開聞岳火山は,ほとんど浸食を受けていない円錐形の成層火山からなる.北側山腹標高650 m付近には,山頂部を構成する中央火口丘によって南半分が埋め立てられた鉢窪火口の北側火口縁が残っている.北西-北東山麓には新鮮な溶岩流地形が見られ,海岸線は一部を除き最大比高40〜50 mほどの海食崖が発達する.
開聞岳の南-南東海底は,水深150〜200 m付近まで開聞岳斜面の延長部からなる.さらに南東側には,比高最大150 m近い海底崖(開聞海底崖;海上保安庁,1980)があり,そこから南西に水深240〜280 mの小さな起伏に富んだ地形面が広がっている(第3図 B).この起伏を伴う地形面を,中村(1967,1971,1984)は,開聞岳の山体崩壊によるものとし,開聞岳火山の鉢窪火口の成因と結びつけて考えた.しかし開聞岳火山の斜面延長が開聞海底崖を覆うように見えること,規模が大きすぎることから,開聞岳火山山体の崩壊堆積物というより,より古い海底地滑りによる堆積物と考えたほうがよいと思われる.
A:長崎鼻南東沖の凹地形.B:小起伏に富んだ地形.
(図幅第1.7図)
開聞岳火山は,玄武岩マグマの噴火活動により4.0kaごろ始まり,(桑代,1966;中村,1978;藤野・小林,1997),活動初期には海水とマグマが反応しマグマ水蒸気爆発を発生させ,川尻[かわしり]爆発角礫岩が堆積した.また,開聞岳テフラ中に火山豆石や異質岩片などが大量に含まれる.開聞岳主山体は開析のほとんど進んでいない円錐形の火山体で,山麓には松原田[まつばらでん]溶岩,花瀬[はなせ]溶岩,開聞岳南溶岩,十町[じっちょう]溶岩,横瀬[よこせ]溶岩などが流下している.また,開聞岳南海岸には横瀬[よこせ]火砕丘などの側火山がある.開聞岳主山体の南西部では,874年火砕流・土石流堆積物が主山体の表面を覆っている.山頂火口(鉢窪[はちくぼ]火口)は西暦885年に噴出した安山岩質の885年噴火噴出物に埋め立てられ,北縁だけがわずかに残っている.山頂部の885年噴火噴出物は,885年スコリア丘,885年溶岩流,885年溶岩ドームからなり,東斜面に885年火砕流堆積物が流下している.このほか西山腹の側火口からから田ノ崎溶岩が流下している.
代表的な試料の主成分化学組成を第1表に,新たに測定した放射性炭素年代値を 第2表に示す.
(図幅第2.1表)
松原田溶岩 |
開聞岳南溶岩 |
横瀬溶岩 |
885年溶岩ドーム |
|
SiO2 |
53.54 |
51.60 |
54.81 |
57.02 |
TiO2 |
1.11 |
0.95 |
0.87 |
0.86 |
Al2O3 |
17.83 |
20.20 |
18.36 |
18.05 |
Fe2O3 |
9.90 |
9.22 |
8.60 |
8.32 |
MnO |
0.18 |
0.17 |
0.17 |
0.17 |
MgO |
3.34 |
3.78 |
3.15 |
3.11 |
CaO |
10.21 |
10.16 |
9.32 |
7.34 |
Na2O |
3.13 |
3.11 |
3.68 |
3.77 |
K2O |
0.58 |
0.61 |
0.82 |
1.09 |
P2O5 |
0.20 |
0.20 |
0.21 |
0.26 |