薩摩硫黄島の紹介

火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

火山研究解説集:薩摩硫黄島
概要版 目次
  1. 薩摩硫黄島の紹介
  2. 最近の噴火
  3. 火山の生い立ち
  4. 火山ガスと温泉
  5. 火山から放出される熱
  6. 火山の地下構造
  7. マグマの動き
  8. 危険を避けるために

SatsumaIwojima trim.jpg

Table of Contents

薩摩硫黄島火山とは

薩摩硫黄島(さつまいおうじま)(以下,本ホームページ内では「硫黄島」と呼ぶことにします)は,九州の南端,薩摩半島の南約50kmに位置する火山島です(図:鬼界カルデラおよび薩摩硫黄島の位置).隣に位置する竹島と共に,巨大カルデラである鬼界(きかい)カルデラの縁辺を形成しています(鬼界カルデラ地形図).

島弧である日本の火山のほとんどは,火山フロントと呼ばれる火山列を成して並んでいますが,薩摩硫黄島火山(鬼界カルデラ)も,九州の北から九重,阿蘇,霧島,桜島,開聞岳などが並ぶ火山フロント上に位置しています.薩摩硫黄島火山は火山フロントを成す南西諸島の北端に位置し,南には口永良部島,中島,諏訪之瀬島などの活火山が続いています.

火山フロントや国内の火山の位置や噴火履歴については,産総研の活火山データベースを参照下さい.

硫黄島は,竹島,黒島と共に,鹿児島県三島村の一部であり,島内の人口は117名(平成19年3月31日現在)です(鹿児島県三島村ホームページより).島への交通として,村営定期船が鹿児島港と竹島・硫黄島・黒島の間をほぼ1日おきに往復しています.鹿児島港から硫黄島へはこの船で約4時間かかり,宿泊施設は5つあります(平成19年現在).

火山と温泉と史跡の島

この島は,平家物語で俊寛の流刑の地として描かれている鬼界が島であると考えられており,史跡の島と言えます.一方で,島の東半分を占める硫黄岳では絶えず噴煙を上げ,島内の各地には温泉がわき出し(→火山ガスと温泉),海岸には露天風呂もある,火山と温泉の島でもあります.

孔雀が島内を歩き回る非常にのどかな南の島ですが,気象庁火山活動度の分類では最も活動度の高いAランク火山13個の一つに指定されており,れっきとした活火山です(日本の活火山のランク分けについては気象庁ホームページを参照下さい).また,最近の調査から,500-600年前に硫黄岳で爆発的な噴火が起きていたことがわかっています(→最近の噴火).

昭和初期には海底噴火が発生し,硫黄島の東北東2kmの沖合に昭和硫黄島を作っていますが,これは昭和時代に国内で起こった噴火の中では最大規模です.火山ガス放出活動も活発で,近年噴火した三宅島,桜島,浅間山と同様な放出量があります(→最近の噴火).岩肌が露出し,もくもくと噴煙を上げている硫黄岳を見ると,あらためてそのことを思い出されます.

硫黄岳での硫黄・珪石採掘

大谷平の珪石採掘現場後
1960年代の硫黄岳山頂地図


硫黄島の山頂では古くは硫黄が,最近では珪石(けいせき)の採掘が行われていました.最も古くは平家物語にその記載が残されています.

この硫黄は元々は火山ガスに含まれていた硫黄が沈積したものであり,また,珪石は,火山ガスが凝縮して生じた強酸性熱水が火山岩と反応して生じたものです.従って,これらの鉱石も温泉と同様に人類への「火山の恵み」と言えます(詳しくは→詳細版3. 火山ガス・熱水活動熱水変質へ).

硫黄の採掘のために登山道も整備され,山頂火口内にも石垣を組んだ道が作られていました.右図は1960年代に描かれた山頂部の地図ですが,山頂火口内縁の急斜面にも道が作られていることが判ります.硫黄精錬所も山頂部に作られ,硫黄岳から稲村岳を経て長浜に至る索道により硫黄の運搬が行われた時代もありました.

硫黄の採掘は,硫黄価格の低下と共に昭和半ばで終了しましたが,そのしばらく後に山頂部での珪石の採掘が行われるようになりました.重機を用いた採掘が行われていましたが,1997年以降採掘は休止されています.

薩摩硫黄島火山の特徴

火山学的に重要なことは,このような活動的な火山にもかかわらず,火口内での調査が可能であること,そして,高温(800〜900℃)の火山ガスを採取できることです.一般的に活動的な火山では,噴火の危険や,急峻な地形,脆い岩質等で,火口内に入ることはできません.また,高温火山ガスはマグマから地表へ移動する過程でほとんど組成が変化していないので,その観測からマグマに関する情報を読み取ることができます.このような高温火山ガスを噴気孔から直接採取できる火山は,世界的にみても,この薩摩硫黄島火山以外には,択捉島の茂世路岳(Kudriavy火山)くらいです.

火口内に入れるとはいえ,内部は酸性のガスが充満した高温の灼熱地帯であり,観光客は入ることができません.上の写真(高温火山ガスの観測)は火山ガスの直接採取の風景ですが,写真内の人物のように,酸性ガスから目や呼吸器を守るためにゴーグルとガスマスクの携帯は必須です.また,高温噴気孔の近くの地面は,数10cmも掘ると数100℃になり(→火山から放出される熱),底の厚い登山靴を履いていても熱いため,耐熱手袋を足の下に敷いています.

このように,火口内は,言わば,火山研究者の3K(汚い,きつい,危険)「職場」ですが,このような悪状況の元で詳しい調査や地道な観測を行った結果,火山ガスの起源や,火山ガスと山腹・山麓に湧出する温泉の関係(→火山ガスと温泉),どのようにして火山ガスがマグマから放出されているか,マグマはどこにどのくらいあるのか(→マグマの動き),といった事柄がわかってきました.

この火山研究解説の概要版では,一般の方や防災関係の方が読むことを念頭に,薩摩硫黄島火山がいつどのように形成されたか(→火山の生い立ち),現在の火山の内部構造(→火山の地下構造)や火山活動について,写真や図表を用いて解説しています.火口内や海底など,観光ではなかなか行くことのできないような場所の写真も載せているので,それらを通じて火山研究者の現地調査を疑似体験していただき,火山や火山学に興味を持っていただけたら幸いです.さらに,興味を持たれた方は,より詳しい解説がある詳細版もご覧下さい.


(川辺禎久・斎藤元治・篠原宏志)