SO2放出量

火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

火山研究解説集:薩摩硫黄島
詳細版 目次

1 地質・岩石:

構造 噴火史 岩石 同位体・微量成分 メルト包有物

2 火山活動:

最近の活動 昭和硫黄島

3 火山ガス・熱水活動:

火山ガス SO2放出量 温泉 海底遊離ガス 土壌ガス 変質 ガス分別

4 放熱量:

衛星観測 総放熱量 火山熱水系

5 地球物理観測:

地震活動 地殻変動 その他

6 マグマ活動:

脱ガス過程 マグマ溜まり

Cospec teiten sm.jpg

  • 硫黄島でのCOSPECによるSO2放出量観測


Table of Contents

はじめに

硫黄岳の山頂火口から放出されている噴煙は,マグマ起源ガスを主体とした火山ガスです.マグマ活動システムの解明や火山活動の監視をする上で火山ガス放出量を観測することは重要です.1970年代になって火山ガスに含まれるSO2(二酸化硫黄)の噴煙中の濃度の遠隔観測が可能になりました(大喜多・下鶴,1975).

観測手法

COSPECによるSO2放出量観測
COMPUSS本体

SO2放出量の観測は,2002年頃まではCOSPEC(Correlation spectrometer,相関スペクトロメーター)という大型の装置を用いて行われていました(左写真:COSPECによるSO2放出量観測).近年,DOAS(Differential optical absorption spectroscopy)という手法を用いた小型かつ安価の観測装置(COMPUSS: Compact ultraviolet spectrometer system; 右写真:COMPUSS本体)が開発され(Mori et al., 2007),その装置を用いた観測が一般的になりつつあります.どちらの装置も,基本的な観測原理は同じで,太陽の散乱紫外光を光源とし,SO2により特定の波長域の光が吸収されることを利用して光路上のSO2濃度を測定しています.これらの装置を用いて噴煙の断面のSO2濃度分布を求め,その噴煙の移動速度をかけることにより,単位時間当りのSO2の放出量値(以下,本ホームページでは「SO2放出量」と呼びます)を算出します.一般的によく使われるSO2放出量の単位は,トン/日(一日当りに放出されたSO2の質量)です.

SO2放出量の観測方法

噴煙の断面のSO2濃度の観測手法としては,定点観測法(パンニング法)とトラバース法の2種類があります(図:SO2放出量の観測方法). 定点観測手法では,ある定点において,噴煙を水平あるいは垂直にスキャンすることで,断面のSO2濃度分布を測定します.一方,トラバース法では,装置を真上に向けた状態で自動車,船,航空機などに取り付け,噴煙の下を通過することで,噴煙の断面のSO2濃度分布を測定します.定点観測法では,一般に観測地点から噴煙までの距離が長いため,噴煙を通過した後で生じる光の散乱により,観測に用いる波長によってSO2濃度が著しく低く観測されることがわかってきました(Mori et al., 2006).この効果が大きい場合は,観測値を補正する必要があります.

SO2放出量とその変化

硫黄島でのCOSPECによるSO2放出量観測

薩摩硫黄島火山においては,1975年に最初のSO2放出量観測が行われました.COSPECを船に搭載し,トラバース観測によって放出量値が得られています.その後,1990年からは島内において定点観測法による観測が始められました(写真:硫黄島でのCOSPECによるSO2放出量観測).1994年からほぼ毎年観測値が得られています(Kazahaya et al., 2002).

SO2放出量の変化(1990-2004)

本火山では,観測地点に制約があったため,定点観測法が多用されてきました.しかし,上述のように,定点観測法には噴煙断面のSO2濃度を過小評価している可能性があるため,2003年以降,トラバース法を併用して,定点観測法の誤差の見積りを行っています.その結果,これまでの定点観測法による放出量値は大幅に過小評価されており,実際の放出量は定点観測値の約2.5倍の,平均1300トン/日(暫定値; Ohwada, unpublished data)であることがわかりました(図:SO2放出量の変化(1990-2004)).補正後の定点観測法の値はトラバース法による値とよく一致しています.放出量の変動については,図(SO2放出量の変化(1990-2004))にてあきらかなように大きな変動はなく,1000―1500トン/日で安定しているように見えます.


火山ガス放出量

COSPECもしくはCOMPUSSによって観測されたSO2放出量と火山ガス組成を組み合わせることにより,火山ガス種それぞれの放出量を求めることができます.山頂部の高温火山ガスの組成は,H2O:CO2:S:Cl(モル比)がそれぞれ97.5:0.38:0.98:0.58でした(Shinohara et al., 1993; 2002).火山ガス中の硫黄化合物は主にSO2とH2Sで,SO2/H2S比は7〜22です.ここでは,この比を10として,各ガス種の放出量を求めてみます.SO2放出量が平均1300トン/日であるから,H2S放出量は70トン(H2S)/日程度です.従って,全硫黄(Sとして)の放出量は,700トン(S)/日になります.

同様に,H2Oは40000トン(H2O)/日,CO2は370トン(CO2)/日,Clは460トン(Cl)/日となります.硫黄島では,山頂部から放出される火山ガスがほぼすべてマグマ起源と考えられることから,これらの放出量はマグマ起源ガスの放出量となります.

引用文献

Mori, T., Hirabayashi, J., Kazahaya, K., Mori, T. and Ohwada, M. (2007) Use of a COMPact Ultraviolet Spectrometer System (COMPUSS ) for monitoring volcanic SO2 emission: Validation and preliminary observation. Bull. Volcanol. Soc. Japan, vol.52, p.105-112.

Mori ,T., Mori, T., Kazahaya, K., Ohwada, M., Hirabayashi, J. and Yoshikawa, S. (2006) Effect of UV scattering on SO2 emission rate measurements, Geophys. Res. Lett., vol.33, no.17, L17315 10.1029/2006GL026285.

Kazahaya, K., Shinohara, H. and Saito, G. (2002) Degassing process of Satsuma-Iwojima volcano, Japan: Supply of volatile components from a deep magma chamber. Earth Planets and Space, vol.54, p.327-335.

大喜多敏一・下鶴大輔(1975)火山ガスのリモートセンシング―火山から放出される SO2の測定―.火山,vol.19,p.151―157.

Shinohara, H., Giggenbach, W. F., Kazahaya, K. and Hedenquist, J. W. (1993) Geochemistry of volcanic gases and hot springs of Satsuma-Iwojima, Japan: Following Matsuo. Geochem. J., vol.27, p.271-285.

Shinohara, H., Kazahaya, K., Saito, G., Matsushima, N. and Kawanabe, Y. (2002) Degassing activity from Iwodake rhyolitic cone, Satsuma-Iwojima volcano, Japan: Formation of a new degassing vent, 1990-1999. Earth Planets and Space, vol.54, p.175-185.


(風早康平)