Km1
開聞岳火山の最初期に噴出したテフラである.川尻東露頭では,池田火砕流堆積物,鍋島岳テフラの上に腐植土層を挟んで堆積している.最下位には不明瞭な層理がある厚さ11 cmの灰色火山灰があり,その上に発泡が悪く,平面で囲まれた最大平均粒径1.7 cmの黒色スコリアからなるKm12が32 cmの厚さで重なる.Km13は黄褐色の細粒火山灰層で,厚さ60 cm,固く成層し径1 cm弱ほどの火山豆石を大量に含むユニットで,成尾(1984)の“黄ゴラ”に相当する.Km14は,厚さ90 cm,最大平均粒径4.0 cmの急冷縁を持つカリフラワー状スコリアからなる降下スコリア層で,安山岩,花崗岩,変質した火山岩などの異質・類質礫を含む.火山灰でコーティングされた細粒スコリア層が挟まれる.
急冷された特徴を示すスコリアや,火山豆石,異質類質礫を含むことから,開聞岳火山初期の激しいマグマ水蒸気爆発で形成されたテフラ層と考えられる.テフラ噴出量は,2.7×108 m3(DRE)である(藤野・小林,1997).
Km1の噴火年代については,石川ほか(1979)がKm1中の炭化木片から4040±120 yBPを得ている.古川・中村(1969)はKm1に対比される最下位の火山灰層上の腐植から3620±140 yBPの年代値を得ている.今回の調査でKm1直下の腐植土壌の放射性炭素年代測定を行い,3740±50 yBP (Beta-130333) の値を得た( 第2表の4).このことからKm1の噴火年代は,3.7〜4.0 kaと考えられる.
Km2
Km1との間に腐植土壌を挟んで堆積する.川尻東露頭では,厚さ5 cm.平均粒径2 cmほどの発泡のよい降下スコリア層で,黄褐色の変質した類質岩片を含む.噴出量は,2.0×106m3(DRE)である(藤野・小林,1997).
Km3
褐色の粘土質細粒火山灰からなる.藤野・小林(1997)によると,鏡池近くの露頭で8cmの厚さがあり,開聞岳近傍でしか確認できない.川尻東露頭では,Km2との間にほとんど腐植土層を挟まず堆積し,類質岩片を含み,厚さ10 cmほどである.噴出量は2.0×106 m3(DRE)である(藤野・小林,1997).
Km4
開聞岳火山の北西方向に分布主軸を持つ降下テフラで,古くから“コラ”(灰ゴラ;成尾,1984)と呼ばれ,耕作障害物として知られてきた.川尻東露頭では,下位から厚さ14Cmの発泡のよい最大平均粒径2cm弱の黒色スコリア(Km41),厚さ5cmの火山豆石を含む粗粒紫色火山灰(Km42),厚さ20cmの火山灰混じりの最大平均粒径3cmほどの黒色スコリア(Km43)と重なり,最上位に全体の厚さ30cm,シルトサイズの黄褐色火山灰からなるKm44がある.Km44の下半部は火山灰層が卓越し,直径3〜5mmの火山豆石を大量に含み,斜交層理も認められる.植物印象も多く残っている.さらに上部は厚さ8cmの橙色細粒火山灰層を挟んで全体の厚さが40cmの細粒スコリア・火山砂層がある.本報告ではこれをKm45と呼ぶ.藤野・小林(1997)は,Km44に池田火砕流起源の角閃石・石英を認め,Km44をもたらした噴火は,開聞岳山麓部で発生したと考えた.噴出量は1.3×108m3(DRE)である(藤野・小林,1997).
古川・中村(1969)はKm4に対比できるコラ層下の腐植から,3590±100yBPの放射性炭素年代値を得ている.今回,新たにKm4直下の腐植土壌の放射性炭素年代測定を行い,3130±40yBP(Beta-175237)の年代値を得た( 第2表の3).このことからKm4噴火は,3.1 kaに発生したと考えられる.