同位体・微量元素
火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
- 火山岩のストロンチウム同位体比
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火山岩のストロンチウム(87Sr/86Sr)同位体比
マグマのストロンチウム同位体比(87Sr/86Sr)は,マントルの部分溶融やマグマの結晶分化の度合いには影響されないため,マグマの起源物質の推定に使われる指標です.この比は,岩石から化学処理によってストロンチウムを抽出し,質量分析計で測定することで得られます.
薩摩硫黄島火山の火山岩のストロンチウム同位体比はNotsu et al. (1987)によって報告されています(右図:火山岩のストロンチウム同位体比).薩摩硫黄島火山の火山岩の87Sr/86Srは,先カルデラ火山期,カルデラ形成期,後カルデラ火山期の噴出時期,また,玄武岩,流紋岩の化学組成に関係なく,1つを除き,0.70477〜0.70508の狭い範囲に集中していることがわかります.これらの結果は,薩摩硫黄島火山全史に噴出するマグマはストロンチウム同位体的に見て全て同じマグマ源物質に由来していることを示唆しています.
火山岩の微量元素濃度
火山岩の微量元素濃度は,マグマの重要な化学的特徴の1つであり,火山岩粉末試料を蛍光X線分析装置(XRF)やICP発光分析(誘導結合プラズマ発光分光分析法),ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)で測定できます.
右図(火山岩の微量元素濃度)は,氏家ほか(1986)およびSaito et al. (2002)によって測定された薩摩硫黄島火山の火山岩のRb, Sr, Y, Zrの濃度を,K2Oの濃度とともにプロットした図です. 硫黄岳のマフィックインクルージョンは,稲村岳マグマと似た微量元素組成を持っています.また,昭和硫黄島のマフィックインクルージョンは,稲村岳マグマと昭和硫黄島マグマの混合線上に位置しています. これらの結果は,硫黄岳のマフィックインクルージョンを形成したマグマは稲村岳玄武岩マグマを主な起源としていること,昭和硫黄島のマフィックインクルージョンは稲村岳玄武岩マグマと昭和硫黄島流紋岩マグマの混合マグマを起源としていること(図:マグマ混合プロセス),を示しており,全岩の主成分元素組成の結果と調和的です(→岩石学).
引用文献
Notsu, K., Ono, K. and Soya, T. (1987) Strontium isotopic relations of bimodal volcanic rocks at Kikai volcano in the Ryukyu arc, Japan. Geology, vol.15, p.345-348.
Saito, G., Stimac, J.A., Kawanabe, Y. and Goff, F. (2002) Mafic-felsic interaction at Satsuma-Iwojima volcano, Japan: Evidence from mafic inclusions in rhyolites. Earth Planets and Space, vol.54, p.303-325.
氏家 治・曽屋龍典・小野晃司(1986)九州南方,鬼界カルデラ産火山岩類の主成分およびRb・Sr・Y・Zr組成と起源.岩石鉱物鉱床学会誌,vol.81, p.105-115.
参考文献
日本地球化学会監修,野津憲治・清水 洋編(2003)地球化学講座3 マントル・地殻の地球化学.倍風館,308p.
巽 好幸(1995)沈み込み帯のマグマ学.東京大学出版会,186p.
(斎藤元治)