火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

斜長石の累帯構造

斜長石のAn#はその斜長石が晶出した時点のマグマの組成や分化程度を反映していると考えられるので,斜長石斑晶の成長に伴うAn#の変化を追うことで,斜長石が晶出してきたマグマの変化を明らかにすることができます.このためには,EPMAで斑晶内の位置とAn#の関係を知る必要があります.

図は昭和硫黄島流紋岩に含まれるマフィックインクルージョンの斜長石斑晶の断面について,走査電子顕微鏡で撮影した反射電子像写真である.明暗は,化学組成の違い,主として,CaとNaの量比を表しており,Caが多いと明るくなります.また,各写真の下には,そのCaとNaの量比(An#=Ca/(Ca+Na))についてのEPMAによる線分析結果を示します.写真上の矢印のついた直線が分析位置で,線分析結果の縦軸はAn#, 横軸は斜長石リムからの距離を示します.この組成変化は,斜長石が晶出している際のメルトの組成や温度変化によるものです.

昭和硫黄島流紋岩に含まれるマフィックインクルージョンの斜長石は An#40~90の幅広いコア化学組成を持っています.さらに,各コア組成で,様々なタイプのゾーニングプロファイルを示します.即ち,

1)コアAn>80(45%)には3タイプ

(a)均質なコアを持つもの,(b)急にAb-richになるもの,(c)徐々にAb-rich(normal zoning)になるもの.

2)コアAn<60(33%)には2タイプ

(d)均質なコアを持つもの,(e)累帯構造があるもの.

3)コアAn60-80(22%)には2タイプ

(g&h)徐々にAb-richになるもの,(f)累帯構造があるもの

一方,硫黄岳流紋岩に含まれるマフィックインクルージョンの斜長石のほとんどは1−(a)を示します.

上記の結果は,昭和硫黄島マフィックインクルージョンの起源であるマグマは,幅広いメルト組成や温度を持っていたことを示唆しています. また,硫黄岳マフィックインクルージョンの斜長石全て1−(a)を示すことは,玄武岩マグマが流紋岩マグマに注入されてすぐに噴火したことを示しています.

Saito et al. (2002)のFig.6を引用.

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