4.2 新期榛名火山
4.2.2 八崎降下テフラ(地質図では略)
地層名
新井(1962)は,榛名山から約4万年前に噴出した一連のテフラのうち,白川火砕流堆積物に対応し,榛名山東方に分布する降下軽石層を榛名八崎浮石層と命名し,榛名八崎浮石層と白川Pyroclastic flow depositの層序関係からこれらが同一の噴火による噴出物であることを明らかにした.本報告では,この約50kaに榛名火山から噴出した一連のテフラを榛名八崎テフラと呼び,そのうち榛名山から東方に分布する軽石質の降下テフラを八崎降下テフラと呼ぶ.
模式地
「榛名山」図幅の東隣の「前橋」図幅内にあたる,渋川市八崎の赤城山麓野扇状地上に模式的に分布する.本図幅内では,渋川市有馬,高崎市十文字などに露出するが,新期榛名火山の噴出物に覆われているためその露出は限定的である.
分布
本図幅内では,本層は榛名火山南東~北東山麓の古期榛名火山扇状地面を覆うローム層中に発達する.八崎降下テフラの分布主軸は榛名山付近から東方向に伸びている.本層の層厚は高崎市箕郷町十文字では約5cm,渋川市有馬で約50cmである.本層は榛名火山から東方の関東平野北部に広く分布し,榛名火山から約70km離れた栃木県南部でも約10cmの厚さで認められる(関東ローム研究グループ,1965).
層序関係
榛名山南東山麓に当たる榛名町十文字付近では,本層は古期榛名火山活動末期の宮沢火砕流堆積物の上位に厚さ2.5mの褐色ロームを挟んで存在する.白川火砕流堆積物の上位には,約1mの厚さの褐色ローム層を挟んで姶良Tnテフラ(29ka), 浅間板鼻褐色軽石層(20~25ka;町田・新井,2003)が覆っている.赤城山東山麓では八崎降下軽石は赤城湯ノ口テフラと赤城鹿沼テフラの間に挟在する(新井,1962).
岩相
本層は,本図幅北東部の渋川市有馬では本層は直径2cm大の黄色軽石からなり,1cm大の岩片を多く含む.岩片は青灰色の安山岩溶岩片を主体とし,赤褐色の変質岩片を含む.また少量の石英閃緑岩質の深成岩片が含まれる.
八崎降下テフラに含まれる軽石は斜方輝石普通角閃石安山岩である.斑晶鉱物組み合わせは,斜長石・普通角閃石・斜方輝石・カミングトン閃石・石英・黒雲母・磁鉄鉱である.斑晶の大きさは斜長石斑晶が2~3mm,普通角閃石斑晶が1mm程度である,石英斑晶はしばしば融食した外形を示す.火山ガラス,普通角閃石及び斜方輝石の屈折率が早田(1996),大石(2010)によって示されている.
地質年代
層序関係及び岩相の類似性から,白川火砕流堆積物と同時に噴出・堆積したと考えられる.赤城火山東麓で本テフラを覆う赤城鹿沼テフラ(鈴木,1990)の年代は,鹿島灘の海底堆積物の層序から44.2kaと推測されている(青木ほか,2008).これに従うと,八崎降下テフラ及び白川火砕流堆積物の噴出年代は炭素14年代から推測されるよりもやや古い,50ka前後の可能性が高い.