火山研究解説集:薩摩硫黄島 (産総研・地質調査総合センター作成)
平家城露頭
平家城(へいけのじょう)には小アビ山火砕流堆積物を覆う鬼界-籠港降下テフラ(K-Km)が露出しています.鬼界-籠港降下テフラは,安山岩質降下火山灰・火山砂と同質軽石層からなり,桜島起源の約13000年前の薩摩火山灰を挟みます.
約7300年前に鬼界カルデラは最新の大規模火砕流噴火(鬼界-アカホヤ噴火)を起こしました.このときの噴出物は下位から船倉降下軽石(FK.pfa),船倉火砕流堆積物,竹島火砕流堆積物(TS pfl.)に区分されています(小野ほか,1982).硫黄島では平家城で船倉降下軽石(FK.pfa)が竹島火砕流堆積物(TS pfl.)直下に認められます.
竹島火砕流は白色軽石を含む火砕流堆積物で,海を渡って九州南部にまで達し,幸屋火砕流と呼ばれています.竹島では,東部の台地をほとんど覆い,全体で20〜30m程度の厚さになります.一方,硫黄島では,それより薄く,平家城,坂本付近,長浜熔岩上に分布します.また,長浜熔岩がつくる台地上では長浜熔岩あるいは小アビ山火砕流の浸食面を覆います.硫黄島の竹島火砕流堆積物は,溶岩片など類質岩片が多く,軽石が相対的に少ない,火口に近いと考えられる堆積相を示しています.
硫黄島に分布する後カルデラ火山は,流紋岩質の硫黄岳と玄武岩質の稲村岳です.鬼界-アカホヤ噴火の後,流紋岩質マグマの噴火活動が現在の硫黄岳付近で5200年前頃に再開しました.
稲村岳は3900年前頃に噴火し,平家城,矢筈岳,長浜溶岩上には降下火砕物が堆積しています.降下スコリア層(K-In)は4枚あり,腐食土壌層の発達で複数の降下火砕物部層が識別されます.また溶岩流も複数回流出し,東温泉から長浜にかけての硫黄島南海岸に露出しています.ほとんどの噴出物が陸上のマグマ噴火による堆積物ですが,稲村岳降下火砕物の上部部層にマグマ水蒸気爆発によるサージ堆積物が存在し,長浜集落周辺の長浜溶岩の上に分布しています.稲村岳は,2200年以前に活動を停止しました,
硫黄岳は流紋岩〜デイサイト質の厚い溶岩流・溶岩ドームと本質転動角礫岩からなる火山体です.後カルデラ期初期の降下火砕物(K-Sk-l)の分布と年代によると,硫黄岳付近での活動は約5200年前には始まっています.ただし降下火砕物の被覆関係から,現在露出する山体表面は稲村岳の活動終了後,2200年前以降に形成されたらしく,活動初期の噴出物は硫黄岳本体には露出していません.侵食の程度,遠望される被覆関係から,東半部が古く,西側山体が新しいと考えられています.山頂部を構成する流紋岩溶岩ドームは1100年前以前に形成されました.その後山頂部で爆発的な噴火が500-600年前まで続き,キンツバ火口,大穴火口が形成されました.1200年前および500-600年前の噴火では,火砕流が西側山麓まで流下しています.
Kawanabe and Saito (2002)のFig.3を引用. 1999年11月 川辺禎久撮影