火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
薩摩硫黄島地質図2006年11月版
小野ほか(1982)による1:50,000地質図「薩摩硫黄島」に,最新のデータを加えて,改訂した地質図(川辺禎久作成).
硫黄島に分布する先カルデラ火山を構成するユニットは,矢筈岳火山と長浜溶岩流です.矢筈岳火山は薩摩硫黄島北部に分布する玄武岩〜安山岩質の小型の成層火山です.南半分は鬼界カルデラ壁に切られていますが,北斜面には一部溶岩流地形が残っています.薩摩硫黄島西部には厚さ70〜80mのデイサイト質の長浜溶岩が分布しています.
これらのユニットを小アビ山火砕流堆積物が覆っています.火砕流堆積物の下部は強溶結し,特に谷地形を埋めるところでは厚さ20-30mに達します.火砕流堆積物上部は溶結度が低い部分と高い部分が互層しています.平家城には小アビ山火砕流堆積物を覆う鬼界-籠港降下テフラが露出しています.鬼界-籠港降下テフラは,安山岩質降下火山灰・火山砂と同質軽石層からなり,桜島起源の約13000年前の薩摩火山灰を挟みます.
約7300年前に鬼界カルデラは最新の大規模火砕流噴火(鬼界-アカホヤ噴火)を起こしました.このときの噴出物は下位から幸屋(船倉)降下軽石,船倉火砕流堆積物,竹島火砕流堆積物に区分されています(小野ほか,1982).硫黄島では幸屋(船倉)降下軽石は平家城で竹島火砕流堆積物直下に認められます.硫黄島の竹島火砕流堆積物は,異質岩片が多い火口近傍相と考えられる堆積相を示します.
硫黄島に分布する後カルデラ火山は流紋岩質の硫黄岳と玄武岩質の稲村岳です.
稲村岳は3900年前頃に活動し,2200年以前に活動を停止しました,平家城,矢筈岳,長浜溶岩上にはその降下火砕物が堆積しています.また溶岩流も複数回流出し,東温泉から長浜にかけての薩摩硫黄島南海岸に露出しています.
硫黄岳は流紋岩〜デイサイト質の厚い溶岩流・溶岩ドームと本質転動角礫岩(溶岩が噴出直後に崩落し角礫岩として堆積したもの)からなる火山体です.鬼界アカホヤ噴火後,流紋岩質マグマの活動が現在の硫黄岳付近で5200年前頃に再開しました.ただし,降下火砕物の被覆関係から,現在露出する山体表面は稲村岳の活動終了後,2200年前以降に形成されたらしく,活動初期の噴出物は硫黄岳本体には露出していません.侵食の程度,遠望される被覆関係から,東半部が古く,西側山体が新しいと考えられています.山頂部を構成する流紋岩溶岩ドームは1100年前以前に形成されました.その後,山頂部で爆発的な噴火が500-600年前まで続き,キンツバ火口,大穴火口が形成されました.1200年前および500-600年前の噴火では,火砕流が西側山麓まで流下しています.
薩摩硫黄島周辺の海域にも後カルデラ火山が存在しています.大部分は海底にありますが.薩摩硫黄島南方の浅瀬には流紋岩溶岩が海上に露出しています.1934年9月には薩摩硫黄島東方約2kmで海底噴火が起こり,海上に流紋岩溶岩からなる昭和硫黄島が形成されました.
この地図の作成に当たっては,国土地理院長の承認を得て,同院発行の2万5千分の1地形図,数値地図25000(地図画像) 及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである.(承認番号 平19総使,第543号)