火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)

矢筈岳火山北西海岸露頭

矢筈岳火山は薩摩硫黄島の北西中央部にある玄武岩質の小型成層火山体で,最高点は標高348mです.小アビ山火砕流以降の噴出物に覆われています.長浜溶岩との関係は露頭が無く,不明です.南半部はカルデラ壁に当たる急崖により切断され,北側は高さ数十mの海食崖が発達しています.北西側斜面には溶岩流と思われる地形が認められ,少なくともこの斜面上部は元地形面を残していると考えられます.

写真は,矢筈岳火山の北西側の海岸で,玄武岩質の溶岩流,火砕岩の互層が露出しています.海食崖に露出する溶岩は厚さ最大数m程度で,同質の角礫岩,アグルチネートにはさまれます.矢筈岳山頂西から北北西にかけての海食崖には少なくとも5本の岩脈があり,矢筈岳山頂東方を中心とする放射状岩脈を構成しています(小野ほか,1982).写真にはこのうち4本の岩脈(d)が見えます.北海岸の坂本から小坂本にかけて玄武岩質の溶岩流,火砕岩の互層が露出し,北東側の坂本近くでは北〜北東側に,南西側の小坂本側では西に傾斜しています.カルデラ壁側では下部に火山角礫岩,上部にやや厚い(10m程度)玄武岩質安山岩が露出しています.

岩石はSiO2=53〜57 wt% 程度の玄武岩〜玄武岩質安山岩で,斜長石,かんらん石および輝石斑晶をもち,なかには径1cm以上の斜長石巨晶を含むものがあります.

なお,平家城から坂本にかけての海岸線にも玄武岩質安山岩溶岩とそれを覆う降下スコリア・軽石層,砂礫層があり,小アビ山火砕流がさらに覆っています.矢筈岳本体と連続しないため直接の関係は不明ですが,岩相や層位,位置関係からこの安山岩溶岩と降下スコリア・軽石層も矢筈岳火山の一部としておきます.

1999年11月19日 川辺禎久撮影.

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