火山麓扇状地3堆積物(vf3)
本堆積物は,赤埴—櫛ヶ峰火山噴出物の下部斜面を構成する火山麓扇状地堆積物である.
分布・構造 赤埴山を頂点に南東へ向かって広がる火山体の下部に分布するほか,櫛ヶ峰の東南東山麓にも分布する.斜面の末端は河川侵食により,急崖となる箇所がある.
層序関係 赤埴—櫛ヶ峰火山噴出物と同時異相の関係にある.
層厚 南東山麓で50 m以上の層厚を持つ.
岩相 本堆積物は,安山岩礫からなる粗粒の土石流堆積物とこれを覆う赤埴—櫛ヶ峰火山噴出物縁辺相の火砕流堆積物・降下火砕堆積物からなる.さらに,これらの堆積物を厚さ5〜3 mで降下火砕物を多く挟んだ褐色の粘土化した風成層が被覆している(第10図).
南端部の猪苗代町諏訪前(第10図のLoc. 11)では,基質支持で雑多な安山岩礫からなる土石流堆積物を覆って,層厚180 cmで基底部に逆級化構造を持った,岩片支持で粗粒火山灰の基質を持った単源で非溶結の直方輝石単斜輝石安山岩スコリア流堆積物が分布する(第11図).さらにこの堆積物の上位には,間に土壌を挟むことなく,厚さ35 cmのスコリア細粒火山礫の降下火砕堆積物が重なっている.これらは山元・須藤(1996)の見祢山火砕堆積物で,スコリア流堆積物の最大粒径は80 cm,牛糞状の火山弾を含み,スコリアと基質の粗粒火山灰は高温酸化で赤褐色化を受けている.櫛ヶ峰の東南東山麓でも土石流堆積物を覆って,厚いスコリア降下火砕堆積物が2枚あるが(第10図;Loc. 9など),そのうち上位のものは見祢山火砕堆積物に対比される可能性が大きい.
火山麓扇状地堆積物の主体は,岩片支持で粗粒砂基質を持つ逆級化した円礫や基質支持で淘汰の悪い砂質基質を持つ塊状の円礫からなる土石流堆積物である.しばしば,土石流堆積物間に中礫混じりの成層した中粒〜粗粒砂を伴うほか,猪苗代町長坂の南では三村(1988)により「長坂火砕流堆積物」と呼ばれた単源の凝灰角礫岩からなる石質火砕流堆積物も含んでいる.一方,千葉・木村(2001)は成因の異なる円礫・砂・石質火砕流堆積物を一つにまとめて「長坂岩屑なだれ堆積物」と呼んでいるが,単一の岩屑なだれ堆積物ではないことは岩相から明らかである.また,千葉・木村(2001)が南山麓で「八ノ木岩屑なだれ堆積物」と呼んだものの一部は,岩屑なだれ堆積物に特徴的な岩塊相・基質相が認められず,本火山麓扇状地を構成する土石流堆積物である.
年代 千葉ほか(1994)は,寒冷層準を基準にしたδ18O層準編年から,見祢山火砕堆積物の噴出時期を約25万年前と見積もっている.また,40 cmの風成火山灰土を挟んで見祢火砕堆積物の上位には,約22万年前の砂子原久保田テフラが重なり(山元・須藤,1996;山元,2012;第11図),見祢火砕堆積物の推定年代約25万年と矛盾しない.従って,本堆積物の主体である直下の土石流堆積物群は,海洋酸素同位体ステージ(MIS)8に形成されたものとみられる.
Gms=土石流堆積物,Bh=磐梯葉山1火砕堆積物(軽石流堆積物),Bj=翁島岩屑なだれ堆積物,1888=1888年火砕堆積物.その他のテフラ層の略号は第9.1表を参照のこと.Loc.9=福島県猪苗代町離松(北緯37度35分33秒,東経 140度6分6秒),Loc. 10=福島県猪苗代町見祢山猪苗代スキー場(北緯37度34分37秒,東経 140度6分2秒),Loc. 11=福島県猪苗代町諏訪前(北緯37度33分56秒,東経 140度5分34秒),Loc. 12=福島県磐梯町更科(北緯37度33分34秒,東経 140度1分21秒),Loc. 13=福島県磐梯町磐梯(北緯37度33分37秒,東経 139度58分56秒;西隣「喜多方」地域内).山元・須藤(1996)を一部修正. 山元・須藤(1996)ではDKPとしていたテフラ層は,火山ガラスの化学組成からSAN1に修正されている(山元,2017).
火山麓扇状地3堆積物は,土石流堆積物(Gms)と見祢山火砕堆積物(スコリア流堆積物,Bn-Mn)からなる.扇状地堆積物を覆う風成火山灰土中には砂子原久保田テフラ(Sn-KB)と磐梯葉山2火砕堆積物(Bn-HP2)が挟まれている.福島県猪苗代町諏訪前(北緯37度33分56秒,東経 140度5分34秒).山元・須藤(1996)の第4図を再掲載.