインクルージョンは,同様なMg#を示していますが,わずかに,マフィックインクルージョンの方がMgに富んでいます.これは,昭和硫黄島マフィックインクルージョンを形成した玄武岩マグマは,稲村岳噴火マグマと同様,もしくは少し未分化だったことを示唆しています.

         

マグマの温度

輝石地質温度計

輝石地質温度計によるマグマ温度

輝石地質温度計とは,平衡共存する2種の輝石の化学組成から輝石の生成温度を推定する方法です(Lindsley, 1983).

図(輝石地質温度計によるマグマ温度)は,薩摩硫黄島火山岩の単斜および斜方輝石の化学組成を元に輝石地質温度計を用いて見積もられたマグマ温度を示します.

流紋岩マグマの温度は,14万年前の小アビ山火砕流噴火マグマが990℃,7300年前の竹島火砕流マグマが960±21℃,後カルデラ期の硫黄岳マグマが960±28℃,1934-1935年の昭和硫黄島マグマが967±29℃と見積もられています.すなわち,流紋岩マグマはカルデラ形成期以降,960-970℃という,流紋岩マグマとしては高温状態を維持しています.

一方,稲村岳の玄武岩マグマの温度は,流紋岩マグマより高く,1125±27℃という値が得られています.

鉄・チタン鉱物温度計

鉄・チタン鉱物温度計によるマグマ温度

鉄・チタン鉱物温度計とは,輝石地質温度計と同様に,共存する2種の鉄・チタン鉱物の化学組成から鉄・チタン鉱物の生成温度とマグマの酸素フガシティを推定する方法です(Buddington and Lindsley, 1964).

図(鉄・チタン鉱物温度計によるマグマ温度)は,鉄・チタン鉱物温度計によって見積もられた薩摩硫黄島火山のマグマ温度です.後カルデラ期の硫黄岳軽石を用いて得られた流紋岩マグマの温度は971 ±31°C で,輝石地質温度計による見積もり(960 ±28°C)とほぼ一致しています.

一方,硫黄岳火山弾を用いて得られた温度は884 ±13°C で,硫黄岳軽石よりも低い温度を示します.昭和硫黄島溶岩から見積もった流紋岩マグマの温度も880±24°Cで,輝石地質温度計の結果より低くなっています.これらの違いは噴出後の再平衡によるものと考えられています.

マグマ混合プロセス

マグマ混合プロセスとマフィックインクルージョンの形成

上記の後カルデラ期火山岩の岩石学的解析と化学分析結果に基づき,右図(マグマ混合プロセスとマフィックインクルージョンの形成)のようなマグマ溜まりとマグマ混合プロセスが考えられています(Saito et al., 2002).

硫黄岳噴火(2200年前〜500年前)の直前に,玄武岩マグマが流紋岩マグマだまりの下部に上昇・接触し,わずかに混合しました.稲村岳噴火以前の硫黄岳噴火(5200年前〜3900年前)による噴出物にもマフィックインクルージョンが存在するので,このような混合および噴火プロセスが5200年前以降,定常的に起きていた可能性があります.硫黄岳マグマの温度(960℃)が流紋岩マグマとしては比較的高温であることは,高温(1130℃)の玄武岩マグマが流紋岩マグマの下部に潜在し熱を流紋岩マグマに供給していた可能性を示唆しています.

一方,昭和硫黄島噴火(1934-1935年)の前に,玄武岩マグマと流紋岩マグマの混合が進み,安山岩マグマからなる中間層が形成されていたことが考えられています.硫黄岳マフィックインクルージョンよりも昭和硫黄島マフィックインクルージョンの方が大きく,かつ,存在度が高いことも,中間層の形成が進んでいたことと調和的です.硫黄岳の最後のマグマ噴火が500年前で,その噴火ではマグマ混合が進んでいた形跡がないので,この中間層の形成は500年前以降に開始したと考えられています.

岩石相平衡実験データと観察・分析結果の比較

MELTSプログラムによる相平衡計算との比較

MELTSプログラムによる相平衡計算

「MELTS」とは,Ghiorso and Sack (1995)らにより開発された,熱力学的モデルに基づいてマグマの相平衡や晶出鉱物組成などを数値計算で求めることができるプログラムです.

薩摩硫黄島火山の流紋岩(竹島火砕流軽石)について,同プログラムによる相平衡計算結果を右図(MELTSプログラムによる相平衡計算)に示します. マグマが水に飽和した系では一般に高圧(高H2O)ほど鉱物の晶出開始温度は低下します.同じ鉱物組合せの場合,低圧(低H2O)ほど高温条件になります.MELTSプログラムによる計算では,竹島火砕流マグマの温度が900-950℃であれば,圧力はおよそ75MPa以下になります.


MELTSプログラムによる相平衡計算:メルト組成との比較1
MELTSプログラムによる相平衡計算:メルト組成との比較2

また,MELTSプログラムによる計算で,竹島火砕流軽石の石基やメルト包有物の化学組成を再現するために必要な温度圧力条件を計算してみると,左図(MELTSプログラムによる相平衡計算:メルト組成との比較1)のように,200MPaでは820℃,100MPaで870℃,50MPaで920℃になります. 竹島火砕流噴火のメルト包有物分析から見積もられる圧力は80-180MPa(→メルト包有物),輝石地質温度計から得られている温度は960℃であり(→マグマの温度),MELTSプログラムによる計算結果に比べ,より高温になっています.

同様に,MELTSプログラムによる計算で,実際の竹島火砕流軽石の石基やメルト包有物のSiO2およびAl2O3濃度を再現できる温度圧力条件の組み合わせは,右図(MELTSプログラムによる相平衡計算:メルト組成との比較2)のように,860-920℃,<50-100MPaになります.

(東宮昭彦)

An-T-PH2Oダイアグラムとの比較

玄武岩〜安山岩マグマのAn-T-PH2Oダイヤグラム

マグマから晶出する斜長石の化学組成(An#)は,マグマの温度,圧力(含水量)によって変化します.この関係を示した図がAn-T-PH2Oダイヤグラムです. 実験岩石学研究で得られている水に飽和している玄武岩〜安山岩マグマの温度,圧力,斜長石の化学組成(An#)の関係を左図(玄武岩〜安山岩マグマのAn-T-PH2Oダイヤグラム)に示します.図の,1kb, 2kb, 4kb,と記した実線が,100MPa, 200MPa, 400MPaでのマグマの温度と斜長石のAn#の関係です. 稲村岳の火山岩の分析から,稲村岳マグマの温度は1125±27°C, 斜長石のAn#は85±5と見積もられています.その結果(青色の部分)は,圧力100MPa(=1kb)の関係を示す実線の延長上に位置しています.この結果は,メルト包有物分析で得られているマグマのガス飽和圧力70-130MPa(=0.7-1.3kb)(→メルト包有物)と調和的です.

流紋岩マグマのAn-T-PH2Oダイヤグラム

有珠火山の流紋岩マグマの実験岩石学研究(東宮,1997)で得られているAn-T-PH2Oダイヤグラムを図(流紋岩マグマのAn-T-PH2Oダイヤグラム)に示します. これに約7300年前の竹島火砕流噴火マグマの温度(960±21°C),斜長石のAn#(58±4)をプロットすると100MPa(=1kb)の等圧線の延長上に位置します.メルト包有物分析から得られている竹島火砕流噴火マグマのガス飽和圧力も80-180MPa(=0.8-1.8kb)であり,おおよそ調和的です.

また,昭和硫黄島マグマの温度(967±29°C),斜長石のコアとリムのAn#をプロットすると,50-100MPa(=0.5-1 kb)くらいにプロットされます.メルト包有物分析から得られている昭和硫黄島マグマのガス飽和圧力は20-50MPa(=0.2-0.5kb)で,An-T-PH2Oダイヤグラムで見積もられる圧力より低くなっています.

MELTSプログラムに用いられている熱力学パラメータは,様々な実験岩石学的データのコンパイルに基づいています.また,上記のAn-T-PH2Oダイヤグラムは薩摩硫黄島火山以外の火山岩による実験結果です.従って,MELTSプログラムやAn-T-PH2Oダイヤグラムでの結果と,メルト包有物の分析結果を厳密に比較するには,実際の竹島火砕流噴火や昭和硫黄島噴火の火山岩で相平衡実験を行う必要が有り,今後の研究課題です.

引用文献

Buddington, A. F. and Lindsley, D. H. (1964) Iron-titanium oxide minerals and synthetic equivalents. J. Petrology, vol.5, p.310-357.

Ghiorso, M. S. and Sack, R. O. (1995) Chemcial mass transfer in magmatic processes IV. A revised and internally consistent thermodynamic model for the interpolation and extrapolation of liquid-solid equilibria in magmatic systems at elevated temperatures and pressures. Contrib. Mineral. Petrol., vol.119, p.197-212.

Kawanabe, Y. and Saito, G. (2002) Volcanic activity of the Satsuma-Iwojima arae during the past 6500 years. Earth, Palnets. Space, 54, 295-302.

Lindsley, D. H. (1983) Pyroxene thermometry. Am. Mineral., vol.68, p.477-493.

小野晃司・曽屋龍典・細野武男(1982)薩摩硫黄島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所,80p.

斎藤元治(2004)3.2.マグマ活動モデル.産総研シリーズ「火山」ー噴火に挑むー,産業技術総合研究所地質調査総合センター,159-178,丸善.

Saito, G., Stimac, J.A., Kawanabe, Y. and Goff, F. (2002) Mafic-felsic interaction at Satsuma-Iwojima volcano, Japan: Evidence from mafic inclusions in rhyolites. Earth Planets Space, vol.54, p.303-325.

東宮昭彦(1997)実験岩石学的手法で求めるマグマ溜まりの深さ.月刊地球, vol.19, p.720-724.

Tsuchiyama, A. (1985) Crystallization kinetics in the system CaMgSi2O6-CaAl2SiO8: development of zoning and kinetics effects on element partitioning. Amer. Mineral., vol.70, p.474-486.

参考文献

黒田吉益・諏訪兼位(1989)偏光顕微鏡と岩石鉱物.共立出版.343p.

久城育夫・荒牧重雄・青木謙一郎編(1989)日本の火成岩.岩波書店,206p.

日本表面科学会編(1998)電子プローブ・マイクロアナライザー.丸善,221p.


(”6.1 MELTSプログラムによる相平衡計算結果”は東宮昭彦,その他は斎藤元治)