Version 1.1.0
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Photo of the volcano
白煙を上げながら火砕流が尾白内方面に流下するようす 6月17日17時,森町から撮影.
作成・引用: 勝井ほか (1975)・根元 (1930)・Tsuya et al. (1930), ライセンス: Public Domain

北海道駒ヶ岳
1929年噴火

Hokkaido Komagatake 1929 Eruption
  • 発生地域: 日本
  • 渡島半島
  • 噴火規模: VEI 4
  • ※VEIは産総研 1万年噴火イベントデータ集による

    0.14 km3 DRE

    最高噴煙高度: 13.9 km

  • マグマ組成: 安山岩質
  • 噴火トレンド: 減衰型
火山の位置(厳密な火口の位置を示すものではない).火砕流到達範囲は勝井ほか (1989)より.

主要な噴出物等

  • 降下火砕物
  • あり

  • 火砕流
  • あり

  • 溶岩
  • なし

  • その他
  • 6月19日に北東〜東山腹で泥流が発生

産総研リンク:

第四紀火山: 北海道駒ヶ岳

1万年噴火イベントデータ集: 1929年噴火

外部リンク:

気象庁 全国の活火山の活動履歴等: 北海道駒ヶ岳

米スミソニアン博物館 Volcanoes of the World: Hokkaido-Komagatake

噴火の全体的な推移

カーソルを合わせると詳細が表示される.火山活動の強度を示す縦軸にとったVUCの詳細は【こちら】

前兆現象・噴火開始

噴火の約1年前の1928年6月の踏査では,噴気活動は衰微しており,北海道駒ヶ岳の活動は極めて静穏であったとされている.1929年5月10日には局部的有感地震が記録されている.同年6月16日には,2回にわたり函館測候所で無感地震が観測された (勝井ほか,1975).この地方では噴火の3日前から気圧低下があり,噴火前夜に回復傾向にあったが,噴火時には再び低下傾向にあったことが注意されている.一方で,本噴火は大規模であったにも関わらず,根本 (1930)では,「噴火の前兆としての事象は確実にこれを捕捉し得なかった」と述べている.函館測候所では6月17日0時26分に8分間継続する小さい脈動を記録している.また,南東麓の鹿部では0時30分頃に駒ヶ岳方面からの轟音と顔面にチラチラ触れる感触があったこと,南麓の大沼では同時刻に駒ヶ岳方面からの轟音があったことが記録されている.以上の記録から,本噴火は6月17日0時30分頃に開始したと判断される (勝井ほか,1975)

噴火推移

噴火推移・時系列については,根本 (1930)に詳細に記載されており,勝井ほか (1975)にまとめられている.噴火は6月17日の0時30分頃に轟音を伴って開始した.当初は南麓部に火山灰を降下させ,徐々に降灰量は甚だしいものとなった.5時30分には北麓の掛潤駅にて噴煙の上昇が目撃されている.10時頃に大鳴動を伴う大爆発を起こし,10時20分には南麓の鹿部に軽石が降下した.11時には電光とともに激しい鳴動があり,この時噴煙柱高度は最高に達し,13,900 mであった.12時20分には小規模な軽石流が観測された.その後は小川方面や留の沢方面にも降下軽石が観測され,鳴動・雷鳴は勢いを増していった.14時には土橋方面,15時30分には赤井川方面,16時10分には尾白内方面に軽石流が到達した.その後はさらに17時に新たな軽石流が発生し,赤井川方面に流下した.19時には火口に火柱が上がる様子が確認され,この火柱は21時に最大となり,噴火活動の最盛期を迎えたと考えられる.鹿部では23時に軽石の降下が衰え始め,6月18日0時15分には函館測候所で観測されていた脈動が停止した.その後は徐々に軽石や火山灰の降下が収まり,3時には噴煙の色も黒色から鼠灰色に減衰した.しかし,早朝からの降雨によって沼尻方面に泥流が発生し,人的被害が発生した.6月20日には一部地域に降灰があった.6月21日には北麓の森町でやや強い地震があり,6時には黒煙が上がるようすが観測されたが,この時点で噴火は概ね収束したと考えられる.根本 (1930)は,噴火の10日後と20日後の6月27日と7月7日に本火山を登山しており,この時頂上部一帯は火口や亀裂からの噴気が激しく,視界は10数mに過ぎなかったとしている.噴出量はDRE 0.14 km3であり,北海道駒ヶ岳では本噴火によって新たな火口(昭和4年火口,繭型火口,瓢型火口)が形成された.

日付時刻継続時間(h)VUC内容出典
1929/06/14約48時間0登山客が気づくような異常はみられなかった勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/15 17時頃約5.0時間-117時から22時頃にかけて遠雷・山鳴りがあったとの複数報告があるが雷鳴の可能性も高い勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/16 11:251函館測候所の大森式地震系で無感地震を記録勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/16 13:511函館測候所の大森式地震系で無感地震を記録勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/16 22時頃1鹿部で鳴動あり(北海道社会事業協会, 1937)とされているが、詳細な記録は不明。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 00:27約8分間18分間継続の振幅の小さい脈動(函館測候所)勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 00:304鹿部村小川第二発電所(山頂から6 km)でゴーという音、のち降灰勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 00:304大沼銚子口でゴーという貨物自動車のような音。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 00:304南麓の鹿部村では戸外で顔面にチラチラとした感触勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 00:454鹿部村本別。ザアーという音。灰砂が舞っていた。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 03:504鹿部では降灰が激しくなり、0.6 cm積もっていた。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 05:304北麓の掛潤駅から噴煙の上昇が目撃される。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 08:004大沼方面で爆発音勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 08:01約10分間1函館測候所において08:00:30から10分30秒間、脈動状の振動を記録勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 08:11約38分間1函館測候所において08:11:00から38分間、脈動状の振動を記録勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 09:304濃霧が晴れ、北西麓の森町から羊のような噴煙が見られた。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 09:54約3分間2函館測候所において09:53:38から3分30秒間継続して振動を記録。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 10:005鹿部・大沼・掛澗・駒ヶ岳駅で大音響の報告。掛澗では音を聞かなかったという報告もあり。大沼では黒煙猛烈に上騰するのを目撃。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 10:105鹿部で降灰が盛んに。掛澗からの目撃では噴煙益々猛烈となりこの頃から轟々たる音響。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 10:15約60分間5掛澗からは白雲で噴煙は見えなくなったが、轟音は休むことなく更に激しくなった。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 10:20約15時間5鹿部に直径1.5 cmの軽石が降り始める。軽石の降下は翌18日午前1時半まで続いた。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 11:005電光を伴う激しい鳴動勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 11:205森町で垂直に上昇する噴煙柱の写真が撮影される。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 11:205馬の背外斜面に降下火砕物勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 11:505掛澗駅長の亀ヶ森孝三郎氏による手記。「噴き上げられる火山灰は縞の如く、又其の下降する状はさながら瀑布に似たりとも言ひ得る程似て」「噴き上げらるる石は、しだれ柳の如くに辺りに飛散」勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 12:204小規模軽石流勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 12:305大沼からやや東に傾いた噴煙柱の写真が撮影される。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 12:305掛澗駅長の亀ヶ森孝三郎氏による手記。「噴煙は駒ヶ岳、砂原岳間を溢るる程度に巾広くなり、轟々たる音は地響と共に烈しく、駅及住宅の窓硝子に響く振動」「駒ノ背の中央押出沢に向い、熔岩は白煙と共にモクモクと越えて流下して来ましたが、小量でありましたから駒ノ背の中腹で止まり白煙も直に消へ去りました。」勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 12:305小川方面に降下軽石勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 12:505掛澗駅長の亀ヶ森孝三郎氏による手記。砂原駅から掛澗駅への電話内容。「鳴動烈しく、硝子戸は間断なく振動」勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 13時頃5留の沢に降下軽石勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 14:005鳴動が激しくなり、小川方面に火災が発生勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 14:305鹿部方面の雷鳴が激しくなり、落雷が発生。函館で空振が感じられる。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 14:00約60分間4土橋方面に軽石流が流出勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 15:304赤井川方面の軽石流が山腹まで達し、火災が発生勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 16:10約40分間4尾白内方面に軽石流が到達勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 16:504掛澗駅長の亀ヶ森孝三郎氏による手記。「又々熔岩は駒ノ背より押出沢に向って流下しましたが、今度は前よりも大量に駒ノ背を越えて、モクモクと限りなく異様な速さで流下しました。」勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 16:514掛澗駅長の亀ヶ森孝三郎氏による手記。「同山頂上に白煙が見えたと思ふ間もなく熔岩は非常な勢を似て流下しました。丁度盃内の石鹸泡が溢るゝ様な具合でありました」勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 17:005森町で旺盛に上昇する噴煙と白煙を伴いながら地表を這うような形をとっている噴煙の写真が撮影される。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 17:004砂原岳を越えて新たな軽石流が発生勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 17:404赤井川方面に軽石流勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 18:154赤井川方面に軽石流勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 19:005火口の上に火柱が上がる。赤井川方面に軽石流、尾白内方面に最後の軽石流が到達。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 21:00約2.0時間5火柱の高さが最大に達し、活動が最盛期に達する。激しい軽石の降下により、鹿部方面の家屋を倒壊させた。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 22:004赤井川方面の軽石流が登山道路を越えて到達勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/17 23:004鹿部方面の軽石の降下が衰える勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 00:150函館測候所の地震計は脈動気象を停止。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 00:30約35分間0鳴動が一時停止勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 01:051鳴動が再開勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 01:303火柱が衰える。鹿部で降下軽石が止み、大沼の鳴動が静まる。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 02:002赤井川方面の軽石流の流動が停止勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 03:002鹿部、小川で軽石と火山灰の降下が収まる勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/18 03:00約3.0時間2軽微な鳴動はあるものの、噴煙の色が黒色から鼠白色に減退する。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/19 06時頃-1早朝からの降雨により、沼尻方面に泥流が発生。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/19約48時間419日から21日にかけて、砂原村では時々降灰があった。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/19 15時頃1鳴動勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/19 15:40約1分間11分間の有感地震勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/20 14:00-1小川第二発電所付近で降灰が風とともに襲った。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/20 15:004鹿部村では15時ごろから鳴動と降灰があった。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/214砂原と鹿部で降灰。砂原では時々鳴動と地震が感じられた。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/21 02:002森町でやや強い地震勝井ほか (1975) 北海道防災会議
1929/06/21 06:004森町から黒い噴煙が目撃。勝井ほか (1975) 北海道防災会議
噴火推移のイベント一覧.時間は全て現地時刻.

長期的活動推移

北海道駒ヶ岳は,少なくとも39 cal ka以前に溶岩や火山砕屑物を噴出して形成された安山岩質の成層火山である.約39 cal kaまでに少なくとも4回の降下火砕堆積物を噴出するような噴火と2回の山体崩壊が発生しており,以降の活動は6000年以上の長い休止期間とそれに対応する異なる化学組成グループによって4つの活動期に区分される(吉本ほか,2008).約39 cal kaにはKo-i降下軽石堆積物と火砕流堆積物を噴出した.その後は約20,000年の休止期間の後,Ko-h噴火を皮切りに,20 cal ka〜12.8 cal kaまでの間に4回のプリニー式噴火と火砕流を主体とする噴火を引き起こしている.6000年の休止期間を挟み,Ko-g噴火から開始した噴火活動では,6.8〜6.3 cal kaの間に2回のプリニー式噴火と2回の火砕流を主体とする噴火が発生した.再度6000年間噴火活動を休止した後,北海道駒ヶ岳は1640年に山体崩壊に続くプリニー式噴火と火砕流の噴出によって歴史時代の活動を開始した.以降は小規模な噴火を挟みながら,1694年,1856年,1929年にも火砕流を伴うプリニー式噴火が発生している.最新のマグマ噴火は1942年の火砕サージを伴う噴火であり,以降の活動は小康状態にあった.しかし,1996年 (宇井ほか, 1997a, b),1998年(清水・新谷,1999),2000年(中川ほか, 2000)には水蒸気噴火が発生しており,現在でも活発な噴火活動を続けている (勝井ほか,1989; 吉本ほか,2007).1996年の噴火では,1929年噴火で形成された昭和4年火口内部の南側を中心に水蒸気噴火が発生し,新たな割れ目火口を形成した(宇井ほか,1997a,1997b).その後1998年の噴火でも同様に,昭和4年火口を噴出口として小規模な水蒸気噴火が起きている(清水・新谷,1999).北海道駒ヶ岳の最新の活動は,2000年の9月〜11月にわたって発生した水蒸気噴火であり,いずれも昭和4年火口内で発生している(中川ほか,2002).

引用文献

勝井義雄・横山泉・藤田隆男・江原幸男 (1975) 駒ヶ岳-火山地質・噴火史・活動の現況および防災対策. 北海道防災会議, 194p.

勝井義雄・鈴木建夫・曽屋龍典・吉久康樹 (1989) 北海道駒ヶ岳火山地質図. 火山地質図, 地質調査所

中川光弘・野上健治・石塚吉浩・吉本充宏・高橋良・石井英一・江草匡倫・宮村淳一・志賀透・岡崎紀俊・石丸聡 (2002) 北海道駒ケ岳, 2000年の小噴火とその意義 : 噴出物と火山灰付着性成分の時間変化から見たマグマ活動活発化の証拠. 火山, 46, 295-304, https://doi.org/10.18940/kazan.46.6_295

根本廣記 (1930) 駒ヶ岳爆発噴火調査報告. 験震時報, 4, 71-139.

清水収・新谷融 (1999) 北海道駒ヶ岳1998年10月噴火による降灰. 砂防学会誌, 52, 31-34, https://doi.org/10.11475/sabo1973.52.2_31

Tsuya, H., Tsuboi, S., Kishinouye, F., Takahashi, R., Tsuboi, C., Nakata, K., and Miyabe, N. (1930) The eruption of Komagatake, Hokkaido, in 1929. Bull. Earthq. Res. Inst., 8, 237-319.

宇井忠英・吉本充宏・古川竜太・石塚吉浩・吉田真理夫・宮地直道・勝井義雄・紀藤典夫・雁沢好博・野上健治 (1997a) 北海道駒ヶ岳1996年3月の噴火. 火山, 42, 141-151, https://doi.org/10.18940/kazan.42.2_141

宇井忠英・吉本充宏・佐藤十一・橋本 勲・宮村淳一 (1997b) 北海道駒ヶ岳 1996 年 3 月噴火の噴出量の再検討. 火山, 42, 429-431, https://doi.org/10.18940/kazan.42.6_429

吉本充宏・宝田晋治・高橋良 (2007) 北海道駒ヶ岳火山の噴火履歴. 地質学雑誌, 113, 81-92. https://doi.org/10.5575/geosoc.113.S81

吉本充宏・宮坂瑞穂・高橋良・中川光弘・吉田邦夫 (2008) 北海道駒ヶ岳火山,先歴史時代噴火活動史の再検討. 地質学雑誌, 114, 336-347, https://doi.org/10.5575/geosoc.114.336