地質構造

火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

火山研究解説集:薩摩硫黄島
詳細版 目次

1 地質・岩石:

構造 噴火史 岩石 同位体・微量成分 メルト包有物

2 火山活動:

最近の活動 昭和硫黄島

3 火山ガス・熱水活動:

火山ガス SO2放出量 温泉 海底遊離ガス 土壌ガス 変質 ガス分別

4 放熱量:

衛星観測 総放熱量 火山熱水系

5 地球物理観測:

地震活動 地殻変動 その他

6 マグマ活動:

脱ガス過程 マグマ溜まり

G kikai caldera.jpg

  • 鬼界カルデラの地形図


薩摩硫黄島火山周辺の地質構造

硫黄島をふくむ鬼界カルデラ周辺の基盤岩とその構造は海底であり情報が少ないため推測の域を出ませんが,鹿児島県南部から南西諸島に続く,四万十帯の延長部が基盤を形成している可能性が高いです.
川辺ほか(2004)および斎藤ほか(2007)によれば,薩摩半島には,白亜紀の海洋プレート起源の付加コンプレックスと考えられる川辺層群高崎山層とその構造的上位である陸棚相の川辺層群知覧層が分布し,大隅半島側および種子島,屋久島には,古第三紀の付加コンプレックスである日向層群,日南層群相当層が分布しています.それらの堆積岩類を貫いて新第三紀中新世の花こう岩類が分布し,特に大隅半島,屋久島に大きな露出があります.またさらに中新世後期以降,第四紀に至る火山岩類が分布します.鬼界カルデラ周辺もこれらの岩石が基盤を形成しているものと考えられます.

鬼界カルデラ南側海域の音波探査記録解釈図

鬼界カルデラ周辺の海底の地質構造探査は1975年に地質調査所が行いました(Soya et al., 1976; 小野ほか,1982).それによると海底カルデラ地形の北側の海域では,ほぼ水平な地層が4層以上識別でき,そのうち最上位の地層は,層理が発達しほぼ一定の厚さで連続します.その下位層は音響的反射が不明瞭で,層厚はカルデラ縁に近づくと厚くなり,小野ほか(1982)はこの地層を竹島火砕流など鬼界カルデラ形成に関係する火砕流の水中堆積層と考えました.このような音響的反射不明瞭層は複数枚認められます.カルデラ縁を横切る3つの測線では,2つでカルデラ縁の位置にカルデラ縁で切断された音響基盤が認められますが,竹島と硫黄島間ではカルデラ外から続く堆積物に覆われており,音響基盤は露出しません.竹島-硫黄島間の海底は東西4km,南北4km,深さ300m以上の南に開いた凹地を作っており,カルデラ内への崩壊地形なのかもしれません.

海底カルデラの東縁を横切る測線では,2〜3段の西向きの崖が認められます.このうち東側の崖が古期カルデラ縁,西側の崖が新期カルデラ縁と考えられています(長井ほか,1977;小野ほか,1982).東側と西側の崖の間は,層理の明瞭な厚い堆積物が堆積しています.その中央部には伏在断層が認められ,伏在断層の西と東では堆積物の構造が異なります.すなわち,伏在断層の東では堆積物はほぼ水平で変形していないが,西側では東傾斜あるいは向斜構造をなし,変形しています.この堆積物は主に外側の古期カルデラ形成後にカルデラ内に堆積した堆積物で,伏在断層より西側の変形した堆積物は,新期カルデラ形成に伴う変位であると考えられます(小野ほか,1982).新期カルデラより西側には薄い表層堆積物に覆われた音響基盤をなす中央火口丘が分布します.

硫黄島の地質構造

地下水観測井柱状図および位置図

硫黄島の地下地質構造についても資料が少なく,不明な点が多くあります.

1970年代に深さ100〜150mの地下水観測井が島内で9本掘削され,採取されたコアの岩相および変質状況などが報告されています(吉田,1976;金原ほか,1977; →その他の観測(坑井,電気,磁気,重力,自然電位)).コアの岩石はいずれもかなり変質していますが,おおまかに構成岩石の区分がなされており,地下100m付近までの地下構造が推定できます.それによると,稲村岳と硫黄岳の中間の掘削井(No.1)では稲村岳溶岩の下位に流紋岩溶岩が海面下約70m付近まで存在し,同様の岩石が矢筈岳近傍を除き広く分布しています.矢筈岳近傍の2つの掘削井(No.4およびNo.6)では,矢筈岳を構成する苦鉄質溶岩および同質火砕岩が掘削井底まで分布します.

地下の変質状況については,溶岩は変質の程度が弱くおおむね新鮮であるのに対し,火砕岩は明らかに変質が進んでおり,特に基質部分は変質が著しいです.主な変質鉱物としては,クリストバライト・トリディマイトなどのシリカ鉱物,明礬石などの硫酸塩鉱物,モンモリロナイトなどの粘土鉱物が生成しています.吉田(1976)では,各掘削井のコアの変質状況を,

I.強酸性熱水により生成される明礬石が多量に出現するもの.

II,酸性熱水では生成されないモンモリロナイトによって特徴づけられるもの.

III. IとIIの特徴を合わせ持つもの.

の3つに大別しています.IIは中性に近い低温の熱水によるものです. 母岩の亀裂や空隙を埋めて変質鉱物が生成されていることや,酸性熱水の影響により生成される変質鉱物の大部分が地下水位下で出現していることから,熱水の通路となり易いところが変質作用の中心となっていると考えられます.

引用文献

川辺禎久・阪口圭一・斎藤 眞・駒澤正夫・山崎俊嗣(2004)20万分の1地質図幅「開聞岳及び黒島の一部」.産業技術総合研究所 地質調査総合センター.

金原啓司・茂野博・大久保太治(1977)薩摩硫黄島の地熱変質. 地質ニュース, no.272, p.9-17.

長井俊夫・菊地真一・瀬川七五三男(1977)鬼界カルデラの海底地形・海底地質構造. 地理学会予稿集, vol.13, p.194-195.

小野晃司・曽屋龍典・細野武男(1982)薩摩硫黄島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所, 80p.

斎藤 眞・小笠原正継・長森英明・下司信夫・駒澤正夫(2007)20万分の1地質図幅「屋久島」.産業技術総合研究所 地質調査総合センター.

Soya, T., Okuda, Y., Murakami, F. and Honza, E. (1976) Geological setting of the Kikai Caldera. Geol. Surv. Japan, Cruise Report, no.6, Ryukyu Island Arc, p.27-30.

吉田哲雄(1976)I.6. 地熱作用による岩石の変質. 昭和50年度サンシャイン計画委託調査研究成果報告書「火山発電方式に関するフィジビリティスタディ」,社団法人日本電機工業会,p.78-95.

(川辺禎久)