火山麓扇状地1堆積物(vf1)
本堆積物は,大磐梯山体の火山斜面の麓に広がる,ほとんど開析を受けていないMIS2に形成された扇状地を構成する.また,本堆積物はFuruya(1965)のSunagawa alluvial cone,吉田・鈴木(1981)の磨上原泥流堆積物・砂川層,中馬・吉田(1982)の上部磨上原火山性泥流堆積物・砂川層にほぼ相当している.なお,本報告では猫魔火山の南麓に分布する同火山新期火山麓扇状地堆積物(山元ほか,2006)も,本堆積物に含めている.
分布・構造 大磐梯山の山腹にある3本の沢から流出した堆積物を主体とする複合扇状地で,翁島岩屑なだれ堆積物の流れ山を避けるように分布している.
層序関係 翁島岩屑なだれ堆積物・磐梯葉山1火砕堆積物の軽石流堆積物を覆う.
層厚 南山麓部の掘削コアで,最大30 mの層厚が確認されている(鈴木,1988).
岩相 小規模な岩屑なだれ堆積物や土石流堆積物以外に,成層した砂や泥を挟んでおり,本報ではこれらを火山麓扇状地1堆積物として一括した.吉田・鈴木(1981)は本堆積物中からATを見いだしている.
Loc. 12( 第17図)の本堆積物は,層厚40〜30 cmの木片を含んだ塊状の砂質シルト(Fm)とこれを覆う層厚3〜2.5 mの固結度の低い塊状の安山岩角礫(Gms)からなり,磐梯葉山1火砕流堆積物を覆っている( 第20図).上位の塊状角礫(Gms)は粘土分や取り込まれた木片の多い淘汰の悪い基質を持ち,極めて淘汰が悪く,堆積構造を欠く.角礫の最大粒径は約2 mで,色調や斑晶量が異なる多様な安山岩が含まれている.塊状角礫中に岩屑なだれ堆積物の岩塊相のような山体構成物の破片は認めることができないものの,堆積物の特徴は岩屑なだれ堆積物のマトリックス相に良く似ている.従って,この堆積物は大磐梯山体上で起きた何らかの斜面崩壊の産物で,デブリフローとして扇状地上を流下したものと考えられる.この堆積物は,千葉・木村(2001)の「古観音岩屑なだれ堆積物」に相当する.ほぼ同様の層序関係はすぐ山側のLoc. 14でも確認されているが(三村・遠藤,1997),露頭が乏しくこの堆積物が扇状地上でどの程度の広がりをもつものなのかは確認できていない.
扇状地の上部,例えば西山腹の磐梯山ゴールドライン沿いでは,径2 m以下の安山岩岩塊を含む岩片支持で粗〜中粒砂の基質を持つ塊状の土石流堆積物が卓越している.千葉・木村(2001)は,このような岩相も「滝ノ沢岩屑なだれ堆積物」として地質単元を設定しているが,岩屑なだれ堆積物に特徴的な岩塊相と基質相が認定できない.このほか,扇状地堆積物の末端付近では,高密度洪水流堆積物とみられる粗粒砂の基質を持つ岩片支持の安山岩火山円礫岩や連続性の悪い平行層理を持った安山岩礫混じり粗粒砂や,オーバーバンク堆積物と見られる植物遺骸の多いシルトが多くなり,このような部分が「砂川層」と呼ばれていた.
年代 Loc. 12の塊状角礫( 第20図)の基質に含まれる木片からは14,190 yBP(BN-204)と14,380 yBP(BN-205)の二つのδ13C未補正14C年代値を得ている(山元・須藤,1996).その暦年代は,IntCal13データベース(Reimer et al., 2013)を参照すると,1.8〜1.7万年前頃となる.大磐梯山体活動終了後のMIS2にいずれかの沢の谷頭部が小規模に崩壊して発生した可能性が大きい.