火山ガスと温泉
火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
火山研究解説集:薩摩硫黄島 概要版 目次 |
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- 火山ガス・温泉の分別過程断面図
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はじめに
硫黄島の硫黄岳からは数百年以上の間,噴煙(火山ガス)が活発に放出されています.
硫黄岳の地下のマグマから放出された火山ガスが,山頂や山麓から放出している噴気・噴煙,海岸の温泉,土壌ガス,変色海水,海底からの遊離ガス,そして山頂でみられる熱水変質作用による珪石生成など様々な現象を発生させています.
- 火山ガス・温泉の分布図
高温の火山ガス,低温の火山ガス,土壌ガスや温泉は,硫黄岳の山頂を中心として同心円上に分布しています(上図:火山ガス・温泉の分布図).
この火山ガスや温泉の分布は,火山ガス・温泉の分別過程断面図で示すように,地下の火山ガスや地下水の流れや温度分布などに規制されています.
(詳しくは→詳細版3. 火山ガス・熱水活動へ)
山頂火口内の竪穴状火孔
- 2000年10月の山頂火口底
硫黄岳の山頂火口内には,直径約200mの竪穴状火孔があり火山ガスが放出されています.この火孔は1990年代に大量の火山灰の放出と共に形成されました.
上の写真は2000年10月の山頂火口底で,この時の竪穴状火孔の直径は約50mで,ほぼ連続的に火山灰を放出していました.
(詳しくは→詳細版2. 火山活動の最近の火山活動の推移へ)
高温火山ガス
硫黄岳の山頂火口周囲には温度が800~900℃の高温噴気孔が分布しています(火山ガス・温泉の分布図を参照).
写真の大鉢奥噴気帯では,高温噴気孔の周囲に白色灰状の変質帯が広がっており,重金属に富む昇華物が分布しています.特に鮮やかな青色のモリブデンブルーが特徴的です.
高温噴気孔は昼間でも中側の赤熱を観察することができます(写真:1991年大鉢奥の最高温度噴気孔). この噴気最高温度は,マグマの温度よりわずかに低いだけであり,高温火山ガスは地表近くのマグマから放出されていると考えられています.そのため,地下のマグマの情報を得るために,高温火山ガスの観測が行われています.
山頂火山ガス
硫黄岳山頂周辺には,高温噴気孔以外にも100〜800℃の様々な温度の噴気孔が分布しています(火山ガス・温泉の分布図を参照).
これらの山頂火山ガスは高温火山ガスに似た組成を持っており,高温火山ガスの冷却により生じていると考えられています.
山頂火口内の低温噴気孔群では,火山ガスが冷えて析出した硫黄が固まり,煙突状になっています.
山麓低温火山ガス
100℃前後の低温噴気孔は硫黄岳斜面中腹の谷筋にも分布しています(火山ガス・温泉の分布図を参照).
この山麓の低温火山ガスは,冷却された火山ガスと地下水(雨水が起源)が混合してできた酸性流体が沸騰したものです.例えるなら,お湯を沸かしたときにでる蒸気に相当し,そのため温度は100℃前後です.火山ガス起源の水溶性の酸性ガス成分(二酸化硫黄,塩化水素など)は酸性凝縮水(お湯の方)に残るため,低温火山ガスにはほとんど含まれていません.
(火山ガスの詳細については→詳細版3. 火山ガス・熱水活動の火山ガスへ)
熱水変質岩
山頂周辺(火山ガス・温泉の分布図を参照)には,珪石が分布しています(写真:大谷平珪石採掘現場,大谷平の位置や変質帯の詳細はこちら).珪石は,火山ガスが凝縮(液化)して生じた酸性の熱水と火山岩が反応し,火山岩からシリカ(SiO2)以外の成分が溶脱し生じたものです.この珪石は,かつて住宅用建材の原料として採掘されていました.
硫酸酸性泉
左の写真の東温泉のように,硫黄岳山麓の海岸(火山ガス・温泉の分布図を参照)からは強酸性の硫酸酸性泉が湧出しています.
この温泉が海水と混合することにより,溶存していたアルミニウムやシリカによる白色の沈殿による変色海域を生じています(写真の左は赤湯,中央は東温泉).
この硫酸酸性泉は,火山ガスと地下水が混合して生じた酸性流体が地下を流下する過程で火山岩を溶出することにより生じています.
含鉄炭酸泉
稲村岳山麓の海岸(火山ガス・温泉の分布図を参照)からは,弱酸性の含鉄炭酸の食塩泉(長浜温泉・赤湯)が湧出しており,海水との混合により鉄水酸化物の赤褐色沈殿による変色海域が生じています.硫黄島港は,長浜温泉が湧出し,港内の海水はこの鉄水酸化物の赤褐色沈殿で変色しています.
食塩泉
海水の加熱により生じた食塩泉が坂本温泉,昭和硫黄島に分布します(火山ガス・温泉の分布図を参照).
(温泉の詳細については→詳細版3. 火山ガス・熱水活動の温泉・地下水へ)
土壌ガス
硫黄島のカルデラ内部の低地の広い範囲で,土壌ガス経由での火山性のCO2の放出があります(火山ガス・温泉の分布図を参照).
特に硫黄岳の周辺,カルデラ縁,温泉の湧出地点の周辺で火山性CO2の放出が多く,また,土壌ガスの放出量が多い場所は地温も高い場合が多いです(写真:土壌ガス放出地帯).土壌ガス中の火山性CO2は,火山ガスが上昇過程で冷却や地下水との反応により水溶性の酸性成分が除かれた残りであると考えられています.
海底遊離ガス
東温泉や昭和硫黄島の沿岸海底(火山ガス・温泉の分布図を参照)からは遊離ガス(気泡)が生じています(写真:海底遊離ガス).海底遊離ガスは土壌ガスと同様に,火山ガスの水溶性成分が海水に溶解した残りです.
(詳しくは→詳細版3. 火山ガス・熱水活動の海底遊離ガスへ)
参考文献
篠原宏志・風早康平・J. W. Hedenquist(1993)薩摩硫黄島の火山ガス・温泉・熱水系.地質ニュース,no.472,p.6-12.
(篠原宏志)