火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
現在のマグマ溜まりのモデル
カルデラ形成後(約7300年前)から1935年までの多量のマグマ(〜50km3)を噴出しています.そのマグマ噴出率(1000年間に7km3程度)は日本の第四紀火山の平均的な値(1000年間に0.1-1km3)より高いです.また,現在の火山ガス放出量から見積もられた,噴出せずに地下で脱ガスしたマグマの総量が80km3以上と推定されていることから,薩摩硫黄島火山下には7300年前のカルデラ噴火の後も定常的に大型のマグマ溜まりが存在していると考えられます.
薩摩硫黄島火山の現在のマグマ溜まりの実態については,火山岩の岩石学的解析,メルト包有物の火山ガス成分分析,火山ガスの地球化学的観測,地球物理学的観測等が行われ,図のようなマグマ溜まり像が明らかになりつつあります.
マグマだまりは,その上面が深さ3km程度にあり,下部に玄武岩マグマ,上部に流紋岩マグマがあり,中間に両者の混合によって生じた安山岩マグマが存在しています.
玄武岩マグマ(1130℃)は流紋岩マグマ(970℃)より熱く,かつ,火山ガス成分に富み,流紋岩マグマに熱とガスを供給しています.
大量の火山ガス放出は,この上部の流紋岩マグマが火道を上昇し,地表近くで脱ガスしているためと考えられています.脱ガスした流紋岩マグマは,火道および流紋岩マグマだまりを沈降し,下部の玄武岩マグマから安山岩マグマを通してガス成分を供給されます.従って,現在地表で放出されている火山ガスのほとんどは,地下深くに潜在している玄武岩マグマを起源としていると考えられています.
Kazahaya et al. (2002)のFig.5 を改変.