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Photo of the volcano
1回目の大規模噴火以降続いていた間欠的な爆発の一つ.3/22とのものとみられる.
作成・引用: K. Kusumadinata, ライセンス: CC BY-NC 4.0

アグン
1963年噴火

Agung 1963 Eruption
  • 発生地域: インドネシア
  • バリ島
  • 噴火規模: VEI 5
  • ※VEIはスミソニアン博物館GVP (Global Volcanism Program)による

    ~0.3 km3 DRE (テフラ) + ~0.1 km3 (溶岩)

    最高噴煙高度: 15-23 km

  • マグマ組成: 安山岩
  • 噴火トレンド: 多峰型
火山の位置(厳密な火口の位置を示すものではない).

主要な噴出物等

  • 降下火砕物
  • あり

  • 火砕流
  • あり

  • 溶岩
  • 噴火序盤に溶岩の噴出

外部リンク:

米スミソニアン博物館 Volcanoes of the World: Agung

噴火の全体的な推移

カーソルを合わせると詳細が表示される.火山活動の強度を示す縦軸にとったVUCの詳細は【こちら】

前兆現象・噴火開始

1963年噴火前のアグン火山は小規模な噴気の増加イベントを除けば100年以上にわたって静穏であった.噴火前に観測機器は設置されていなかったが,開始数日前から有感地震がたびたび感じられるようになっていた (Zen and Hadikusumo, 1964).

噴火推移

Zen and Hadikusumo (1964)に詳細な時系列が記載されている.1963年2月19日からブルカノ式噴火を繰り返す.2月24日に火口から溢れ出した溶岩が斜面を流下し始めると爆発の規模は次第に大きくなり,火口あるいは溶岩の先端から多くの火砕流が発生する.溶岩は全長7 kmに達したが,3月17日の大規模噴火により供給を絶たれたとみられ4月には流動を停止した.3月17日 5:30頃から9:00にかけてプリニー式噴火が発生.火砕流が最大で10 km以上流下し,祭事に集まっていた人々から1000人以上の死者を出した.火砕物が広い範囲に降下し,噴煙は西に流れ1000 km離れたジャカルタにまで達した.その後も5月まで間欠的爆発は続いた.5月16日の16〜17時ごろから再びプリニー式噴火が発生,再び10 km以上火砕流が流下し,8 km遠方まで火砕物が降下した.噴火は翌17日まで弱まりながら連続的に続き,更に1964年1月17日まで間欠的な爆発が続いた.雨季の11月にはラハールが多発し,二次災害をもたらした (Zen and Hadikusumo, 1964).この噴火では約0.1 km3の溶岩と,3月17日の噴火で〜0.2 km3,5月16日の噴火で〜0.1 km3の火砕物(いずれもDRE換算)が噴出した (Self and Rampino, 2012).またエアロゾル注入により最大で0.4 ℃全球平均気温が低下したと見積もられている (Wigley et al., 2005).

日付時刻継続時間(h)VUC内容出典
1963/02/16約48時間2有感地震の増加。メルカリ震度階級II-IIISelf and Rampino (2012) BV
1963/02/18 15時頃218日午後,南斜面のJehkoriで有感地震をたびたび感じるZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/02/18 21時頃218日夜、北麓のTianjarで地鳴りを聴くZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/02/19 01:002北麓のTianjarで地鳴りを聴くZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/02/19 03:00約2.0時間3北麓のTianjarで,月明りの中薄い噴煙が立ち上っているのが目撃されるZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/02/19 05:00約5.0日間419日5時に最初の爆発が聴こえる.以降約1時間おきに間欠的に爆発.規模は次第に激しくなり,夜間は発光現象がみられるように.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/02/204北斜面のSiligadingを火砕流が襲い死者が出る.Self and Rampino (2012) BV
1963/02/24約60日間3安山岩質溶岩が山頂火口から北側に向けて流出.3月半ばまでに長さ7 kmまで伸びる.3/17の噴火で火口は空になり,供給停止? 以降は距離はあまり伸びず,幅を広げる.流動は4月末ごろほぼ停止.体積0.11 km3Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/02/24約21日間4溶岩流出開始と同期して,間欠的な爆発は激しさを増し,南および南東斜面,一部北斜面に火砕流が流下するようになる.噴煙高度は高度9000 m程度に達することも.南西麓Besakihでは火山灰・火山礫が10 cmほど積もる.Self and Rampino (2012) BV
1963/03/17 05:32約3.5時間6目視で13 km以上の噴煙柱高度 (Zen & Hadikusumo, 1964).Self & Rampino (2012)は高度19-26 km程度と推定.火砕流が流下し,南では山頂から約14 km離れたSelatエリアに到達.1200人以上の死者.北斜面では10.5 km流れた.南西斜面のBesakihには火砕流は流下しなかったが,火山礫が25-30 cm降り積もる.1000 km近く離れたジャカルタでも降灰.スラバヤでは真っ暗になるほどの降灰に加え爆発音が聴こえた.降下火砕物の噴出量は約0.4 km3Self and Rampino (2012) BV
1963/03/17017日の噴火後セスナ機による観察では,火口は大きな穴となっており溶岩はみられなかった.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/03/17約45日間45月11日まで間欠的な爆発・火山灰降下・火砕流発生.地鳴りも聴かれる.噴煙高度7 km程度.Self and Rampino (2012) BV
1963/05/11約5.0日間4比較的静穏に1日に10-20回程度の小爆発を繰り返す.白~灰色の噴煙が高度4~5 kmまで上昇.5/11の地鳴りはやや大きかった.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 06時頃約10時間4早朝から爆発の頻度が次第に増すZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 15:554北麓に火砕流が5.5 km流下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:004南東麓に火砕流が流下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:024黒色噴煙が火口から高度8 kmまで立ち昇るZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:044南西Rendangで地鳴り・爆発音・火山雷を観測Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:054南麓Budakelingで地鳴りと焼けつくような音Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:174噴煙が高度10 km程度まで立ち昇るZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:354北麓に火砕流が8 km流下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 16:455地鳴りを伴う爆発に続いて北麓でシャワーのように砂サイズの火砕物が降下.絶え間ない爆発音・焼けつくような音・地鳴り・火山雷.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 17:00約5.0時間5南西Rendangでは17時から22時まで火砕物降下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 17:075厚い噴煙が高度13 kmまで上昇し西に流される.南東斜面に多数の火砕流が流下.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 17:10約5.8時間5北麓で火山礫・砂サイズの粒子が火山灰とともに23時まで降下し続ける.焼けつくような音と地鳴りも継続.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 17:15約30分間6南麓Budakelingでぶどうサイズの火山礫が30分間降り注ぐZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 17:405北麓Batulompehは火山灰で真っ暗になるZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 17:45約3.3時間5南麓Budakelingで2回目の火砕物降下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 18:056南東麓Bedandemではこぶし大の火砕物が降下.南斜面の家屋や森林が火砕流で焼ける.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 18:306北麓Tianjarでも砂サイズの火砕物降下開始.火砕流が10 km流下.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 20:422Karangasamで有感地震Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 21:134南麓Budakelingでは地鳴りが聴こえなくなる.噴火活動の低下.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 23:004噴煙高度8 km.火砕流が6.5 km流下.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/16 23:304北麓Batulompehは砂サイズの火砕物降下が継続Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 00:004北麓Batulompehで聴こえる爆発音が次第に弱く,より間欠的になる.砂サイズの火砕物降下は継続.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 00:494山頂に火が見えたZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 01:004北麓Batulompehでは灰雨が降る.弱い爆発音が間欠的に続く.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 02:004北麓Batulompehでは灰雨が降る.弱い爆発音が間欠的に続く.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 03:004北麓Batulompehでは引き続き弱い爆発音と地鳴りを聴くZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 04:004北麓Batulompehでは爆発音はまれになるZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 06:004北麓Batulompehでは弱い地鳴りが継続.積もった火砕物の厚さは18.5 cmに達する.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 08:004一時的に山頂がみえる.暗色噴煙が北にたなびいていた.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 11:004一時的に山頂がみえる.暗色噴煙が北にたなびいていた.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 15:004火山灰の放出が続く.噴煙高度は5.5 km程度.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 15:154北麓に火砕流が3 km流下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 16:004火山灰の放出が続くZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 18:004噴煙高度は6 kmZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 20:002噴煙停止.流下する溶岩から火砕流発生.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 21:004山頂に火が見えたZen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/17 22:004山頂に火が見えた.同時に流下する溶岩から火砕流発生.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/18 00:004小噴火.噴煙高度5 km.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/18 00時頃約48時間25/18-19にかけて強い有感地震が相次ぐ.山麓のRendangでは家屋を倒壊させるほどではなかったが,斜面のBesakihでは多くの寺院が倒壊,TjulikやKubuでも家屋が倒壊した.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/18-15/18に,飛行機による5/16の噴火の被害の調査が行われた.同噴火で火砕流は北・西・南・南東に流下.最大で山頂から11.5 kmまで到達した.南西麓Besakihには人頭大の火山弾が堆積.山頂からおよそ8 kmの範囲において火山弾や火山礫の降下と,それに伴う火災の被害がみられた.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/18 17:004火砕流が1 km流下Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/18 21:002北麓Batulompehでは4回いずれも15秒ほどの地鳴りと有感地震があった.火山性微動が観測された.Zen and Hadikusumo (1964) BV
1963/05/19 00:00約6.9ヶ月4翌1964/01/17まで間欠的な爆発Self and Rampino (2012) BV
1963/05/315爆発.高度12 kmの噴煙.Self and Rampino (2012) BV
1963/06/144爆発.高度6~7 kmの噴煙と火砕流発生.Self and Rampino (2012) BV
1963/10/224爆発.高度6~7 kmの噴煙と火砕流発生.Self and Rampino (2012) BV
1963 11月-1雨季により多くのラハールが発生し死者が出たSelf and Rampino (2012) BV
噴火推移のイベント一覧.時間は全て現地時刻.

長期的活動推移

アグン火山はスンダ孤に位置するバリ島東部にそびえる安山岩質の大型成層火山(標高約3000 m)である.完新世後期においては100年に1回程度VEI2〜5の噴火を行い,降下火砕物と火砕流を発生させてきた (Fontijn et al., 2015).

引用文献

Fontijn, K., Costa, F., Sutawidjaja, I., Newhall, C.G. and Herrin, J.S. (2015) A 5000-year record of multiple highly explosive mafic eruptions from Gunung Agung (Bali, Indonesia): implications for eruption frequency and volcanic hazards. Bull. Volcanol. 77, 59. https://doi.org/10.1007/s00445-015-0943-x

Self, S. and Rampino, M.R. (2012) The 1963–1964 eruption of Agung volcano (Bali, Indonesia). Bull. Volcanol., 74, 1521–1536. https://doi.org/10.1007/s00445-012-0615-z

Wigley, T.M.L., Ammann, C.M., Santer, B.D., and Raper, S.C.B. (2005) Effect of climate sensitivity on the response to volcanic forcing. J. Geophys. Res. [Atmospheres], 110, 1–8. https://doi.org/10.1029/2004JD005557

Zen, M.T. and Hadikusumo, D. (1964) Preliminary report on the 1963 eruption of Mt.Agung in Bali (Indonesia). Bull. Volcanol., 27, 269–299. https://doi.org/10.1007/BF02597526