海底遊離ガス
火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
- 海底湧水・遊離ガス採取
Table of Contents |
はじめに
火山周辺では地下から上昇してきた火山ガス成分は,噴気(→火山ガス)としてだけでなく,顕著な熱異常を伴わないで地表や海底から土壌ガス(→土壌ガス)や海底遊離ガスとして拡散的に放出されます.海底遊離ガスは,水に溶存しきれなかった成分が気泡となり上昇するもので,火山ガスの上昇経路がある場所や放出量が多い場所などで確認できます(図:海底遊離ガス).
海底遊離ガスの分布及び採取方法
薩摩硫黄島火山での海底遊離ガス湧出地点の探査は,研究者自身が潜水し,目視で行っています.これまでの調査範囲は,水深15m程度以浅の沿岸部に限られています.湧出地点では,周囲より明らかに多量の気泡が発生,上昇しています(Fourre et al., 2002).
海底遊離ガスは,昭和硫黄島南岸と東温泉沿岸で確認されています(図:火山ガス温泉分布).また,坂本温泉沿岸,湯の滝沿岸では,海底遊離ガスは確認されていないものの,海底熱水は確認されています.
海底遊離ガスの採取は下記の通りです.プラスチック製のタンクをつないだ漏斗状の器具を湧出地点にかぶせ,プラスチックタンクの中の海水が,漏斗内にたまっていく遊離ガスと置換されるまで待ちます(左図:海底遊離ガス採取方法).プラスチックタンクにガスが満たされた後,タンク中のガスを船上で速やかに各成分分析用のボトルに移し替えます(図:遊離ガス採取).
近年では,採取方法・器具の改良が進み,空気の混入量をより小さくし,同時に海底湧水を採取することができる,右の図(海底湧水・遊離ガス採取)のような器具を使用しています.頂上部にシリンジをつなぐことによって海底からの湧水が採取でき,側頭部よりガスの採取が可能となっています.海底ガスの組成の測定は,火山ガス分析と同様の方法によって行われます(→火山ガス).
海底遊離ガスの化学組成
昭和硫黄島南岸と東温泉沿岸の海底遊離ガスは,CO2が主成分です.例えば,2003年10月に昭和硫黄島沿岸で採取した海底遊離ガスでは98%以上をCO2が占めます.N2, Ar, Heなどがそれに続きます.
これらのガスのN2-He-Arの組成(図:海底遊離ガス組成)は,硫黄岳周辺及び昭和硫黄島の火山ガスの組成(Shinohara et al., 1993)と類似しています(→火山ガス).
また,ヘリウム同位体比(3He/4He)は,7〜8Raを示します.なお,1Raは空気中のヘリウム同位体比(3He/4He = 1.4x10-6)です.この値は,硫黄岳火山ガス・昭和硫黄島陸上の温泉ガス(8Ra;Fourre et al., 2002)とほぼ同じであり,同時に上部マントルの数値に等しく,島弧マグマの典型的な値といえます(→火山ガス).
引用文献
Fourre, E., Le Guern, F. and Jean-Baptiste, P. (2002) Helium isotopes at Satsuma-Iwojima volcano, Japan. Geochem. J., vol.36, no.5, p.493-502.
Shinohara, H., Giggenbach, W. F., Kazahaya, K. and Hedenquist, J. W. (1993) Geochemistry of volcanic gases and hot springs of Satsuma-Iwojima, Japan: Following Matsuo. Geochem. J., vol.27, p.271-285.
(森川徳敏)