磐梯葉山1火砕堆積物(Bn-HP1)
磐梯火山で,4.6万年前頃に発生したプリニー式噴火の産物で,翁島岩屑なだれ堆積物と指交する軽石流堆積物(Bh;地質図にはこの堆積物の分布のみ示した)と分布主軸が東へ向く降下火砕堆積物からなる.
地層名 山元・須藤(1996)命名.本堆積物は,中馬・吉田(1982)でHP1,千葉ほか(1994)で葉山1b軽石(HP1b)とされた降下火砕堆積物と同じものである.また,小荒井ほか(1994)は本火砕堆積物のうちの火砕流堆積物を更科軽石流堆積物と呼び,彼らもこの堆積物をHP1に対比している.
模式地 耶麻郡猪苗代町離松の赤埴林道沿い( 第10図;Loc. 9).
分布・構造 降下火砕堆積物は,赤埴—櫛ヶ峰山体を覆う風成火山灰土,安達太良山麓の沼尻・湯川火砕流堆積物や伏拝・山崎岩屑なだれ堆積物を覆う風成火山灰土(東隣「二本松」地域;阪口,1995)や,阿武隈山地内の高位・中位段丘の厚い被覆風成火山灰土(「川俣」地域;久保ほか,2015)や,中通りの郡山層河川堆積物(南東隣「郡山」地域;山元,2003)に挟まれている.
層序関係 赤埴—櫛ヶ峰山体を覆う火山灰土中では,Nm-MZと姶良Tnテフラ(AT)の間の風成火山灰土中にある( 第10図).
層厚 降下火砕堆積物は磐梯山南東山麓で80 cm以上の層厚を持ち,東に向かって層厚が減少する(第19図;山元,2012).降下火砕堆積物の8 cm等層厚線と面積の関係からLegros(2000)の手法で最小体積を積算すると約4×10-1 km3(堆積物の平均密度を800 kg/m3として岩石換算体積は約1×10-1 km3 DRE)となる.
岩相 模式地周辺の降下火砕堆積物は,層厚85 cmの逆級化層理の顕著な直方輝石単斜輝石安山岩の軽石粗粒火山礫からなる.軽石の最大粒径は6.5 cmで,軽石間を斜長石等の遊離結晶片からなる粗粒火山灰がまばらに埋めている.また,基底部の厚さ数cmの部分は結晶片が多い灰色の粗粒火山灰のみから構成されている.
磐梯火山の南西麓には,翁島岩屑なだれ堆積物の流れ山間の低地を埋めるようにして,層厚4 m以下の本火砕堆積物の軽石流堆積物が分布する( 第17図).この堆積物はやや固結した結晶片に富む粗粒火山灰の基質を持つ凝灰角礫岩〜火山礫凝灰岩で,径50 cm以下の軽石がレンズ状に濃集した粗い成層構造をつくっている.また,脱ガスパイプも確認できる.異質岩片としては径5 cm以下の安山岩がまばらに含まれる程度で,量はあまり多くない.翁島岩屑なだれ堆積物を直接覆っており,両者の間に土壌は形成されていない.また,Loc. 12では,軽石流堆積物を層厚120 cmの塊状で基質支持の凝灰角礫岩が覆っている(第20図).この凝灰角礫岩には岩屑なだれ堆積物に特徴的な岩塊相が認められないものの,各種の変質を受けた多様な安山岩岩片から構成され,本質岩片が見いだせない.従って,軽石流堆積物を覆うこの凝灰角礫岩は,軽石噴火の直接の産物ではなく,これに伴った山体崩壊に由来する流れの縁辺相であろう.同様の層序関係は山側のLoc. 14でも観察でき,ここでは岩塊相を含む二層の岩屑なだれ堆積物の間に,層厚40〜10 cmでサンドウェーブ層理の発達した,軽石細粒火山礫混じりの粗粒火山灰〜細粒火山灰互層が挟まれている(三村・遠藤,1997).この火砕サージ堆積物と山麓の軽石流堆積物の直接の関係は露頭で確認していないものの,どちらの産状も翁島山体崩壊時に軽石を噴出する爆発的噴火が同時に起きたことを意味している.
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年代 福島県郡山市の中位段丘を構成する郡山層(南東隣「郡山」地域)に挟まれる磐梯葉山1火砕堆積物(降下火砕堆積物)直下の保存の良い植物遺体から42,150 ± 1,160 yBP (AB201) の補正14C年代が報告されている(山元,2003).これをIntCal13データベース(Reimer et al., 2013)を用い、OxCalv4.2較正プログラム(Bronk Ramsey, 2009)で暦年較正すると4.6万年前となる( 第1表)
数字は降下火砕堆積物の層厚で,単位はcm.Ad=安達太良火山,Az=吾妻火山,Bn=磐梯火山,Nk=猫魔火山.山元(2012)を一部修正.
磐梯葉山1火砕堆積物(Bn-HP1)中の軽石流堆積物(Bh)は古土壌や非火山性堆積物を挟むことなく,翁島岩屑なだれ堆積物(Bj)の基質支持の多源角礫岩に覆われている.一方,これらを覆う火山麓扇状地1堆積物は,炭質物に富む塊状シルト(Fm)と1.8〜1.7万年前の小規模な岩屑なだれ堆積物(Gms)で構成されている.福島県磐梯町更科(北緯37度33分34秒,東経 140度1分21秒; 第17図のLoc. 12).山元・須藤(1996)の第8図を再掲載.