火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


マグマ混合プロセスの模式図

後カルデラ期火山岩(稲村岳,硫黄岳,昭和硫黄島およびマフィックインクルージョン)の岩石学的解析と化学分析結果に基づき,図のようなマグマ溜まりとマグマ混合プロセスが考えられています(Saito et al., 2003).

硫黄岳噴火(2200年前〜500年前)の直前に,玄武岩マグマが流紋岩マグマだまりの下部に上昇・接触し,わずかに混合したと考えられています.硫黄岳マフィックインクルージョンの全岩組成が玄武岩質安山岩組成であること,そのマフィックインクルージョンのほとんどの斜長石・輝石斑晶のコアは均質である(リムのみ変化)ことから,混合から噴火までの時間間隔は短かったと予想できます.

稲村岳噴火以前の硫黄岳噴火(5200年前〜3900年前)でもマフィックインクルージョンが存在するので,このような混合および噴火プロセスが硫黄岳の活動開始(5200年前)以降,定常的に起きている可能性があります.さらに,硫黄岳マグマの温度(960℃)が流紋岩マグマとしては比較的高温であることは,高温(1130℃)の玄武岩マグマが流紋岩マグマの下部に潜在し熱を流紋岩マグマに供給していた可能性を示唆しています.

一方,昭和硫黄島噴火(1934-1935年)の前に,玄武岩マグマと流紋岩マグマの混合が進み,安山岩マグマからなる中間層が形成されていたことが考えられています.昭和硫黄島マフィックインクルージョンの全岩組成の大きな変動は,この中間層内の結晶分化や混合割合の違いで生じた可能性があります.硫黄岳マフィックインクルージョンよりも昭和硫黄島マフィックインクルージョンの方が大きく,かつ,存在度が高いことも,中間層の形成が進んでいたことと調和的です.硫黄岳の最後のマグマ噴火が500年前で,その噴火ではマグマ混合が進んでいた形跡がないので,この中間層の形成は500年前以降に開始したと予想されています.

Saito et al. (2003)のFig.2を改変.