翁島(おきなじま)岩屑なだれ堆積物(Bj)
本堆積物は,磐梯火山で約4.6万年前に発生したセントヘレンズ型の山体崩壊の産物である(山元・須藤,1996).
地層名 水野(1958),Tanabe(1960),Furuya(1965)の「翁島泥流(Okinajima mudflow)」による.これが古期山体上の南西に向かって開いた馬蹄形カルデラ( トップ写真)を給源とする山体崩壊の産物であることは守屋(1978)により指摘されている.
模式地 会津若松市の東京電力リニューアブルパワー(株)猪苗代第二発電所周辺の日橋川沿い(西隣「喜多方」地域内).
分布・構造 磐梯火山南麓の翁島丘陵から会津若松市の北方(西隣「喜多方」地域内)にかけて分布し,顕著な流れ山地形を形成している.岩屑なだれは,馬蹄形カルデラの最高点(磐梯山山頂の北側)から南西に12 kmほど流走したところで基盤の山に当たり,ここで大きく西北西に進路を変え,いくつかの基盤の尾根を乗り越えながら西の会津盆地に流れ込み,その先端部は沖積層に覆われている(第17図).南西方向への到達距離(L)と高度差(H)で決まる岩屑なだれのみかけ摩擦係数(H/L)は,0.083である.同様に,カルデラの最高点と会津盆地での分布限界とを結んで得られるH/Lは0.086であるので,到達限界は分布の西縁からそれほど離れたところにはないであろう.
層序関係 下位層を不整合に覆う.磐梯葉山1火砕堆積物の軽石流堆積物と指交する.
層厚 本堆積物の厚さは日橋川沿いの基盤の露出した部分で100〜60 m(流れ山があるため厚さの変化が激しい),磐梯町の日曹金属化学(株)会津工場内のボーリングで120 m(磐梯町教育委員会,1985,p.13)となっている.これらの地点は分布の中央部であるのでその層厚は最大値に近いものと予想される.基盤に近い会津若松市河東町甘石山(西隣「喜多方」地域内)の48MAHA-1構造ボーリングでは,本堆積物の層厚は23 mとなっている(通商産業省,1974).本堆積物の平均層厚を50 mとし,大磐梯噴出物に覆われた馬蹄形カルデラ内にもかなりの堆積物があるとして求めた総面積85 km3とかけると,本堆積物の体積は4 km3強となる(山元・須藤,1996).
岩相 本堆積物は,新鮮なものから温泉変質により白色化したものまでの多様な安山岩を主とする岩屑で構成されている.一般に流れ山の内部には,破砕後も元の山体の内部構造をある程度保存した部分,すなわち,粗粒砂から火山岩塊の集合から構成されていても,隣接した岩片同士が同種の岩石からなり,強い変形を被りながらも元の地質境界がたどれる産状を示すものが多い(第18図).このような部分は岩屑なだれ堆積物の岩塊相に相当するもので,流れの中に粒子の撹拌の程度が著しく低い部分があったことを意味している.一方,流れ山間の低地部や岩塊相間の隙間には,淘汰の悪い泥質の基質支持で多種の岩片の混じった岩相が見いだされ,これは岩屑なだれ堆積物のマトリックス相に相当するものである.マトリックス相からは,稀に本堆積物と指交する磐梯葉山1火砕堆積物起源の直方輝石単斜輝石安山岩白色軽石が見つかる.
年代・対比 4.6万年前の磐梯葉山1火砕堆積物と地質学的に一連のものである.吉田・鈴木(1981)と中馬・吉田(1982)は,かつて本堆積物を翁島火山泥流堆積物と頭無火山泥流堆積物に区分し,その分布を示している.彼らによれば両者は類似した岩相から構成されるものの,風化の程度に違いがあり,後者の方が比較的新鮮な安山岩片からなるとされている.しかし,両者の接触関係があるとされた東京電力リニューアブルパワー(株)猪苗代第一発電所取水口の日橋川右岸の露頭では,新鮮な安山岩岩片からなる岩塊相と温泉変質を受けた安山岩岩片からなる岩塊相が重なるだけで両者の間には土壌などの挟みはなく,異なる二つの堆積物があるわけではない.また,1990年には磐越自動車道の工事に伴い翁島岩屑なだれ分布域に多数の好露頭が現れたが(第18図),やはり本堆積物の内部に時間間隙を示すような証拠は確認できなかった.
Bh=磐梯葉山1火砕堆積物(軽石流堆積物);Bj=翁島岩屑なだれ堆積物;ObE=大磐梯火山噴出物;BH=掘削孔;H/L=堆積物の比高/流走距離比.山元・須藤(1996)を一部修正.
磐越自動車道路建設時に出現した流れ山を切る法面.露頭の左部(西側)は白色〜赤褐色の強変質した一枚岩状の安山岩岩塊からなる.一方,露頭の右部(東側)は暗灰色で変質の程度の低い破砕した安山岩火山角礫からなる.両者は露頭内で混合しておらず,崩壊前の山体の構造を保持したまま定置したものと考えられる.右下隅にすーケールの人物あり.福島県磐梯町更科(北緯37度32分27秒,東経 140度1分14秒).山元・須藤(1996)の第7図を再掲載.