地質・岩石
火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
地質構造
薩摩硫黄島をふくむ鬼界カルデラ周辺の基盤岩とその構造は海底であり情報が少ないため推測の域を出ませんが,鹿児島県南部から南西諸島に続く,四万十帯の延長部が基盤を形成している可能性が高い.・・・それらの堆積岩類を貫いて新第三紀中新世の花こう岩類が分布し,またさらに中新世後期以降,第四紀に至る火山岩類が分布します.鬼界カルデラ周辺もこれらの岩石が基盤を形成しているものと考えられます.
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噴火史
硫黄島は,鹿児島県薩摩半島の南約50kmに位置する鬼界カルデラの北西縁に位置する火山島で,最新のカルデラ噴火である鬼界-アカホヤ噴火以前の火山岩類と,後カルデラ火山である硫黄岳,稲村岳を擁します.本章では鬼界カルデラならびに薩摩硫黄島火山の噴火史について紹介します.鬼界カルデラの噴火史は,複数の大規模火砕流噴火が起きたカルデラ形成期と,それに前後する先カルデラ火山期,後カルデラ火山期の3つに大別することができます.
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岩石学
噴火により噴出した火山岩を岩石学や化学的な手法で分析・解析することで,マグマ溜まりの特徴(マグマの化学組成,温度,圧力など)を明らかにすることができます.カルデラ形成期の竹島火砕流,後カルデラ期の硫黄岳,昭和硫黄島は,同一の化学組成を示し,1つの流紋岩マグマだまりを起源としていることを示唆しています.一方,後カルデラ期に形成された稲村岳は玄武岩マグマによるものです.即ち,後カルデラ期には玄武岩と流紋岩の両方が噴出しており,後カルデラ期には少なくとも2つのマグマだまりが存在した可能性を示しています.
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同位体・微量元素
マグマのストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)は,マントルの部分溶融やマグマの結晶分化の度合いには影響されないため,マグマの起源物質の推定に使われる指標です.薩摩硫黄島火山の火山岩のストロンチウム同位体比は,先カルデラ火山期,カルデラ形成期,後カルデラ火山期の噴出時期,また,玄武岩,流紋岩の化学組成に関係なく,1つを除き,狭い範囲に集中し,薩摩硫黄島火山全史に噴出するマグマは全て同じマグマ源物質に由来していることを示唆しています.
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メルト包有物
メルト包有物は,マグマ中で斑晶が晶出する際に, 斑晶中に周囲の珪酸塩メルトが捕獲されたものです.・・・メルト包有物はマグマの揮発性成分濃度を知るための最適な試料であり,この十数年でメルト包有物を用いた火山活動に関する研究が飛躍的に発展しています.特に,メルト包有物の揮発性成分濃度や主成分元素組成から,マグマ溜まりの脱ガス・分化過程や,マグマの圧力や密度,マグマ溜まりの気泡量,脱ガスマグマ量といったマグマの上昇・噴火プロセスに関する重要な情報が引き出せます. ( もっと読む・・・)