マグマの動き

火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

火山研究解説集:薩摩硫黄島
概要版 目次
  1. 薩摩硫黄島の紹介
  2. 最近の噴火
  3. 火山の生い立ち
  4. 火山ガスと温泉
  5. 火山から放出される熱
  6. 火山の地下構造
  7. マグマの動き
  8. 危険を避けるために

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  • マグマ溜まりの進化モデル


Table of Contents

はじめに

鬼界カルデラと薩摩硫黄島火山の位置

薩摩硫黄島火山は,約7300年前の巨大カルデラ形成後も活発な火山活動が継続し,主に海面下に没しているカルデラ内において多量のマグマ(19km3以上)を噴出しています.従って,カルデラ噴火後もカルデラの地下に大型のマグマ溜まりが存在していると考えられています.

硫黄島においては,カルデラ噴火後,硫黄岳,稲村岳が噴火により誕生し,硫黄岳では現在もなお,800-900℃に達する高温の火山ガスを放出しています.この高温火山ガス成分のほぼ全てがマグマ起源です. (詳しくは→詳細版3. 火山ガス・熱水活動火山ガスへ)

その量は,二酸化硫黄(SO2)放出量観測によると日量1500トンに達します(詳しくは→詳細版3. 火山ガス・熱水活動SO2放出量へ).このような多量のマグマ起源ガスを放出し続けるためには,大量のマグマが脱ガスする必要があります.

この章では,薩摩硫黄島火山で,過去(7300年前)から現在に至るまで,マグマが地下でどのように動いているかについて,紹介します.

マグマ活動

硫黄岳山頂火口から放出される火山ガスの温度は非常に高い(最高800-900℃)ことから,この火山ガスはマグマから放出されてすぐに地表に到達していると予想されます.すなわち,マグマが地表付近にまで上昇してきている可能性が考えらます.

この高温火山ガスの97%は水で構成されています.水はマグマに比較的溶解しやすいため,マグマから水を放出するには,比較的低圧の環境にマグマが存在している必要があります.このことも,マグマが地表付近にまで上昇してきていることを示唆します.

マグマ起源の水の放出量は,火山ガスの化学組成・同位体組成とSO2放出量値から日量40000トン程度(常温1気圧下の液体の水で1辺34mの立方体の体積になる)と見積もられています.このような非常に多量の水を放出するには,マグマが浅い場所に存在し,かつ,活発に脱ガスをしている必要があります.

では,どのくらいの量のマグマが,どのくらいの深さで脱ガスしているのでしょうか?

この問いに対しては,マグマに火山ガス成分が元々どの程度含まれているのかを測定することにより答えることができます.ここでは結果のみ示しますが,脱ガスするマグマの量は一日あたり400万トン以上に達し,脱ガス圧力は約20気圧と推定されています.

この圧力は硫黄岳火口から深さ数100mに相当し,硫黄岳の標高(704m)を考えると,マグマの脱ガスが起きている場所が海水準よりも浅い可能性が高いです.広帯域地震計による観測で脱ガスに関連すると思われる震動の中心が求められていますが,海水準よりも高い位置にあります.マグマ溜まりから地表に向かって伸びているマグマ柱の上面(マグマヘッド)がそこにあり,マグマからのガスの放出が起きている可能性があります(詳しくは→詳細版5. 地球物理観測地震活動へ). また,算出された脱ガスマグマ量は,1辺100mの立方体のマグマに相当します.1年間では,0.3-0.4km3ものマグマが脱ガスしていることになります.

ガス放出のしくみ

火道内マグマ対流モデル

ここ硫黄島では,古文書(平家物語)の記録や岩石の変質状況(→詳細版3.火山ガス・熱水活動熱水変質へ)を元に,約1000年の長い歴史にわたり大量のガスを放出し続けていると考えられています.火山ガス放出量の長期変動(ガス放出量観測は1970年代から始まったので,厳密にはそれ以前の放出量はわからない)やガス成分濃度のマグマによる違い(2種類のマグマが地下に存在していると推定されている→詳細版1.地質・岩石)を考え合わせても,この間に脱ガスしたマグマの総量は体積にして100km3を優に超えます.

このような大量のマグマが非常に浅い場所に存在している証拠はありません.逆にこのような大量のマグマは地下深部のマグマ溜りにのみ存在しています.しかし,この大量のガスを脱ガスするにはマグマが低圧環境下になくてはならないのも事実です.

この一見矛盾した状態を説明するプロセスがあり,火道内マグマ対流プロセスと呼ばれています(→詳細版6.マグマ活動脱ガス過程).火道がマグマ溜りと地表近くの低圧環境の場とつながっていれば,深部のマグマ溜りからマグマが火道内を上昇して低圧環境下になることが可能です.脱ガスしたマグマは脱ガスしていないマグマよりも密度が高くなるため,脱ガス後は火道内を沈降してマグマ溜りに戻ります.こうして,ガスを含んだマグマは,脱ガスしたマグマと入れ替わるように,火道内を上昇し,また,脱ガスするというプロセスを繰り返します.このようにして,大量のマグマ起源ガスが火山から放出されていると考えられます.

(詳しくは→詳細版6.マグマ活動脱ガス過程へ)

現在のマグマ溜まり

上記のように,カルデラ形成後から現在までの多量のマグマ(19km3以上)を噴出しています.また,現在の火山ガス放出量から見積もられた,噴出せずに地下で脱ガスしたマグマの総量が100km3以上と推定されています.以上のことから,薩摩硫黄島火山下には7300年前のカルデラ噴火の後も定常的に大型のマグマ溜まりが存在し,活発な噴火活動を継続していると考えられる.


現在のマグマ溜まりのモデル

では,そのマグマ溜まりは,どのくらいの深さにあって,そのような性質を持ち,どのような活動をしているのでしょうか?

これまで,火山岩の岩石学的解析,メルト包有物の火山ガス成分分析,火山ガスの地球化学的観測,地球物理学的観測等が行われ,左図のようなマグマ溜まり像が明らかになりつつあります.

マグマ溜まりは,その上面が深さ3km程度にあり,下部に玄武岩マグマ,上部に流紋岩マグマがあり,中間に両者の混合によって生じた安山岩マグマが存在しています.玄武岩マグマ(1130℃)は流紋岩マグマ(970℃)より熱く,かつ,火山ガス成分に富み,流紋岩マグマに熱とガスを供給しています.前述の大量の火山ガス放出は,この上部の流紋岩マグマが火道内を上昇し,地表近くで脱ガスしているためです.脱ガスした流紋岩マグマは,火道および流紋岩マグマ溜まりを沈降し,下部の玄武岩マグマから安山岩マグマを通してガス成分を供給されています.すなわち,現在地表で放出されている火山ガスのほとんどは,地下深くに潜在している玄武岩マグマを起源としていると考えられています.

(詳しくは→詳細版6. マグマ活動マグマ溜まりへ)

マグマ溜まりの進化

マグマ溜まりの進化モデル

では,このようなマグマ溜まりはどのように形成されたのでしょうか?

約7300年前のカルデラ形成から1934-1935年の昭和硫黄島噴火までの岩石やメルト包有物を詳細に検討すると(→詳細版1.地質・岩石岩石学およびメルト包有物),右図のようなマグマ溜まりの進化が浮かび上がってきました.

カルデラ噴火直前には(の左),深さ3-7kmにかけて,巨大な流紋岩マグマだまりが存在していました.そして,破局的なカルデラ噴火が起こり,この流紋岩マグマが噴出します.

このカルデラ噴火後も,流紋岩マグマの一部は噴火せずに残りました(の中央).火山岩の解析に基づき,流紋岩マグマだまりの下部に玄武岩マグマが上昇してきた可能性が指摘されています.約5200年前に流紋岩マグマが噴火し,硫黄岳の形成が始まります.約3000年前頃には玄武岩マグマが噴火し,稲村岳を形成します.

約2200年前には再び流紋岩マグマの噴火が開始し,500年前程度まで継続し,現在の硫黄岳ドームを形成しました.この硫黄岳活動時期に玄武岩マグマ溜まりが流紋岩マグマ溜まりの下部近くにあった可能性がある.また,この流紋岩マグマ溜まりでは,約1000年前から火道内対流による活発な火山ガス活動を開始し,現在まで継続しています.最後の硫黄岳噴火(約500年前)以降(の右)に,玄武岩マグマが流紋岩マグマだまりの下部に進入し混合,安山岩マグマを形成します.1934-1935年にはこの流紋岩マグマと少量の安山岩マグマが噴出し,昭和硫黄島を形成しています.

(詳しくは→詳細版6. マグマ活動マグマ溜まりへ)


(風早康平・斎藤元治)