小磐梯火山噴出物(Bk)
小磐梯山体は,1888年の噴火で崩壊するまで存在した小磐梯山を噴出中心とする山体である.
地層名 八島・千葉(1982)の小磐梯火山岩類,三村(1988)の小磐梯火山体による.
模式地 耶麻郡猪苗代町字後磐梯山の1888年崩壊壁,天狗岩.
分布・構造 天狗岩から中ノ湯にかけての尾根に分布するほか( 第2図),北山腹の北塩原村裏磐梯スキー場西の急崖に溶岩流が露出する.1888年噴火前の小磐梯山の姿は,例えば「新編會津風土記(会津藩地誌局編,1894)」に示されている( 第1.2図).一方,米地(1988,1989),水越ほか(1995)による絵画資料や噴火前のケバ式地形図を用いた地形復元では,標高が1,750 m前後で,山頂部に複数の突起部を持つ磐梯山体よりもやや開析が進んだ山体が示されている.
層序関係 1888年崩壊壁で,後磐梯火山噴出物を不整合に覆う(第14図).また,北山腹の溶岩流,東山麓の降下火砕堆積物は,火山麓扇状地2堆積物を覆い,磐梯葉山1降下火砕堆積物に覆われる( 第2図),北山腹の北塩原村裏磐梯スキー場西の急崖に溶岩流が露出する.1888年噴火前の小磐梯山の姿は,例えば「新編會津風土記(会津藩地誌局編,1894)」に示されている( 第13図).
層厚 1888年崩壊壁で最大約70 mの厚さを持つ.
岩相 模式地の天狗岩は,自破砕したかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩の溶岩流からなる(第15図).天狗岩から中ノ湯に至る尾根部も,1888年崩壊壁に遠望できる岩相は,天狗岩と色調や粒度構成のよく似た塊状の火山角礫岩から構成されるので(第14図),小磐梯火山体の残存部は,破砕の進んだ溶岩からなるものとみられる.また,山腹の裏磐梯スキー場西の急崖には層厚約6〜5 mの1層のかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩のブロック溶岩流が露出している.この溶岩流は薄い砂質土壌を挟んで火山麓扇状地2堆積物を覆い,かつ再堆積した磐梯葉山1火砕堆積物に覆われている.
本火山噴出物に相当する降下火砕堆積物は,東山腹の露頭や東山麓のGS-BAD-1コアの火山灰土中に少なくとも3層存在する( 第10図; 第13図).いずれの堆積物も発泡の悪いかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩からなり,細粒火山礫混じりの黒紫灰色粗粒火山灰や,基質に暗褐色の粗粒火山灰を持つ発泡の悪い多面体型の粗粒火山礫からなる.発泡の悪い本質岩片からなる堆積物の特徴は,ブルカノ式噴火に由来することを示しており,安山岩質マグマの噴火様式としてはごく普通のことである.また,堆積物の分布が山体の東5 kmの範囲に限定されることも,噴火の爆発力がそれだけ小さかったことを暗示している.
本火山噴出物の岩石は,斑晶量40〜30%でインターサータル〜ハイアロオフィティック組織の石基を持つかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩からなる.斜長石と直方輝石・単斜輝石の多くが集斑晶をなし,斜長石斑晶には汚濁帯を持つものが多い(第16図).全岩化学組成の特徴は古期山体火山噴出物と比べMgOとK2Oに富む特徴が顕著で,かつ大磐梯火山噴出物とは区別ができない( 第6.2図;山元,2011).
年代 本火山噴出物の降下火砕堆積物の間にNm-MZと山陰1テフラが挟まれているので(山元,2012,2017),その噴火年代は6〜5万年前前後と判断できる.
後磐梯火山噴出物は,中段の粗粒な火砕物を挟んで,非常に厚い安山岩溶岩流が緩傾斜で2枚重なっている.一方,小磐梯火山噴出物は,後磐梯火山噴出物を削り込んだ谷地形を埋めている.湯桁山は1888年山体崩壊で落ち残った小磐梯山山頂の一部であったものの,1954年の小規模山体崩壊で消失した.上ノ湯は,1888年噴出物で埋没した温泉施設である.
1888年崩壊壁にある天狗岩は小磐梯火山噴出物のかんらん石含有直方輝石単斜輝石安山岩溶岩からなり,赤褐色に変質した成層火砕物からなる後磐梯火山噴出物を不整合に覆っている.
直方輝石単斜輝石安山岩溶岩.斜長石斑晶(Pl)・単斜輝石(Cpx)・直方輝石(Opx)の一部は集斑晶を形成する.石基は,インターサータル組織を持つ.写真の横幅は,6 mm.オープンニコル.福島県北塩原村裏磐梯スキー場(北緯37度37分52秒,東経 140度4分0秒).