4.2 新期榛名火山
4.2.10 新期榛名火山扇状地堆積物(Yhl)
地層名
榛名山の主に東~南東山麓に発達する,新期榛名火山の活動期に形成された扇状地堆積物を,本報告では新期榛名火山扇状地堆積物と呼ぶ.本層は,大島(1986)による後カルデラ期の二次的火山砕屑物,日本鉄道建設公団東京新幹線建設局(1998)による新期泥流堆積物・扇状地堆積物にほぼ相当する.また,群馬県地質図作成委員会(1999)の山麓堆積物のうち,榛名火山周辺に分布するものの一部に相当する.本図幅地域の東に隣接する「前橋」図幅地域の利根川西岸には,後期更新世末期~完新世初期の前橋泥炭層(新井,1962)を覆う砂礫層が発達しており,総社砂層(早田,1990)あるいは元総社ラハール堆積物(新井・矢口、1994)と呼ばれている.これらの堆積物は地形的に本図幅地域の新規榛名火山扇状地堆積物に連続すると考えられる.
模式地
高崎市箕郷町の榛名白川沿い.
層序関係
本層は白川火砕流堆積物の上位に発達する.本層が最も広く分布する相馬ヶ原扇状地では,本層の間に陣場岩屑なだれ堆積物が挟在する.また本層の最上位には榛名二ッ岳渋川火砕流堆積物や伊香保火砕流堆積物の二次堆積物が発達する.上越新幹線榛名トンネル内では,榛名トンネル南側入口から榛東村新井付近(大宮起点89.8km付近)までの区間で,八崎降下テフラ(あるいは白川火砕流堆積物)を覆う泥流堆積物が出現しており,岩相から本層に連続するものと考えられる.本層は,分布域の南東端では利根川・烏川流域の河川堆積物と指交関係にある.
分布
本図幅地域では,榛名火山南東山麓の高崎市箕郷町から榛東村にかけて広がる相馬ヶ原扇状地や,本図幅地域北東端の渋川市街地付近に発達する.新期榛名火山扇状地堆積物の分布域は,古期榛名火山扇状地に比べて平滑で,比高5m以下の浅い浸食谷が発達する.しかし,高崎市箕郷町西明屋から松之沢にかけての榛名白川は,新期榛名火山扇状地を深く下刻しており,その浸食谷は比高20mを超える.
北陸新幹線工事に伴う試錐結果では,本層は本図幅南東端の浜川付近から榛名白川付近までの地表直下に分布し,その層厚は最大約40mである(日本鉄道建設公団東京新幹線建設局,1998).また,上越新幹線工事区間では本層は図幅南東端の浜川付近から榛名トンネル南端部にかけて出現する.榛名トンネル区間では,八崎軽石を覆う新期泥流堆積物・扇状地堆積物の最大層厚は約70mである(日本鉄道建設公団東京新幹線建設局,1982).
岩相
安山岩礫を主体とする砕屑物からなる砂礫層からなり,砂層,シルト層の薄層を伴う.砂礫層はほとんど固結していない.本層を構成する礫は主に古期榛名火山噴出物に由来する輝石安山岩礫からなるが,新期榛名火山噴出物に由来する角閃石安山岩の礫を含むことが特徴である.礫径は様々で,扇状地の頂部から末端に向かって次第に小さくなる傾向がある.扇状地頂部の榛名白川上流部では径数10cmを超える巨礫がしばしば含まれるのに対し,扇状地末端部の高崎市井出町付近では,本層は細礫を含むシルト~砂層からなる.本層には礫径や礫と基質の比率等の違いによって識別される多数の単層が認められるが,いずれも側方への連続性は乏しい.堆積構造から,土石流堆積物及び河川堆積物からなると考えられる.
本層分布域の末端部に当たる高崎市下芝や井出では,小河川沿いの本層最上部に,榛名二ッ岳渋川火砕流堆積物や伊香保火砕流堆積物に由来する円磨した角閃石安山岩質軽石礫を多量に含む土石流堆積物が発達する.これらは,その層位や分布,含まれる礫種から,6世紀頃二ッ岳付近から発生した2回の噴火の直後に発生した土石流堆積物と考えられる.早田(1989)はこれらの土石流堆積物をS洪水堆積物・I洪水堆積物と呼んだ.
地質年代
本層は約50kaの白川火砕流堆積物の上位に発達することから,その形成は50ka頃から開始したと考えられる.また本層最上位に発達する榛名二ッ岳渋川テフラや伊香保テフラの二次堆積物から,6世紀頃までその形成が継続したと考えられる.本層の形成は連続的ではなく,急速に発達した時期が存在したと考えられる.特に,20~15kaと考えられる陣場岩屑なだれの発生直後,及び完新世初期には大規模な土石流・洪水堆積物が形成された.また,6世紀ごろの2回の噴火の直後にも,河川沿い土石流・洪水堆積物が形成された.