神津島前浜の西南西約5.8kmに比較的大きい2つの岩礁とそのほか多数の小岩礁群とがあり,恩馳(おんはせ)島と総称されている.筆者は大きい岩礁のうち,南西の岩礁に上陸し,試料の採取を行ったが,ほかの岩礁には接岸できなかった.しかし,舟からと上陸地点とからの観察では,本来は1個の溶岩円頂丘であったと見てよいと思う.ここでは,この岩礁群を恩馳島火山(Ob)と呼ぶことにする.この円頂丘溶岩は北東-南西の長径が少なくとも約1.1 km,短径約0.6 km,厚さ60m以上で,流理構造が良く発達しており,粗い柱状節理が見られる.Tsuya(1929, p.290)によれば,白色で非顕晶質(felsitic)な岩体中に真黒な黒曜岩がはさまれていると記載されている.神津島の人達の話によると,海面下浅所に黒曜岩質の部分か露出しており,又,黒曜岩礫も多いという. 無斑晶状流紋岩(黒曜岩質)(FT 505,鈴木正男標本):恩馳島,円頂丘溶岩.大塊では,黒色と帯灰黒色との色調の差によって示される流理構造が見られる黒曜岩.小さい破片ではほとんど無色透明である斜長石と思われる斑晶が極めてまれに存在する.
Tsuya(1929,p.290-291)は恩馳島群のうち,Sappan-jima(サッパン島,現在この名称は使われていないようである)で採取した珪長岩質試料の主成分化学分析値を発表している.その値は第4表,No. 6に引用されている.