火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


メルト包有物の特徴と火山岩との比較

メルト包有物は,マグマ中で斑晶が晶出する際に, 斑晶中に周囲の珪酸塩メルトが捕獲されたものです(例えば,Roedder, 1979;Roedder, 1984).この状態でマグマが地表に噴出し急冷されるとメルトはガラスになり,これをガラス包有物といいます.

火山岩は,マグマが地表に噴出し冷却したものです.図に示すように,地下の高圧状態に保たれていたマグマが地表に噴出すると,1気圧の低圧状態になり,冷却して火山岩になるまでに,マグマに溶け込んでいた揮発性成分はガスとして抜けてしまいます.このため,火山岩は揮発性成分に関し,抜けがらと言えます.

一方,メルト包有物は鉱物に囲まれていること,鉱物中の元素の拡散速度は小さいことから,揮発性物質に関し,火山岩のような噴火時の脱ガスや外部からの二次的な汚染が少なく,地下のマグマの揮発性物質の濃度を保持しています.従って,メルト包有物はマグマの揮発性成分濃度を知るための最適な試料であり,この十数年でメルト包有物を用いた火山活動に関する研究が飛躍的に発展しています.詳しくは,Lowenstern (2003)や斎藤(2005)の総説を参照下さい.

メルト包有物の大きさは,大きくても数100μm程度であり,含まれる揮発性物質は微少量(数wt%以下)なので,その分析には数10μm程度の微小領域を分析できる高感度の局所分析法が必要です.

写真は,薩摩硫黄島火山岩の斜長石に含まれるガラス包有物で,大きさ100μm程度です.

斎藤(2005)Fig.1を改変.