火山の地下構造

火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

火山研究解説集:薩摩硫黄島
概要版 目次
  1. 薩摩硫黄島の紹介
  2. 最近の噴火
  3. 火山の生い立ち
  4. 火山ガスと温泉
  5. 火山から放出される熱
  6. 火山の地下構造
  7. マグマの動き
  8. 危険を避けるために

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  • 重力異常図


Table of Contents

はじめに

火山体の地下構造を推定するための有効な手段に地球物理探査があります.ここで主に紹介するのは,昭和50年度から52年度に薩摩硫黄島で実施された工業技術院サンシャイン計画にかかわる委託調査研究「火山発電方式に関するフィジビリティスタディ」(社団法人 日本電機工業会)の成果報告書(川村, 1976; 小野寺,1976;馬場,1978)および地質調査所(1976,1980)から抜粋した研究成果です.

また,近年行われたKanda and Mori (2002) による自然電位観測の結果も紹介します.なお,本編では紹介しませんが,硫黄島を含む広域の磁気分布が地質調査所(1980)によって著されています.

より詳しい解説は,詳細版5.地球物理観測その他の観測(坑井,電気,磁気,重力,自然電位)にありますので,合わせてご参照下さい.

調査の概要

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  • 調査地点・電気探査測線

大地を構成する物質によって,電気抵抗や密度,帯磁率(磁場によって物質が誘導される磁化の強さ)が異なるので,これらの値を調べることによって目には見えない地下の構造の推定が可能になります.

硫黄島では,深さ100m程度の坑井(調査のために地中に孔を掘ること,また,掘って作られた孔を坑井と言う)での観測,山麓における電気探査,重力探査,自然電位調査,航空磁気測量を行っています.坑井の位置,電気探査の測線,磁気測量と重力探査の解析断面の位置を上図(調査地点・電気探査測線)に示します.

坑井での観測では,地下水位と坑底温度が得られます.坑底温度とは,坑井の底部の温度で,その深さの地温に相当します.

電気探査は,大地に設置した一対の電極に電気を流し,その流れ具合から大地の電気抵抗を測定します.この結果から,測線(観測地点間を結ぶ地表の線)の下の大地の構造が分かります.

重力探査は,地表における重力の値を測定し,地下の物質の密度の大小を調べるものです.

磁気測量は,地表付近の地磁気を測定することにより,地下の物質の帯磁率(物質が磁場によって誘導される磁化の強さ)を調べます.今回詳細する研究では,計器を航空機につるし,空中から測定を行っています.

坑井を利用した調査

坑井の地下水位と坑底温度

各坑井の地下水位と坑底温度を図(井の地下水位と坑底温度)に示します.地下水は,降った雨の一部が地下に浸透することによってもたらされますが,地下での水の流動のしやすさによって水位が変わってきます.流動しにくければ水位が上昇し,流動しやすければ低下します.硫黄島では,地下水位が海水面にほぼ等しく,水が流動しやすい構造になっていると考えられます.

一方,坑底の温度には偏りがあります.温度が異常に高い場所では,硫黄岳の麓であるにもかかわらず,何らかの熱源があることを示しています.

電気探査

電気探査では地下の比抵抗を測定します.比抵抗とは電気の流れやすさを示す値で,比抵抗が大きいと電気は流れにくくなります.地下の比抵抗は,岩石の構成要素,地下水や海水の存在,温度等によって変わります.特に火山地域では,地層中の含水量や変質の度合いが大きいと比抵抗は極端に小さくなる傾向があり,地下構造を調べる良い指標になっています.

下の図(比抵抗構造(A断面)比抵抗構造(B断面))は,シュランベルジャー法という電気探査方法によって得られた硫黄島の地下の比抵抗構造を示しています.硫黄島では地下水位より下部の比抵抗が1-4Ω・m程度と極端に低いことがわかります.この原因として,海水が硫黄島の地下に浸透していること,火山性流体による変質が進んでいることの2つの要因が考えられます.

重力調査

重力異常図

重力測定によって得られる重力異常の分布は,地下の物質の密度の大きさを反映しています.

駒澤ほか(2005)によって明らかにされた硫黄島の重力異常分布は島の北西から南東へ低くなる傾向にあり,カルデラ構造(詳しくは→詳細版1.地質・岩石地質構造へ)に起因していると考えられます.すなわち,カルデラの窪みを満たす堆積物の密度が周囲に比べ小さく,その厚みが島の北西から南東へかけて厚くなっていると推測されます.

磁化・密度構造

地球固有の磁場(地磁気)は,地下を構成する岩石の磁気的性質が場所によって異なることにより,局所的に乱されます.乱された磁場から,大局的な磁場を差し引いたものを磁気異常といい,磁気異常の地上での分布から逆に地下構造を推定することができます.地中の岩石の磁性の影響は空中まで広がっており,広い範囲にて均質なデータが得られることから航空機を利用した空中磁気測量を行うことがあります.

硫黄島周辺でも空中磁気探査が行われ,その結果と重力測定の結果を基に,硫黄島を横切るような2つの測線に沿って,その下の地下構造が推定されています(下の図の,解析断面A解析断面B).具体的には,磁性の強さが異なる岩体(青色部)や地層の密度のコントラスト(赤実線)が求められています.

自然電位調査

自然電位とは,大地の中に自然に生じている電位のことであり,地下での地下水や地熱水の流動に対応して異常を示します.自然電位は,地表に設置した電極で測定します.測定自体は簡便で,古くから鉱床や温泉の探査に用いられてきました.

地下水が表層のすぐ下を流れるところでは,上流側で負,下流側で正の値を示します.一般に,山岳地帯では標高が高くなるにつれて自然電位が減少する傾向があり,地形効果と呼ばれています.これは地下水が山頂部から山麓部に流れるために起きます.

それに対し,温泉水などの熱水の流動によっても自然電位の異常は現れ,熱水の上昇域で正の異常を,反対に下降域では負の異常となります.火山ガスや蒸気の流動では自然電位異常は生じません.また,自然電位の値は岩石の比抵抗値によっても変わります.岩石の比抵抗が小さい(電気伝導度が大きい)と異常の振幅が小さくなり,比抵抗が大きいと振幅が大きくなります.

下の図は,1975年1999年に硫黄島で行われた自然電位の測定結果です.どちらも,硫黄岳の西山腹において正の異常を示しており,地下水の流動を反映している可能性があります.また,1999年の結果を見ると山頂域で正の異常が見られ,噴気活動に伴った熱水の流動を示すと考えられます.

引用文献

馬場健三(1978) I.6. 空中磁気探査法による地下構造調査. 昭和52年度サンシャイン計画委託調査研究成果報告書「火山発電方式に関するフィジビリティスタディ」, 社団法人日本電機工業会・地熱技術開発株式会社, p.78-88.

地質調査所(1976)全国地熱基礎調査報告書 no.30 南西諸島. 工業技術院地質調査所, p.90.

地質調査所(1980)空中磁気図XXV-1, 大隈半島-屋久島海域空中磁気図. 工業技術院地質調査所.

Kanda, W. and Mori, S. (2002) Self-potential anomaly of Satsuma-Iwojima volcano. Earth Planets Space, vol.54, p.231-238.

川村政和(1976)I.3. 水文・気象観測.昭和50年度サンシャイン計画委託調査研究成果報告書「火山発電方式に関するフィジビリティスタディ」, 社団法人日本電機工業会, p.21-37.

駒澤正夫・名和一成・村田泰章・牧野雅彦・森尻理恵・広島俊男・山崎俊嗣・西村清和・杉原光彦・大熊茂雄(2005)重力図 no.22, 屋久島地域重力図(ブーゲー異常). 地質調査総合センター.

小野寺清兵衛(1976) I.7. 電気探査. 昭和50年度サンシャイン計画委託調査研究成果報告書「火山発電方式に関するフィジビリティスタディ」, 社団法人日本電機工業会, p.96-102.

参考文献

物理探査学会(1989)図解物理探査.物理探査学会,239p.

兼岡一郎・井田喜明編(1997)火山とマグマ.東京大学出版会,240p.


(松島喜雄)