「鳥海山及び吹浦」地域内の活断層としては,鳥海火山体南西麓(庄内平野東縁)に発達する南北性の逆断層群と,火山体の中腹に発達する東西性の正断層群がある( 第28図 及び 第5表 ).以下の記述は中野・土谷(1992)によるものであり,その後の研究は反映されていない.
庄内平野東緑の活断層
鳥海火山の南西麓(吹浦地域南部)には,鳥海火山噴出物からなる丘陵や扇状地を切断したり変形させている活断層(第62a,b図)が発達している(佐藤, 1950; 活断層研究会, 1980, 1991; 鈴木, 1990).これらは,庄内平野東縁(南隣酒田地域)に発達する活褶曲に伴う観音寺断層 (活断層研究会, 1980)または酒田衝上断層群(池辺ほか, 1979)の北方延長上に位置する逆断層である.断層の走向は南北ないし北北西-南南東で,長さ1.5-5 km,垂直変位量は最大で50 m程度とされている.吹浦地域南部,杉沢の東方,丸森丘陵では,北北東 - 南南西方向に延びた丘陵の両側に南の酒田地域から続いている直線状急崖がある.これらは活断層研究会(1980)によると推定活断層である( 第28図 の H 及び I).酒田地域(池辺ほか, 1979)では,この丘陵の南方延長部は背斜の軸部にあたっているが,吹浦地域内の丸森付近は天狗森火砕岩から構成されており,褶曲などの変形は確認されていない.
(図幅第60図)
太実線は低断層崖または撓曲崖, 点線は傾斜変換点
(図幅第60b図)
火山体に発達する活断層
鳥海火山中腹に発達する活断層は,西鳥海馬蹄形カルデラから西の中腹にかけてと,稲倉岳北方及び月山森付近に分布が認められる.いずれの断層も変位量のわりには比較的短く,火山に認められる特有の正断層と考えられている(活断層研究会, 1980).西鳥海に発達する断層群は,東西ないし北西 - 南東の走向を持ち,ほとんどが北落ちの正断層で,放射状に発達している( 第28図 の J 〜 M).このうち最も変位量が大きいものは洗沢断層と呼ばれ(林, 1984a),変位量は最大約30 mで北落ちの低断層崖が地形図でも明瞭に読み取れる.洗沢断層では,溶岩流ごとに変位量の差異が認められ,変位は繰り返して起こったことを示している(宇井, 1972, 1984; 林, 1984a).この断層群では,断層の長さは最大でも3 km程度である.長さ1 km以下の変位量の小さい断層には右横ずれのセンスを示すものも認められる.稲倉岳北方では主に東西性の2本の断層からなり,その間が地溝状に落ち込んでいる( 第28図 の N).北側のものは明らかな右横ずれを示す(佐藤, 1950).断層の長さは長いもので 2 km,垂直変位は約 30 m,右横ずれは約20 mの変位が認められる.月山森付近の断層は林(1984a)により月山森断層と呼ばれ( 第28図 の O),西鳥海馬蹄形カルデラの南東側を切り,最大落差約50 m,長さ1.5 kmの北落ち正断層である.カルデラ縁上のピークである月山森はかつては噴出地点の一つと考えられていたが,断層崖で切られたカルデラ縁上の単なる高まりにすぎない (林,1984a).また,月山森の東方に東西に延びた長さ 1 km の正断層があるが( 第28図 の P),変位量は小さい.