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Photo of the volcano
4/3,プリニー式噴火に先立つ爆発の様子.
作成・引用: S. De la Cruz-Reyna, ライセンス: CC BY-NC 3.0

エル・チチョン
1982年噴火

El Chichon 1982 Eruption
  • 発生地域: メキシコ
  • メキシコ南部
  • 噴火規模: VEI 5
  • ※VEIはスミソニアン博物館GVP (Global Volcanism Program)による

    1.22 km3 DRE

    最高噴煙高度: 32 km

  • マグマ組成: トラカイト質安山岩
  • 噴火トレンド: 多峰型
火山の位置(厳密な火口の位置を示すものではない).

主要な噴出物等

  • 降下火砕物
  • あり

  • 火砕流
  • あり

  • 溶岩
  • なし

外部リンク:

米スミソニアン博物館 Volcanoes of the World: Chihon, El

噴火の全体的な推移

カーソルを合わせると詳細が表示される.火山活動の強度を示す縦軸にとったVUCの詳細は【こちら】

前兆現象・噴火開始

1980年の12月と1981年の2月にEl Chichonで調査を行っていたComisión Federal de Electricidadの地質学者が地震を体感している.地元住民は1981年の間数多くの地震を感じたという (De la Cruz–Reyna and Del Pozzo, 2009).25 km以上離れたChicoasenダムの地震活動を観測するための地震計が1982年の1月に入って稼働を始め,1月は少ないが2月には断続的に地震を記録している.3月1-6日にかけて非常に激しい地震活動がおきる.次第に減衰するが11日から再び増え始め,29日03:27 (以降UTC)に突然活動が減退した (Havskov et al. 1983).

噴火推移

1982年3月29日05:15に噴火開始.05:32から最初のプリニー式噴火に発展.その後4/3まで断続的に小爆発と地震活動の消長を繰り返す.次第に地震活動が高まる中4/4 01:35に2回め,11:22に3回めのプリニー式噴火が起こった.特に2回めのものは火砕サージが全周に5 km程度流れる規模の大きなものだった.3つのプリニー式噴火についてCarey & Sigurdsson (1986)はそれぞれピーク時噴煙高度27 km・噴出率1.1×108 kg/s,32 km・1.9×108 kg/s,29 km・1.3×108 kg/sと噴出物から見積もった.いっぽう衛星画像ではいずれも噴煙高度は17 km付近の圏界面を突破しており,3回めが最も高いと考えられた(Matson, 1984).噴出物のうち降下火砕物の体積は1.09 km3 DRE (Carey & Sigurdsson, 1986)であり,火砕サージが0.09 km3,火砕流および土石流が0.04 km3 DREであった (Sigurdsson et al. 1984).

日付時刻継続時間(h)VUC内容出典
1982 1月11月、Chicoasenダムの地震計群が稼働開始し、幾つかの地震が記録される。Jimenez et al. (1999) BV
1982/02/01約28日間12月いっぱい、断続的な地震活動。Havskov et al. (1983) GRL
1982/02/26 12:061Mc=2.9 ハイブリッド型地震が増え始める。Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/01約10日間2非常に激しい地震活動の開始。6日に数が減り、11日に最小となる。Havskov et al. (1983) GRL
1982/03/06 07:242Mc=4.0 ハイブリッド型地震。最も大きい地震。Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/112再び徐々に地震活動が増加。3/29 03:27の噴火直前に地震活動収まる。Havskov et al. (1983) GRL
1982/03/22 09:261最初の低周波地震。Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/27 03:16約4.0時間266回の低周波地震の群発。Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/28 06:371Mc=3.8 ハイブリッド型地震。群発を伴う。Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/28 21:28約60分間0地震活動の静穏期。何も記録されない状態。Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/28 22:28約90分間2大振幅の連続微動Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/28 23:154噴火開始Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/03/28 23:32約5.0時間61回目のプリニー式噴火。噴出物から推定したピーク時噴煙柱高度27 km、噴出率1.1×108 kg/s。溶岩ドームが破壊され、大量の弾道放出物が飛散。東北東から西南西に噴煙が流れる。Carey & Sigurdsson (1986) JVGR
1982/03/29 01:461Mc=3.1 テクトニック地震Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/29 02:306噴煙高度16.3~18.5 km。GOES衛星とラジオゾンデ観測による。当時の圏界面は16.5km。Matson (1984) JVGR
1982/03/29 03:004(GOES衛星画像に形成中の笠雲が写っている)Matson (1984) JVGR
1982/03/29 15:004(GOES衛星画像に微かに噴煙を上げている様子が写っている)Matson (1984) JVGR
1982/03/30 00:000地震活動のほぼ完全な停止De la Cruz–Reyna and Del Pozzo, (2009) Geofisica Internacional
1982/03/30 07:152地震活動と微動の再開De la Cruz–Reyna and Del Pozzo, (2009) Geofisica Internacional
1982/03/30 07:152弱い連続微動と低周波地震の群発Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/30 09:004やや規模の小さな噴火。噴煙は東に120km流れる。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/03/30 15:004やや規模の小さな噴火。噴煙は対流圏中盤まで上昇、その後350km北へ流れる。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/03/31 07:00約20時間2再び20時間の激しい地震活動。Havskov et al. (1983) GRL
1982/03/31 07:40約2.0時間2弱い連続微動と低周波地震の群発Jimenez et al. (1999) BV
1982/03/31 13:304やや規模の小さな噴火。噴煙は対流圏上方まで上昇、その後東へ流れる。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/04/01 07:40約2.3時間1低周波地震の群発Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/02 06時頃2地震活動の一時的な増加Havskov et al. (1983) GRL
1982/04/02 07:39約2.3時間1低周波地震の群発Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/02 11:004小規模な爆発。噴煙は30分で3.5 kmまで上昇。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/04/02 18:00約30分間4小規模な爆発。噴煙は東へ。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/04/02 18:00約48時間2地震活動の断続的な増加Havskov et al. (1983) GRL
1982/04/03 02:30約30分間5やや規模の小さいサブプリニー式噴火。噴煙柱は圏界面まで到達。噴煙は東北東と西南西へ。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/04/03 02:32約42分間2連続微動と低周波地震Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/03 03:15約24分間0地震活動の静穏期。Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/03 03:36約72分間2大小の振幅の連続微動。Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/03 04:005噴煙高度15.2~18.8 km。GOES衛星とラジオゾンデ観測による。当時の圏界面は17 km。Matson (1984) JVGR
1982/04/03 04:45約1.6時間0地震活動の静穏期。Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/03 06:18約8.0時間2微動と静穏期が交互に続くJimenez et al. (1999) BV
1982/04/03 09:004小規模な爆発。噴煙は南西と南東へ。Sigurdsson et al. (1984) JVGR
1982/04/03 19:30約30分間2大振幅の連続微動Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/03 19:3542回目のプリニー式噴火が、爆発とともに始まる様子が目撃・撮影される。De la Cruz–Reyna & Del Pozzo (2009) Geofisica Internacional
1982/04/03 19:35約4.0時間62回目のプリニー式噴火。噴出物から推定したピーク時噴煙柱高度は32 km、噴出率1.9×108 kg/s。噴煙は東北東から西南西へ。崩壊により広い範囲に火砕流および火砕サージが発生Carey & Sigurdsson (1986) JVGR
1982/04/03 19:554流れてくる火砕流が目撃・撮影されるDe la Cruz–Reyna & Del Pozzo (2009) Geofisica Internacional
1982/04/03 20:004(GOES衛星画像に形成中の笠雲が写っている)Matson (1984) JVGR
1982/04/03 20:006噴煙高度16.9 km以上。GOES衛星とラジオゾンデ観測による。当時の圏界面は16.9 km。Matson (1984) JVGR
1982/04/04 01:004(GOES衛星画像に噴煙を流している様子が写っている)Matson (1984) JVGR
1982/04/04 03:00約5.0時間2大振幅の連続微動Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/04 05:22約7.0時間63回目のプリニー式噴火。噴出物から推定したピーク時噴煙柱高度は29 km、噴出率1.1×108 kg/s。噴煙は東北東から西南西へ。Carey & Sigurdsson (1986) JVGR
1982/04/04 07:004(GOES衛星画像に形成中の笠雲が写っている)Matson (1984) JVGR
1982/04/04 07:30約7.0時間2弱い連続微動の継続Jimenez et al. (1999) BV
1982/04/04 07:446一連の噴火で最低輝度を観測。噴煙高度16.9 kmを遥かに上回る。NOAA-6衛星とラジオゾンデ観測による。当時の圏界面は17.3 km。Matson (1984) JVGR
1982/04/04 17:300(GOES衛星画像で噴煙は火山から離れているようにみえる)Matson (1984) JVGR
1982/04/04約30日間1活発な地震活動が1ヶ月程度続くJimenez et al. (1999) BV
噴火推移のイベント一覧.時間は全て現地時刻.

長期的活動推移

El Chichonはメキシコ南部の横ずれ断層地域に孤立して存在しているトラカイト質安山岩マグマを噴出する火山である.山体をWNW-ESE走向で左横ずれのSan Juan断層が横切っており,火道もこの断層沿いに形成されていると考えられている (Galcia-Palomo et al. 2004).過去8000年間に12回の噴火を繰り返しており,1250 BPおよび2500 BPの噴火はマヤ文明にも被害をもたらしたと考えられている.それぞれの噴火は600年程度の静穏機をはさみ,少なくとも9回はVEI-4かそれ以上の規模であった (Espindola et al. 2000).最新の1982年の噴火は歴史記録として残っている唯一の噴火である.

引用文献

Carey, S., Sigurdsson, H., 1986. The 1982 eruptions of El Chichon volcano, Mexico (2): Observations and numerical modelling of tephra-fall distribution. Bull. Volcanol. 48, 127–141. https://doi.org/10.1007/BF01046547

Espíndola, J.M., Macías, J.L., Tilling, R.I., Sheridan, M.F., 2000. Volcanic history of El Chichón Volcano (Chiapas, Mexico) during the Holocene, and its impact on human activity. Bull. Volcanol. 62, 90–104. https://doi.org/10.1007/s004459900064

Garcı́a Palomo, A., Macı́as, J.L., Espı́ndola, J.M., 2004. Strike-slip faults and K-alkaline volcanism at El Chichón volcano, southeastern Mexico. J. Volcanol. Geotherm. Res. 136, 247–268. https://doi.org/10.1016/j.jvolgeores.2004.04.001

Havskov, J., De la Cruz-Reyna, S., Singh, S.K., Medina, F., Gutiérrez, C., 1983. Seismic activity related to the March-April, 1982 eruptions of El Chichon Volcano, Chiapas, Mexico. Geophys. Res. Lett. 10, 293–296. https://doi.org/10.1029/gl010i004p00293

Jiménez, Z., Espíndola, V.H., Espíndola, J.M., 1999. Evolution of the seismic activity from the 1982 eruption of El Chichon Volcano, Chiapas, Mexico. Bull. Volcanol. 61, 411–422. https://doi.org/10.1007/s004450050282

Matson, M., 1984. The 1982 El Chichón Volcano eruptions — A satellite perspective. J. Volcanol. Geotherm. Res. 23, 1–10. https://doi.org/10.1016/0377-0273(84)90054-4

Sigurdsson, H., Carey, S.N., Espindola, J.M., 1984. The 1982 eruptions of El Chichón Volcano, Mexico: Stratigraphy of pyroclastic deposits. J. Volcanol. Geotherm. Res. 23, 11–37. https://doi.org/10.1016/0377-0273(84)90055-6