鳥海火山を構成する岩石は,かんらん石と角閃石斑晶をしばしば含んでいるカルクアルカリ系列の斜方輝石単斜輝石安山岩がほとんどであるが,ごく少量の高アルミナ玄武岩及びカルクアルカリ玄武岩も産する.また,かんらん石斑晶が角閃石に囲まれる特徴を持つ角閃石かんらん石玄武岩質包有物がステージ IIb 以後の噴出物にはしばしば含まれている.ステージ毎の特徴は以下のようにまとめられている(林,1984b).
ステージ I:ほとんどがカルクアルカリ安山岩で,少量の高アルミナ玄武岩が認められる.安山岩のマフィック鉱物は単斜輝石,斜方輝石及び磁鉄鉱で,かんらん石を含むこともある.かんらん石はモードで 1%を越えることはまれである.玄武岩はかんらん石を多く含む.
ステージ II:ほとんどがカルクアルカリ安山岩で,少量のカルクアルカリ玄武岩が認められる.この時期の岩石の多くはクロムスピネルを包有する大型のかんらん石斑晶を持つ.ステージ II のマフィック鉱物は主にかんらん石,単斜輝石,斜方輝石及び磁鉄鉱で,ステージ IIb 以後では角閃石斑晶が頻繁に出現する.
ステージ III:カルクアルカリ安山岩のみである.マフィック鉱物は,かんらん石,単斜輝石,斜方輝石及び磁鉄鉱である.角閃石がわずかに含まれることがある.ステージ IIIa のかんらん石ではクロムスピネルが包有されている.
全岩主成分の化学分析値は,Onuma (1963b) により20個,林(1984b)により59 個(これには青木・植木(1981)による分析値 3 個,同源捕獲岩2個を含む)などが報告されている( 付表).それらによると全岩のSiO2成分は49.8%から61.2%の範囲に収まっている.林(1984b)によるハーカー図を第60図に示す.微量成分に関してはMasuda (1979) が中性子放射化分析による14元素を2組,Fujitani and Masuda (1981) が同位体希釈法による希土類元素(10 元素)を1組,そして林(1986)は光量子放射化分析などにより11元素を27試料に関して求め,かんらん石斑晶を含む岩石と含まない岩石では化学組成に系統的な差が認められるという.Ishikawa et al. (1980) はフッ素の定量を行っている.同位体比はNotsu (1983) により87Sr / 86Sr が2個(0.70347,0.70352)報告されているのみである.斑晶鉱物のモード組成は,Onuma (1963a) が8個,林(1984b)が 26 個測定している.林(1984b)によると斜長石は5.6%から 35.1%, マフィック鉱物はおよそ10%以下であり,石基が全体の 56.6%から 83.3%を占めている.第61図に林(1984b)による斑晶モード組成をヒストグラムにして示した.鉱物の化学組成は林・青木(1985)により EPMAにて分析されている.それによると,斑晶かんらん石はFo成分が 88-66 で,正累帯構造を示す.斑晶斜方輝石はEn成分が69-60で,なかには逆累帯構造を示すものもある.斑晶単斜輝石はほとんどが En39-46Fs10-20Wo39-50の範囲で,一部には逆累帯構造を示す斑晶もある.斑晶斜長石はAn成分が 91-43と大きな組成幅があり,特に中心核でAn成分に乏しい斑晶には逆累帯構造を示すものが認められる.鉄鉱斑晶はチタン磁鉄鉱とイルメナイトである.チタン磁鉄鉱はTiO2 成分が 6-13%である.イルメナイトはステージ II 及び III の噴出物でその出現頻度が高いが,ステージ I の噴出物ではまれである.また,ステージ II 及び IIIa においてはかんらん石斑晶中にスピネルが含まれるが,ステージ IIa では Cr2O3が最大で 40%近くに達する.ステージ IIb 以後では Cr /(Cr+ Al+Fe3+)=0.23,Fe3+/(Cr+Al+Fe3+)=0.12の近辺に集中している.また,Nagao et al. (1980) によると,フェルシックな安山岩(鍋森溶岩)中のスピネルは Fe3+成分に富むものが多い.
実線は那須火山体北帯ソレアイト系列の平均変化曲線
(図幅第54図)
林(1984b)の26個の測定値をヒストグラムにした.黒塗りはその鉱物を含まない試料数を示す
図表中の紫蘇輝石と普通輝石はそれぞれ斜方輝石と単斜輝石をさす.
(図幅第55図)