榛名富士溶岩ドーム
榛名火山は,中期更新世に形成された直径約25kmの成層火山体とその山頂部に発達する後期更新世~完新世の溶岩ドーム群からなる複雑な地形をしている.榛名火山の最高峰は掃部ヶ岳(かもんがたけ)(1,449m)である.榛名火山の成層火山体には放射状の侵食谷が多数発達している(第1図).なかでも南西側の榛名川,南東側の榛名白川,北東側の沼尾川の侵食谷は比較的大規模で,山頂部まで侵食が進み,その周辺には火山体の原面はほとんど現存していない.古期榛名火山を構成する厚い溶岩流や貫入岩体は侵食に耐え,北部の烏帽子ヶ岳(えぼしがたけ)や南部の天狗山などの突出した地形を作っている.
(図幅第1.3図)
榛名火山の山頂部には東西約3km,南北約2kmの榛名カルデラが存在する(第1図).榛名カルデラの外輪山は,北部は烏帽子ヶ岳,西部は掃部ヶ岳,南部は天目山からなる.カルデラの東縁は榛名カルデラ形成後に噴出した相馬山(そうまやま)溶岩ドームに覆われ,カルデラ地形が不明瞭である.榛名カルデラ西部のカルデラ床には,榛名湖が存在する.
榛名カルデラの内部から東部にかけて,カルデラ形成後に噴出した複数の溶岩ドームが発達する(第2図).榛名富士(はるなふじ)は榛名カルデラのほぼ中央に発達するカルデラ床からの比高約300mのほぼ円錐形の溶岩ドームである.蛇ヶ岳(じゃがたけ)は榛名カルデラの北縁に発達する比高150mの小規模な溶岩ドームである.相馬山は榛名カルデラの東縁に発達する比高約330mの溶岩ドームで,その南面には南南東に開いた大規模な崩壊地形が発達する.水沢山(みずさわやま)は榛名山の東山腹斜面に発達する溶岩ドームで,東側の比高は500mに及ぶ.二ッ岳(ふたつだけ)は比高約350mの溶岩ドームで,その山頂部は3つのピークに分かれている.二ッ岳の南東側には,二ッ岳を取り囲む半円形の崩壊地形が認められ,相馬山の溶岩ドームの北東部はこの火口によって切断されている.
榛名山の山頂部に突出する水沢山,相馬山,二ッ岳,榛名富士はいずれも新期榛名火山の溶岩ドーム.掃部ヶ岳は榛名山の最高峰で,古期榛名火山に属し,榛名カルデラ縁を構成する.
(図幅第1.4図)
榛名山の山麓部には,山麓扇状地が広く発達する.これらの扇状地は主に古期榛名火山の成長に伴って発達したもの,榛名カルデラの形成に伴い噴出したと考えられる白川火砕流に伴うもの,及び新期榛名火山の活動に伴うものに区分される.
古期榛名火山に伴う扇状地は,本図幅地域内では主に西~南山麓,及び東山麓に発達する.古期榛名火山に伴う扇状地は侵食が進み,深い谷が刻まれている.しかし,扇状地面は比較的広く保存されており,西側山麓では,高崎市倉(くら)渕(ぶち)町権田(ごんだ)付近から東吾妻町萩生(はぎう)にかけての,標高450mから900m付近に発達する緩斜面を作っている.東側山麓では,渋川市伊香保(いかほ)付近から渋川市行幸田(みゆきだ)付近にかけて発達する緩斜面を形成する.図幅北東部の渋川市入沢(いりさわ)から行幸田にかけての地域では,古期榛名火山扇状地の末端部が利根川にほぼ平行な,比高30~50mの侵食崖によって切断されている.榛名山南麓の高崎市上室田から宮沢付近の扇状地は開析が進み扇状地面は部分的にしか保存されていない.烏川と碓氷川にはさまれた安中市板鼻から八幡に分布する段丘状の緩斜面も,構成する礫層の類似性から古期榛名火山の扇状地の一部と推測される.
高崎市上室田から下室田付近,及び高崎市宮沢には,古期榛名山扇状地を覆って白川火砕流堆積物が作る比高数10mの小規模な火砕流扇状地が発達する.扇状地面上には火砕流堆積物が作る堆積面が部分的に保存されている.白川火砕流堆積物の分布地域には,急峻な側壁と比較的平坦な谷底をもつ侵食谷が多数発達している.
榛名山南東山麓に流下する榛名白川沿いには,相馬山付近を給源とする陣場岩屑なだれ堆積物とその後の河川堆積物が作る扇状地が発達する.陣場岩屑なだれ堆積物の堆積面上の高崎市箕郷町金古(かねこ)には比高数m~10mの流れ山地形が多数認められる.陣場岩屑なだれ堆積物の上面には,更新世末から完新世にかけて形成された榛名白川やその他の小河川の扇状地が発達する.これらの河川が形成する新期扇状地の上面は比較的平坦で,比高10m以下の浅い侵食谷が発達する.
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