4.1 古期榛名火山
4.1.3 古期榛名火山扇状地堆積物 (Ohf)
地層名
古期榛名火山の山麓部に分布する,榛名カルデラの形成以前に形成された扇状地性の礫層からなる堆積物を本報告では古期榛名火山扇状地堆積物と呼ぶ.大島(1986)の第I期~第III期の活動で形成された火山体の,また中村(2005)の古榛名火山の火山体のうち,山麓部の扇状地を構成する部分に相当する.
模式地
渋川市入沢の黒沢川沿い,高崎市倉渕町権田の長井川沿い.
層序関係
榛名山西麓では菅峰火山の溶岩流や土石流堆積物を直接覆う.また南西山麓では相間川層及び秋間層の火山角礫岩を不整合で覆う.北西山麓では小倉層を不整合で覆う.榛名山南~東山麓では,白川火砕流堆積物,陣場岩屑なだれ堆積物などの新期榛名山噴出物に不整合で覆われる.本層の上位には,扇状地面上では厚い赤褐色ローム層が発達する(下部吾妻ローム層;矢口,1999).本層は榛名山山頂部に分布する古期榛名火山噴出物と漸移関係にある.
分布
古期榛名火山扇状地堆積物は,榛名火山を取り巻くようにその山麓に分布する火山山麓扇状地を形成する.本図幅内では,榛名火山の西~南~東麓の扇状地を構成する.また,北隣の「中之条」図幅内には,榛名山北麓の扇状地を構成する本層が分布する.
本層が作る扇状地には多数の侵食谷が発達するが,扇状地面の原地形がよく保存されている.渋川市入沢から行幸田付近には,比高100m前後の侵食崖が利根川に平行に発達し,扇状地の末端部を切断している.また,高崎市倉渕から下室田,神戸付近に至る烏川沿いの扇状地の末端も,烏川に平行して発達する侵食崖によって切断されている.
岩相及び構造
古期榛名火山扇状地堆積物は,安山岩質の火砕流堆積物と土石流堆積物からなる.本層を構成する土石流堆積物は,直径1mを超える亜角礫~亜円礫を含む淘汰の悪い礫層からなり(第11図),砂礫層の薄層をしばしば挟む.礫径や礫と基質の比率等の違いによって識別される多数の単層が認められるが,いずれも側方への連続性は乏しい.構成礫はすべて古期榛名火山噴出物に由来する玄武岩質安山岩~安山岩礫からなる.
含まれる礫はすべて古期榛名火山噴出物の安山岩からなる.渋川市行幸田付近.
(図幅第5.10図)
本層を構成する火砕流堆積物は,古期榛名火山扇状地のほぼ全域に分布し,土石流堆積物を間に挟む複数の火砕流堆積物層からなる.特に,榛名山南麓の高崎市下室田から神戸にかけての烏川左岸に発達する古期榛名火山扇状地には,厚さ10mを越える複数の軽石質の火砕流堆積物が挟まれる.そのうち,南東麓の扇状地に分布する最大の軽石流堆積物群を,本層のサブユニットである宮沢火砕流堆積物(後述)として区分する.より小規模な火砕流堆積物は古期榛名火山扇状地の全域に分布する.これらの火砕流堆積物の構成粒子は,いずれも輝石玄武岩質安山岩~安山岩及び角閃石安山岩からなり,その全岩化学組成は古期榛名火山噴出物と一致する.火砕流堆積物の発泡度は様々で,良く発泡した軽石あるいはスコリア塊に富む,軽石流あるいはスコリア流堆積物から,発泡の悪い緻密な岩片からなる火砕流堆積物までさまざまである(第12,13図).
緻密な安山岩角礫と同質の火山灰基質から構成される.榛東村富士見峠付近.
(図幅第5.11図)
発泡の良い輝石安山岩の軽石を含む.スケール(ボールペン)の長さ15cm.渋川市行幸田有馬付近.
(図幅第5.12図)
高崎市箕郷の榛名白川沿いに露出する古期榛名火山扇状地堆積物は,厚さ数mの軽石流堆積物とスコリア流堆積物の互層からなる(第14図).これらの火砕流堆積物のうち,スコリア流堆積物中の本質物質は発泡の悪い黒色スコリアからなり,その構成物は榛名白川の源頭部にあたる磨墨(するす)峠付近のアグルチネート堆積物の構成物と類似する.なお,榛名山東山麓には,古期榛名火山噴出物と岩石学的特徴が類似した玄武岩質安山岩~安山岩質の降下スコリア~軽石堆積物が広く分布しており(第15図),一部は火砕流堆積物と互層する.
本層の上面には,多数の降下テフラを挟む厚さ10~15mの風成火山灰層が堆積している.
露頭の下半分は軽石流堆積物からなり,その上位の暗色部は発泡の悪いスコリア塊に富むスコリア流堆積物.冷却節理の入ったブロックが含まれる(矢印で示す).写っている露頭の高さ約7m.高崎市箕郷町松之沢の榛名白川沿い.
(図幅第5.13図)
複数の降下スコリア層が累重する.右端のスケールは1m.榛東村富士見峠.
(図幅第5.14図)
地質年代
本層は古期榛名火山の成長に伴って発達した山麓扇状地堆積物であり,その形成年代は古期榛名火山の活動年代とほぼ一致するものと考えられる.本層を覆う下部吾妻ローム層中には阿蘇1テフラ(250-270ka:町田・新井,2003)と考えられる蓑原火山灰層(竹本ほか,1987) や,阿多鳥浜テフラ(240ka:町田・新井,2003),横川第二テフラ(220ka,中山,1978)が挟まれる(矢口,1999).