火山の生い立ち
火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
火山研究解説集:薩摩硫黄島 概要版 目次 |
---|
- 長浜溶岩上から見た硫黄島
Table of Contents |
はじめに
硫黄島と竹島,それから周辺の岩礁群は,鹿児島県薩摩半島の南約50km付近にあり,海底カルデラである鬼界(きかい)カルデラに関係する火山噴出物でできています.このうち硫黄島にある硫黄岳では,現在も活発な噴気活動と,小規模な火山灰の放出が続いています.
ここでは,薩摩硫黄島火山の地質の概要と鬼界カルデラを含めた噴火史について紹介します.
鬼界カルデラとその噴出物
- 硫黄島周辺の海底地形図
鬼界カルデラは東西20km,南北17kmの大型の海底カルデラです.図の赤破線がカルデラ縁の位置を示します.海底のカルデラの中にはカルデラができた後に活動した後カルデラ火山が多数認められます.
鬼界カルデラからは過去少なくとも4回の大規模火砕流噴火が発生していると考えられています.これらの大規模火砕流堆積物のうち,硫黄島には小アビ山火砕流堆積物と竹島火砕流堆積物が分布します.このうち竹島火砕流堆積物は鬼界カルデラ最新の大規模火砕流噴火(鬼界-アカホヤ噴火)による堆積物で,約7300年前に噴火し,鹿児島県南部まで火砕流(幸屋(こうや)火砕流)が到達し,当時の縄文文化に大きな打撃を与えました.また,同時に降り積もった降下火山灰(アカホヤ火山灰)は,西日本から関東地方付近までの日本の広い範囲に降り積もり,考古学や古環境学では非常に重要な指標火山灰になっています.
薩摩硫黄島火山
- 薩摩硫黄島地質図 (2006年11月版)
硫黄島は鬼界カルデラの北西縁に位置する火山島で,鬼界-アカホヤ噴火前の先カルデラ火山の噴出物と,硫黄岳,稲村岳の2つの後カルデラ火山から成り立っています.
先カルデラ火山
硫黄島に分布する先カルデラ火山を構成するユニットは,矢筈岳(やはずだけ)火山と長浜溶岩流,小アビ山火砕流堆積物,鬼界-籠港(こもりこう)降下テフラです.
矢筈岳火山は硫黄島北部に分布する玄武岩〜安山岩質の小型の成層火山です.南半分は鬼界カルデラ壁に切られていますが,北斜面には一部溶岩流地形が残っています.北側の海食崖の露頭をみると,玄武岩質溶岩流やスコリアなどが積み重なって矢筈岳を作っている様子がよくわかります.硫黄島西部には厚さ70〜80mのデイサイト質の長浜溶岩流が分布しており,高い崖を作っています.
これらをカルデラ形成期に噴火した小アビ山火砕流堆積物が覆っています.小アビ山火砕流堆積物は下部に細粒(径<2cm)の降下軽石を伴い,それを火砕流が覆っています.この火砕流堆積物の多くは強く溶結して硬くなっており,谷地形を埋めるところではレンズ状に厚さ20-30mにもなります.
薩摩硫黄島北東端の平家城には,小アビ山火砕流堆積物を覆って,鬼界-籠港降下テフラが露出しています.鬼界-籠港降下テフラは,鬼界カルデラに関係する安山岩質火山から噴出したものと考えられており,このテフラには桜島起源の約13000年前の薩摩火山灰が挟まれています.
竹島火砕流堆積物
約7300年前に鬼界カルデラは最新の大規模火砕流噴火(鬼界-アカホヤ噴火)を起こしました.このときの噴出物は噴出順に幸屋(船倉)降下軽石,船倉火砕流堆積物,竹島火砕流堆積物に区分されています(小野ほか,1982).硫黄島には幸屋(船倉)降下軽石と竹島火砕流堆積物が分布します.
竹島火砕流は白色軽石を含む火砕流堆積物で,海を渡って九州南部にまで達し,そこでは幸屋火砕流と呼ばれています.竹島では,東部の台地をほとんど覆い,全体で20〜30m程度の厚さになります.一方,硫黄島では,それより薄く,平家城,坂本付近,長浜熔岩上に分布します.硫黄島の竹島火砕流堆積物は,溶岩片など類質岩片が多く,軽石が相対的に少ない,火口に近いと考えられる堆積物の様子を示しています.
後カルデラ火山
硫黄島に分布する後カルデラ火山は流紋岩質の硫黄岳と玄武岩質の稲村岳です.鬼界-アカホヤ噴火後,流紋岩質マグマの活動が現在の硫黄岳付近で5200年前頃に再開しました.稲村岳は3900年前頃に噴火しています.これらの火山活動で放出された火山灰やスコリアは,平家城,矢筈岳,長浜溶岩上に堆積しています.降下火砕物は腐食土壌の発達で区分され,Kawanabe and Saito(2002)は山麓部で8つの降下テフラ部層に分けています.
稲村岳
稲村岳は薩摩硫黄島集落の東に位置する小型の玄武岩質複成火山です.約3900年前に噴火を開始し,2200年前以前に活動を停止しました,降下スコリア層は4枚以上あります.また溶岩流も複数回流出し,東温泉から長浜にかけての硫黄島南海岸に露出しています.ほとんどの噴出物が陸上のマグマ噴火による堆積物ですが,稲村岳降下火砕物の上部部層にマグマ水蒸気爆発によるサージ堆積物があり,長浜集落周辺の長浜溶岩の上に分布しています.
硫黄岳
硫黄岳は流紋岩〜デイサイト質の厚い溶岩流・溶岩ドームとそれらが噴出したときに崩れてできた本質転動角礫岩からなる火山体です.硫黄岳付近での活動は約5200年前には始まっていました.ただし,現在露出する山体表面は稲村岳の活動終了後,2200年前以降に形成されたらしく,活動初期の噴出物は硫黄岳本体には露出していません.山頂部を構成する流紋岩溶岩ドームは1100年前以前に形成されました.その後も山頂部で爆発的な噴火が500-600年前まで続きました.1200年前および500-600年前の噴火では,火砕流が西側山麓まで流下しています.
1996年頃からは,山頂火口から,変質火山灰を放出するごく小規模な噴火を度々繰り返しています.
(硫黄岳の最近の活動の詳細については→詳細版2. 火山活動の最近の火山活動の推移へ)
周辺の後カルデラ火山
硫黄島周辺の海域には後カルデラ火山が存在しています.大部分は海底にありますが.硫黄島南方の浅瀬には流紋岩溶岩が海上に露出しています.1934年9月には薩摩硫黄島東方約2kmで海底噴火が起こり,海上に流紋岩溶岩からなる昭和硫黄島が形成されました.
(昭和硫黄島噴火の詳細については→詳細版2. 火山活動の昭和硫黄島噴火経緯へ)
(噴火史の詳細については→詳細版1. 地質・岩石の噴火史へ)
引用文献
小野晃司・曽屋龍典・細野武男(1982)薩摩硫黄島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所, 80p.
Kawanabe, Y. and Saito, G. (2002) Volcanic activity of the Satsuma-Iwojima area during the past 6500 years. Earth Planets and Space,vol.54,p.295-301.
(川辺禎久)