危険を避けるために
火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
火山研究解説集:薩摩硫黄島 概要版 目次 |
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- 硫黄岳西麓の火山弾と火砕流堆積物
活火山である薩摩硫黄島火山では,現在も火山ガスの放出が続き,微小な地震活動も起きています.また,ときおり小規模な変質した火山灰を放出する噴火も起きています.
(詳しくは→詳細版2. 火山活動の最近の火山活動の推移へ)
本章では硫黄島において想定される火山災害について概略を述べます.
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火山ガス
山頂火口からは一日あたり約1300トンの二酸化硫黄(SO2)ガスが放出されています.SO2ガスは酸性雨の原因となり,金属を腐食させます.人間に対しては呼吸器系や粘膜にダメージを与え,高濃度の場合はもちろん,ぜんそくなど呼吸器系疾患がある場合には比較的低い濃度でも急性発作による死の恐れがあるほか,長期間吸い続けるとぜんそくなどを引き起こします(平林,1986;小坂,1992).幸い主な放出源である山頂火口の標高が高く,また集落も卓越風の風上側にあるため,定常的に住民が高濃度のSO2ガスにさらされる可能性は少ないです.しかし,不用意に山頂火口に近づくと危険であり,ガスマスクの使用などの対策,風向き等への注意が必要です.
(火山ガスの詳細については→詳細版3.火山ガス・熱水活動へ)
火山灰・軽石の噴出
1998年から発生している,ごく小規模な噴火に伴う火山灰の集落への降下量は少量で,生活への影響は限定的でした.しかし,硫黄岳周辺の過去の噴火による堆積物を観察してみると,ここ1000年ほどの間に火山灰が1m以上堆積しているのがわかります.噴火が今以上に活発化すれば,火山灰の放出量も増えることが予想されます.火山灰放出量が増えると,農作物への被害や健康への悪影響も懸念されるほか,降雨時の土石流の危険性が増えます.
硫黄岳からマグマを噴出する最新の噴火は約500-600年前に起き,硫黄岳山麓まで火山弾と噴煙柱崩壊型の火砕流が到達しました.また,1100-1200年前には軽石を放出する噴火があり,放出された軽石の一部は竹島まで到達した可能性があります.もし,マグマ活動が活発化すれば,同様の火山弾・軽石の降下,山麓に達するような火砕流の流下が起きる可能性があります.噴火災害を未然に防ぐために,火山活動の監視を行うとともに,ハザードマップの作成などを通して緊急時の避難計画を作っておく必要があります.
(硫黄岳の噴火の詳細については→詳細版1.地質・岩石の噴火史へ)
溶岩流・山体崩壊
最近1200年間は硫黄岳での溶岩流の流出は起きていません.一方,1934-1935年に起きた昭和硫黄島を作った海底噴火では,溶岩流の流出により海底溶岩ドームが形成されました.また,高温の火山ガスを放出し続けていることからマグマヘッド(火道内のマグマ柱の上面)は地下の比較的浅部にある可能性が高く,将来それが地表または海底に噴出する可能性は否定できません.粘性の大きな流紋岩質マグマの場合,マグマの上昇に伴う山体の変形などにより,山体崩壊を起こす可能性もあります.その場合,山体崩壊堆積物による直接の破壊のほか,それが海に流れ込んで津波を発生させることも考えられます.
海底噴火
1934-1935年の海底噴火では,海底に溶岩ドームが形成され,昭和硫黄島として海上に現れたほか,巨大な軽石が周辺海底に堆積しました.
幸い1934-35年の海底噴火は水深が深く,ゆっくりと流紋岩質マグマが噴出したため,爆発的な噴火は発生しませんでした.しかし,浅い海底で噴火したり,噴出率が高い場合には,爆発的なマグマ水蒸気爆発が起きる可能性があります.
(1934-1935年の海底噴火の詳細については→詳細版2. 火山活動の昭和硫黄島噴火経緯へ)
過去には,稲村岳の活動後期にマグマ水蒸気爆発が稲村岳西方,現在の長浜集落近くで発生し,周辺に岩塊を飛散させ,火砕サージが発生しました(Kawanabe and Saito, 2002).流紋岩質マグマでもマグマ水蒸気爆発は起こりうるため,的確に噴火予兆を捉えて,避難する体制を整える必要があります.
引用文献
平林順一(1986)火山ガス災害と化学的噴火予知の現状.火山,vol.30, p.S327-S338.
Kawanabe, Y. and Saito, G. (2002) Volcanic activity of the Satsuma-Iwojima area during the past 6500 years. Earth Planets and Space, vol.54, p.295-301.
小坂丈予(1992)火山ガスによる中毒災害.中毒研究,vol.5,p.123-132.
参考文献
小野晃司・曽屋龍典・細野武男(1982)薩摩硫黄島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所,80p.
宇井忠英編(1997)火山噴火と災害.東京大学出版会,219p.
(川辺禎久)