大磐梯火山噴出物(Bo, Boc)
大磐梯山体は翁島山体崩壊の後の馬蹄形カルデラ内に形成された,安山岩質の成層火山体である.地質図では溶岩(Bo)と火砕岩(Boc)に区分して示した.
地層名 八島・千葉(1982)の大磐梯火山岩類,三村(1988)の大磐梯火山体による.
模式地 耶麻郡猪苗代町,磐梯山山頂.
分布・構造 この山体は平滑な表面を持つ円錐形の磐梯山山頂部と,ここから南から南西方向に流下した厚い複数の溶岩流で構成されている( トップ写真).
層序関係 古期山体を,不整合で覆う.
層厚 断面図からは,磐梯山山頂直下で400〜500 mの層厚を持つものとみられる.
岩相 磐梯山山頂東側の崩壊壁には,八島(1981)が記載したように発泡の悪いかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩岩片からなる粗粒降下火砕堆積物(Boc)とこれにアバットする厚い安山岩溶岩(Bo)が露出しており,これらは火砕丘と火口を満たした溶岩流であると見られる.火山斜面上に認められる溶岩流は,天鏡台や押立付近で顕著な末端崖によってその輪郭が容易にたどれるものの,その上面は平滑で,溶岩じわや溶岩堤防などの微地形は顕著ではない.従って,これらの溶岩流は新しい噴出物やその二次堆積物に薄く覆われていると考えられ,実際に露頭ではかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩のブロック溶岩流の上位に安山岩質の粗粒火山灰が重なるのが観察される.押立のブロック溶岩流の厚さは,末端で100 mを超えている.一方,磐梯山山頂南西の急斜面の表層には,厚さ数10 mの二次流動したかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩の火砕成溶岩流が露出しており,これが山麓表層部の粗粒火山灰に移行するものとみられる.
火山灰層序から大磐梯火山噴出物と見られる降下火砕堆積物は,東山腹で磐梯葉山1降下火砕堆積物とATの間に2枚,その存在が確認できる( 第10図)この降下火砕堆積物は,どちらも発泡の悪いかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩からなり,Loc. 3の下位のものは層厚38 cmで最大径3.2 cmの火山礫の混じった黒紫灰色粗粒火山灰,上位のものは層厚6 cmで最大径2.2 cmの多面体型黒灰色火山礫で構成されている.発泡の悪い本質岩片からなる堆積物の特徴は,ブルカノ式噴火に由来することを示しており,安山岩質マグマの噴火様式としてはごく普通のことである.特に下位の降下火砕堆積物は東斜面上で良く追跡でき,大磐梯山頂に向かって層厚が急増するものの,堆積物の分布自体は山体の東5 km程の範囲に限定されており,噴火の爆発力がそれだけ小さかったものと考えられる.
本火山噴出物の岩石は,斑晶量40〜30%でインターサータル〜ハイアロオフィティック組織の石基を持つかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩からなる.斜長石と直方輝石・単斜輝石の多くが集斑晶をなし,斜長石斑晶には汚濁帯を持つものが多い(第21図).全岩化学組成の特徴は古期山体火山噴出物と比べMgOとK2Oに富む特徴が顕著で,かつ小磐梯火山噴出物とは区別ができない( 第6.2図;山元,2011).
年代 大磐梯火山噴出物の大半は,層序関係から4.6万年前の葉山1噴火と3万年前のAT噴火の間に形成されたと考えられる.一方,中馬・千葉(1984)は山麓表層部の粗粒火山灰中の木片から23,660 ± 890 yBPのδ13C未補正14C年代値を報告しており,これは大磐梯山体の活動末期の年代を示すものであろう.その暦年代は,IntCal13データベース(Reimer et al., 2013)を参照すると,2.6〜2.7万年前頃となる.
直方輝石単斜輝石安山岩溶岩.斜長石斑晶(Pl)は,汚濁帯を持つものが多い.また,単斜輝石(Cpx)・直方輝石(Opx)と伴に集斑晶を形成する.石基は,インターサータル組織を持つ.写真の横幅は,6 mm.オープンニコル.福島県猪苗代町磐梯山(北緯37度35分48秒,東経 140度4分9秒).