榛名火山 Haruna Volcano


icon 1.地形

icon 2.研究史

icon 3.榛名火山の活動史

icon 4.榛名火山の噴出物
  icon 4_1_1 古期榛名火山噴出物
  icon 4_1_2 古期榛名火山岩脈群
  icon 4_1_3 古期榛名火山扇状地堆積物
  icon 4_1_4 宮沢火砕流堆積物
  icon 4_2 新期榛名火山
  icon 4_2_1 白川火砕流堆積物
  icon 4_2_2 八崎降下テフラ
  icon 4_2_3 榛名富士溶岩
  icon 4_2_4 蛇ヶ岳溶岩
  icon 4_2_5 相馬山溶岩
  icon 4_2_6 陣場岩屑なだれ堆積物
  icon 4_2_7 行幸田扇状地堆積物
  icon 4_2_8 水沢山溶岩
  icon 4_2_9 水沢山火砕流堆積物
  icon 4_2_10 新期榛名火山扇状地堆積物
  icon 4_2_11 二ッ岳渋川火砕流堆積物
  icon 4_2_12 二ッ岳伊香保降下テフラ
  icon 4_2_13 二ッ岳伊香保火砕流堆積物
  icon 4_2_14 二ッ岳溶岩

icon 5.火山岩類の全岩組成

icon 6.引用文献

著者:下司信夫 2013/10/11

このデータ集は5万分の1地質図幅「榛名山」(下司・竹内,2012)をもとに一部修正加筆したものである.

このデータ集を引用する場合,次のように引用してください.
下司信夫(2013)詳細火山データ集:榛名火山.日本の火山,産総研地質調査総合センター
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/haruna/
index.html)

4.榛名火山の噴出物
4.1 古期榛名火山

4.1.1 古期榛名火山噴出物 (Ohv, Ohl)
地層名
 本報告では,榛名火山を構成する成層火山体のうち,榛名カルデラの形成以前に噴出した溶岩流及び火砕物からなる噴出物を,古期榛名火山噴出物と呼ぶ.本層は,大島(1986)の第Ⅰ期~第Ⅲ期の活動で形成された火山体に,また中村(2005)の古榛名火山の火山体のうち溶岩流及び火砕岩を主体とする部分に相当する.

模式地
 榛名山山頂部の榛名神社付近及び掃部ヶ岳山頂付近.

層序関係
 本図幅東半部では本層の基底はほとんど露出していないため,その基盤岩の詳細は明らかではない.わずかに,榛名白川源流部には中新世のガラメキ層が分布しており,古期榛名火山噴出物はその上位を不整合で覆っているのが確認できる.本層は榛名山の山頂部に分布し,山麓部に向かって後述する古期榛名火山扇状地堆積物に漸移する.本層はその上位を新期榛名火山噴出物(白川火砕流堆積物,榛名富士・相馬山・水沢山・二ッ岳溶岩ドーム群)に覆われ,一部では貫入されている.

分布
 榛名山のおおむね標高700mよりも山頂側の地域に,榛名カルデラを取り囲むように分布する.榛名山西部では掃部ヶ岳,杏が岳などの榛名カルデラの外輪山を構成する.東部では,榛名湖北岸から伊香保温泉・船尾滝付近に分布する.山麓部の古期榛名火山扇状地堆積物とは同時異相であり,両者の関係は指交関係にある.本報告では,榛名山中腹以上の地域で,安山岩溶岩を伴う部分を古期榛名火山噴出物とし,それより山麓部に分布する,主に火砕流堆積物及び土石流堆積物からなり,全体として扇状地地形を形成する部分を古期榛名火山扇状地堆積物とした.

岩相及び構造
 古期榛名火山の噴出中心は,後述する放射状岩脈群の分布から現在の榛名湖南部に存在したと考えられる.古期榛名火山噴出物は,少量の薄い(厚さ2~3m)溶岩流を挟む火山角礫岩を主体とする部分(Ohv)と,厚い安山岩溶岩を主体とする部分(Ohl)に区分できる.前者は火山体中心部に当たる榛名湖を中心とした地域に分布するのに対し,後者は主に古期榛名火山の山体上部に分布する.

 本層を構成する火山角礫岩(Ohv)は掃部ヶ岳山頂部や榛名神社参道に模式的に露出する.古期榛名火山を構成する火山角礫岩は,無層理・塊状で,最大直径20cm大の安山岩角礫と同質の基質からなる(第4図).本層の火山角礫岩はしばしば弱く溶結し,赤色酸化を被っている.榛名カルデラ南東部の磨墨(するす)峠付近には,黒色の安山岩スコリアを主体とする,強く溶結したアグルチネートが分布する.黒色スコリア質の火山弾同士が強溶結し,部分的には溶結レンズ構造が発達する.スコリア質火山弾の内部はしばしば暗赤色に酸化している.石質岩片はほとんど含まれない.本層を構成する火山角礫岩層中には,しばしば厚さ数mの塊状の安山岩溶岩が挟まれる.これらの安山岩溶岩は上下の火山角礫岩とほぼ同質の輝石安山岩からなり,しばしば.強溶結火砕岩に漸移する.このような特徴から,本層を構成する火山角礫岩や溶岩は,火口近傍に堆積した火砕丘を構成する堆積物であると考えられる.

fig2
第4図 古期榛名火山山頂部を構成する安山岩角礫岩
高崎市榛名山町の榛名神社付近.左上あるスケール(ペン)の長さ約14cm.
(図幅第5.3図)

 古期榛名火山の山体上部には,火砕物と互層する厚い安山岩溶岩流が発達する(Ohl).溶岩流の厚さは様々であるが,30m以上の層厚を持つ溶岩も見られる.南山腹の李が岳,天狗山,榛名湖北方の烏帽子ヶ岳などには,侵食に強いこれらの安山岩溶岩が突出する.

 榛名カルデラ南縁を構成する天目山は,輝石安山岩の溶岩ドームである.また,天目山を構成する溶岩の全岩化学組成は,そのほかの古期榛名火山噴出物の組成に比べてややSiO2が高く,古期榛名火山噴出物と新期榛名火山噴出物の中間的組成をもつ(第5図).このことから,天目山を構成する溶岩は古期榛名火山の活動の末期に噴出したと考えられる.大島(1986)は天神峠―天目山南麓―榛名峠付近に南縁が存在する“氷室カルデラ”を想定し,天目山はその中に形成された後カルデラ期の火山体とした.ここでは,大島(1986)による“氷室カルデラ”縁は地形的に不明瞭であること,またその“カルデラ縁”が噴火活動によって形成されたとする積極的な証拠がないことから,特に“氷室カルデラ”の名称を使用しない.

fig2
第5図 古期・新期榛名火山噴出物の全岩組成 全岩SiO2量に対する全岩MgO量(上)及び
Na2O+K2O量(下).
(図幅第5.5図)

 分布が狭いため地質図では省略したが,古期榛名火山の山頂部には小規模な水成層が点在する.天神峠東方の榛名川源頭部には,古期榛名火山噴出物に挟在する水平に成層した凝灰質シルト層が小規模に露出する(第6図).層厚は約20mである.この凝灰質シルト層は古期榛名火山の安山岩溶岩や火砕岩を直接覆い,また天神山の崩落堆積物に覆われる.このシルト層は,古期榛名火山の成長過程で,山頂部に小規模な水域が形成されたことを示唆する.

fig2
第6図 古期榛名火山噴出物間に挟まれる小規模な湖成層
成層した凝灰質シルト岩からなる.高崎市榛名山町の榛名川源頭部.右側ハンマーの長さ約30cm.
(図幅第5.6図)

 本層の熱水変質の影響は微弱であるが,天目山南側の沢では広く熱水変質作用が認められる.熱水変質を受けた本層は赤褐色に変色しその一部は白色粘土化している.また榛名神社北方の湯沢付近でも本層は熱水変質作用により部分的に赤褐色に変質している.これらの変質部はしばしば榛名火山の基盤の露出部であるとされてきた(たとえば大島,1986)が,その岩石学的特徴の共通性や構造の連続性から,古期榛名火山噴出物が局所的に熱水変質を受けた部分と判断する.

fig2
第7図 古期榛名火山の安山岩溶岩 かんらん石(ol),普通輝石(cpx)斑晶が点在する.
渋川市伊香保町高根付近.GSJ R94155.

(図幅第5.7図)

 古期榛名火山噴出物は主に斜方輝石単斜輝石安山岩からなる.本層を構成する安山岩には,しばしばやや大型の単斜輝石斑晶(径3~5mm)が点在する(第7図).そのほか,掃部ヶ岳南部の溶岩には,オパサイト化した角閃石斑晶を含む安山岩溶岩が存在する.本層の火山岩の全岩組成はSiO2=53~63重量%である(第5図).また,本層を構成する岩石はほぼソレアイト系列に属する(第8図).

fig2
第8図A 「榛名山」図幅地域及び周辺地域の火山岩類の全岩組成2
全岩FeO*/MgO比に対する全岩SiO2量.
(図幅第2.4図A)

fig2
第8図B 「榛名山」図幅地域及び周辺地域の火山岩類の全岩組成2
全岩SiO2量に対する全岩K2O量.「軽井沢」図幅地域の霧積火山岩類及び「御代田」図幅地域の本宿層及び相当層の火山岩類の組成を合わせて示す.
(図幅第2.4図B)

地質年代
 「中之条」図幅内の中之条盆地には,榛名火山の成長に伴って形成されたと考えられる中之条湖成層(米澤ほか,1984)が分布する.その形成年代から,古期榛名火山の成長の開始は50万年前頃と推測される(竹本,2008).山麓に分布する本層と同時代と考えられる古期榛名山扇状地堆積物の形成年代(後述)から,本層の形成は24万年前頃までに終了したと考えられる.

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