土湯沢岩屑なだれ堆積物(Bt)
本堆積物は,土湯沢中〜下流部を埋める岩屑なだれ堆積物である.
地層名 貞方(1979)の土湯沢泥流による.
模式地 耶麻郡猪苗代町土湯沢.
分布・構造 土湯沢の源頭部には,櫛ヶ峰山頂から北北東に開いた急崖があることから( 第22図),この部分が崩落して本堆積物となったとみられる.
層序関係 この岩屑なだれ堆積物の上には厚さ6 cm程度の植物根の多い土壌層が重なるだけで(第31図),他の堆積物は確認できず,地質学的に最近に発生したものであることは確実である.
層厚 下限不明.
岩相 堆積物の表面には,安山岩岩塊が散在している.堆積物の内部は,ほとんど露出していない.僅かな露頭では,固結度が低く淘汰の悪い安山岩の火山岩塊〜火山灰が観察できる(第31図).
年代 山元(2018)により,この岩屑なだれの発生は以下の古文書の災害記述に対応する可能性が指摘されている.すなわち,『新編會津風土記巻五十一』の陸奥国耶麻郡之三には,「何ノ頃ニカ磐梯山崩レテ酸川ヲ塞キ小田村ノ邊マテ水湛テ湖水ノ如クナリシニ其後水潰エテ平地トナリヌ今猶此所ヨリ萩窪村ノ邊マテ大石多ク碁置セルハ其跡ナリト云(中略)荻窪村(中略)澁谷村(中略)下館村(中略)白木城村(中略)水災ニ逢ヒ多クハ居ヲ端村ニ移セリ」と,大規模な土砂崩壊と堰止湖決壊による水害を示す具体的な記述がある(会津藩地誌局編,1894).同じ土砂災害の記述は猪苗代町堀切の長瀬川沿いにあった橋姫神社の社記にもあり,「大同二年磐梯山崩れて根山となり檜原,吾妻の両川を埋めたり(中略)檜原川(中略)吾妻川(中略)酸川(中略)三流の川一筋となり七瀬川と云う」とされる(福島県耶麻郡編,1919, p.970—971).
『新編會津風土記』にある洪水被災域からは耕地整理や河川改修の際に木片が産出しており,1,360 ± 90 yBP(TH-730)と1,365 ± 90 yBP(TH-174)のδ13C未補正14C年代値が報告されている(小元,1982).仮にこれらの試料のδ13Cが木片として標準的なものとすると,平均値-25 ‰からの補正年代は数10年程度若くなる.また,IntCal13データベース(Reimer et al., 2013)を参照すると,この時期の14C年代値は,暦年代よりも100年近く古くなる傾向がある.従って,誤差も考慮すると小元(1982)の14C年代値は,奈良時代〜平安時代初期に相当し,大規模な水害が大同年間に起きたとする記述とは大きく矛盾しない(山元,2018).
固結度の低い塊状の安山岩岩屑からなる.堆積物の上面には,厚さ6 cm程度の植物根の多い土壌層が重なる.福島県猪苗代町土湯沢(北緯37度37分41秒,東経 140度6分15秒).