八方台火砕堆積物(地質図では省略)
本堆積物は,八方台火口列を形成した水蒸気噴火による降下火砕堆積物である.
地層名 山元(2018)による.
模式地 耶麻郡北塩原村中ノ湯.
分布・構造 磐梯火山と西隣の猫魔火山の間の鞍部に位置する八方台を中心に,長さ約2 kmで西北西−東南東走行の八方台火口列が存在する(第22図).中央部の鞍部にあたる八方台の火口が直径約300 mと最も大きく,その東側の火口列からは北に向かって安山岩溶岩流(望湖台溶岩)が噴出している.この火口列から噴出した火砕堆積物の露頭は,八方台から中ノ湯に至る八方台火口列の北側の登山道沿いに点在している.なお,八方台火口列の東南東延長には,直径約80 mの草湯火口がある(第22図).この火口も一連の噴火活動で形成された可能性があるものの,草湯火口周辺で噴出物の層序確認が出来ていないため,噴火時期の特定には至っていない.同様に,大磐梯山の北西山腹,標高1,280〜1,420 mの火山体斜面上にも,地形的にやや開析されたムグリ清水火口群が分布している(第22図).ただし,火口群は登山道のない急斜面の樹林帯中にあるため,現地踏査は出来ていない.
層序関係 沼沢沼沢湖テフラ(Nm-NK)を含む褐色土壌に覆われる(第23図).
岩相・層厚 中ノ湯(Loc. 2;第22図)で黒色土壌を挟んで中ノ湯降下火砕物の下位にある層厚1.2mの降下火砕物で,径100 cm以上の熱水変質を受けた安山岩岩塊を含む白色の粘土分に富んだ基質を持った基質支持の塊状火山岩塊〜火山礫からなる(第24図).大きな火山岩塊の下面には,インパクト構造が普通に認められる.実体鏡下での観察では,新鮮なガラス光沢を持った火山灰は含まれておらず,水蒸気噴火の産物とみられる.
年代 Loc.2の 八方台降下堆積物直下から採取した木片(BAN503;第23図)から11,210 ± 40 yBPの補正14C年代が得られ,その暦年較正年代は約1.3万年前である(山元,2018).同火口列からは次節の望湖台溶岩が流出しており,この一連の噴火が磐梯火山の最新のマグマ噴火であることが明確になった.
黒太線は火口地形,灰色ケバ付太線は崩壊壁,太鎖線は1888年噴火直後の噴気列(Sekiya and Kikuchi, 1890)を示す.崩壊壁は完新世のもののみを示している.山元(2018)を一部修正.地形図は,地理院地図(国土地理院)からの出力.
Ba=赤埴—櫛ヶ峰火山噴出物,Bb=望湖台溶岩,Bw=琵琶沢岩屑なだれ堆積物,HD=八方台火砕堆積物,HM=離松火砕堆積物,KN=鏡沼火砕堆積物,Nm-NK=沼沢沼沢湖テフラ,NY=中ノ湯火砕堆積物,1888=1888年火砕堆積物.放射性炭素測年試料:Bn502=2.8〜2.6千年前,Bn503=約1.3万年前,Bn601=約3.3千年前.Loc. 1=福島県北塩原村磐梯山ゴールドライン(北緯37度37分5秒,東経 140度2分53秒),Loc. 2=福島県北塩原村中ノ湯(北緯37度36分49秒,東経 140度3分35秒),Loc. 5=福島県猪苗代町沼ノ平(北緯37度36分33秒,東経 140度4分45秒),Loc. 6=福島県猪苗代町沼ノ平(北緯37度36分4秒,東経 140度4分56秒),Loc. 7=福島県猪苗代町赤埴林道終点(北緯37度35分53秒,東経 140度5分16秒),Loc. 8=福島県猪苗代町離松(北緯37度35分42秒,東経 140度6分6秒).山元(2018)を一部修正.
楕円内にスコップ(長さ約70 cm)がある.八方台火砕堆積物と中ノ湯火砕堆積物の間には沼沢沼沢湖テフラ(Nm-NK)を含む古土壌(クロボク土)層が挟まれている.この露頭の八方台火砕堆積物直下の木片からは約1.3万年前,中ノ湯火砕堆積物直下の木片からは2.8〜2.6千年前の暦年較正年代が得られている(山元,2018).福島県北塩原村中ノ湯(北緯37度36分49秒,東経 140度3分35秒;第22図のLoc. 2).