岩石
神津島の北岸,返浜の東(おおやせ)の海食崖下部に露出する“氷長石化作用”を受けたデイサイト溶岩が,本地域内に含まれる第四紀の流紋岩単成火山群の基盤岩であろう.この岩石は potash-liparite (Tsuya,1929),加里長石流紋岩(津屋,1930),potash-rhyolite(Kuno,1962)などと記載されたものである.
神津島・祇苗島・恩馳島及び式根島の流紋岩単成火山を構組成する岩石は,紫蘇輝石流紋岩・普通角閃石含有紫蘇輝石流紋岩・カミングトン閃石流紋岩及び黒雲母流紋岩の溶岩及び火山砕屑性堆積物である.これら流紋岩は斑晶として数-10数vol%の斜長石,数vol%の石英及び1vol%以下の苦鉄質鉱物を含む.Tsuya(1929)は天上山を構成する溶岩などにわずかではあるがサニディン斑晶が含まれると述べているが,筆者はその存在を確認していない.石基はガラス質ないし微晶質である.量的には黒雲母流紋岩が一番多く,又,無斑晶状岩は非常に少ない.神津島の南南西部を占める面房火山稜紫蘇輝石流紋岩中にはクリスクロス(criss-cross)・織を有する玄武岩質包有物が見いだされる.谷口(1977)は同島西海岸の北部に露出する長浜火山稜カミングトン閃石流紋岩溶岩(谷口の沢尻湾溶岩)中にも同種の包有物を見いだしている.これら玄武岩質包有物はこれらを含むより珪長質な岩石(ここでは流紋岩)と成因的に同じ進化系列に属するマグマから早期に晶出した結晶の集合体であるとか,珪長質マグマを地表に噴出させる引き金となった苦鉄質マグマ片の固結物であるとか考えられている.
第1表に本地域に産出する代表的な岩石の主成分化学・組成及びCIPWノル灰を示した.No.1は“氷長石作用”を受けたデイサイトで,この試料ではK2Oが10.77 wt%と高いが,同一岩体から採取した別の試料ではK2Oが6.83wt%〔Kaneoka et al.(1970,p.56,Table 1)の altered rhyolite,K =5.67±0.16〕と低く,“氷長石化作用”の程度が岩体の部分によって異なるためであるらしい.No.2 及びNos.5-12は単組成火山を構組成する各種の流紋岩の組組成であり,CIPWノル灰値においてor>an及びor<abであることから Kuno(1962)によって soda-rhyolite(ソーダ流紋岩)と呼ばれたが,この報告書では繁雑を避けるため単に流紋岩としておく.Nos.3-4はNo.2の紫蘇輝石流紋岩に含まれる玄武 岩質包有物の組成である.第4表から分かるように,No.2及びNos.5-12の流紋岩はほかの組成分はほとんど差異がないのに,K2OとH2O(+)の変化量が大きい.両者の変化の関係を知る目的でH2O(+)―K2O図を作って見た(第9図).第9図から明らかなように,H2O(+)とK2Oが逆相関する.このことは加水作用が進行するに従ってK2Oが溶脱することを示している.第9図で右側にプロットされる 2点(第4表のNo.5とNo.11)の分析試料はTsuya(1929)によれば“uniformly pumiceous”(一様に軽石質)と記載されており,軽石質試料は化学分析に適しないことを示している.本来の化学・組成を知るためには,緻密ガラス質(黒曜石質)あるいは微晶質(石質)石基を有する試料を選び分析しなければならない.
(図幅第13図)