火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


マグマ溜まりの進化

約7300年前のカルデラ形成から1934-1935年の昭和硫黄島噴火までの岩石やメルト包有物を詳細に検討すると,図のようなマグマ溜まりの進化が浮かび上がってきました.

約7300年前のカルデラ噴火の直前に,深さ3-7kmにかけて,巨大な流紋岩マグマだまりが存在していました.このマグマ溜まりの内部では,火山ガス成分(主として水)が飽和し,マグマが発泡していました.

カルデラ噴火後も,その流紋岩マグマの一部はマグマ溜まりに残りました.その後,岩石学的な解析からその下部に玄武岩マグマが深部から上昇してきた可能性が指摘されています.約5200年前に流紋岩マグマが噴火を開始し,硫黄岳の形成が始まります.また,約3000年前頃には玄武岩マグマが噴火し,稲村岳を形成します.

約2200年前には再び流紋岩マグマの噴火が始まり,500年前程度まで継続し,現在の硫黄岳ドームを形成しました.この硫黄岳活動時期に玄武岩マグマ溜まりが流紋岩マグマ溜まりの下部近くにあった可能性があります.

また,この流紋岩マグマ溜まりでは,約1000年前から火道内対流による活発な火山ガス活動を開始し,現在まで継続しています.最後の硫黄岳噴火(約500年前)以降に,玄武岩マグマが流紋岩マグマだまりの下部に進入し混合,安山岩マグマを形成します.

1934-1935年に,マグマ溜まり上部の流紋岩マグマが噴火し,昭和硫黄島を形成します.その噴出物には,マグマ溜まりの中間部の安山岩マグマが一部含まれています.

Saito et al. (2003)のFig. 5を改変.