火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)


火道内マグマ対流による脱ガスの模式図

大量のマグマが浅い場所で脱ガスをするということは,必ずしも大量のマグマがその場に存在している必要はありません.たとえば,硫黄島では,800年以上の長い歴史にわたり大量の火山ガスを放出し続けており,この間に脱ガスしたマグマの総量は体積にして200km3を超えると考えられています.しかし,このような大量のマグマが非常に浅い場所に存在している証拠はありません.逆にこのような大量のマグマは地下深部のマグマ溜りにのみ存在しています.ただし,この大量のガスを放出するにはマグマが低圧環境下で活発に脱ガスしなくてはなりません.

この一見矛盾した状態を説明するプロセスが,火道内マグマ対流プロセスです.図は,火道内マグマ対流プロセスの模式図です.火道がマグマ溜りと地表近くの低圧環境の場と安定してつながっていれば,深部のマグマ溜りからマグマが火道内を上昇して低圧環境下になることが可能です.火山ガス成分(主として水)を含んだマグマは,含まないマグマより密度が低く(単位体積当りの重量が軽くなる)という特徴があります.ガスを多く含んだマグマ(図の赤色のマグマ)は軽いため,マグマ溜まりから火道内を上昇します.地表近くの浅い場所で脱ガスしたマグマ(図のオレンジ色のマグマ)は脱ガスしていないマグマよりも密度が高くなるため,脱ガス後は火道内を沈降してマグマ溜りに戻ります.こうして,ガスを含んだマグマは,脱ガスしたマグマと入れ替わるように,火道内を上昇し,また,脱ガスするというプロセスを繰り返します.このようにして,大量のマグマ性ガスが火山から放出されていると考えられます.

Kazahaya et al. (2002) Fig.4を改変.