鶯川玄武岩
Onuma(1963a)の鶯川溶岩流,林(1984a)の鶯川溶岩及び飯ヶ森溶岩に相当する.鳥海山地域北部,鳥海火山の北から北東で,白雪川上流の飯ヶ森北及び鶯川沿いにわずかに露出する時代未詳の玄武岩溶岩流である.Onuma(1963a)は本玄武岩を鳥海火山噴出物としている.分布の大部分が鳥海火山噴出物に覆われており,全体の分布は明らかでない.鶯川の支流(善神池北東)では層厚10 m以内で柱状節理が発達する溶岩である.鶯川支流では笹岡層を覆っている可能性があるが,直接の関係は観察できない.また,林(1993)は獅子ヶ鼻付近に鴬川玄武岩に対比される溶岩の小分布を示した.
本玄武岩は黒灰色を呈し,斑晶に乏しいかんらん石単斜輝石玄武岩で,変質が進んでいることが多い. Onuma(1963b)は本玄武岩の化学分析値を報告しているが,それ以降の鳥海火山噴出物よりもNa2Oに富む特徴がある(第3表). なお,本玄武岩の化学組成はOnuma(1963b)及び林ほか(1994)により報告されているが,上位の鳥海火山噴出物と比べてアルカリが高い特徴がある(第3表-1, 2).
かんらん石単斜輝石玄武岩(GSJ R57037)(第9図)
産地・産状:矢島町,奥山放牧場南西,鶯川上流の標高 760 m 地点.溶岩.斑晶はモードで約5%.
斑晶:斜長石,単斜輝石,かんらん石(部分的に粘土鉱物に置換されている),磁鉄鉱.集合結晶をなすことが多い.
石基:斜長石,単斜輝石,かんらん石,鉄鉱,ガラス.一部は炭酸塩鉱物や粘土鉱物に置換されている.
SiO2 |
TiO2 |
Al2O3 |
Fe2O3 |
FeO |
MnO |
MgO |
CaO |
Na2O |
K2O |
P2O5 |
H2O+ |
H2O- |
Total |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
52.63 |
0.77 |
18.50 |
3.43 |
5.91 |
0.17 |
3.55 |
7.62 |
4.20 |
1.35 |
0.20 |
0.48 |
0.97 |
99.78 |
分析者:大沼晃助
(図幅第10表)
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
|
SiO2 |
54.52 |
52.55 |
54.88 |
49.90 |
49.98 |
50.24 |
TiO2 |
1.29 |
1.31 |
1.31 |
1.24 |
1.27 |
1.24 |
Al2O3 |
16.19 |
16.70 |
16.48 |
19.07 |
19.02 |
19.18 |
tFe2O3*
|
10.06 |
10.31 |
10.14 |
10.36 |
10.08 |
9.89 |
MnO |
0.39 |
0.22 |
0.26 |
0.17 |
0.18 |
0.19 |
MgO |
2.70 |
2.84
|
2.68 |
3.59 |
3.54 |
3.09 |
CaO |
6.44 |
7.52 |
6.44 |
10.14 |
10.05 |
10.39 |
Na2O |
4.63 |
4.39 |
4.83 |
3.36 |
3.44 |
3.49 |
K2O |
1.70 |
1.42 |
1.72 |
1.02 |
1.05 |
1.04 |
P2O5 |
0.64 |
0.59 |
0.67 |
0.35 |
0.35 |
0.34 |
Total |
98.56 |
97.84 |
99.40 |
99.18 |
98.95 |
99.08 |
* 全鉄
1:鶯川上流770地点(UB1);2,3:鳥海火山北西山麓,駒の王子の東南東2km 地点の沢の標高730m 地点,柱状節理が発達(UB2,UB3);4:鳥海火山北西山麓,駒の王子の東南東2km 地点の沢の標高680m 地点(UB4);5:獅子ケ鼻湿原北東方向200m 地点の尾根上(UB5;921026-02);6:獅子ケ鼻湿原南東方向300m 地点の尾根上(UB6;930721-3)
鶯川玄武岩 (GSJ R57037), かんらん石単斜輝石玄武岩
(図幅第IV図版1)
天狗森火砕岩
吹浦地域南東部から鳥海山地域南西部にかけて,鳥海火山噴出物及び扇状地堆積物に覆われ,常禅寺層と指交関係にある火砕岩類を天狗森火砕岩と呼ぶ(新命名).月光川中流,庄内熊野川及び天狗森の北に好露出が見られる.本火砕岩は酒田地域(池辺ほか,1979)の庄内層群下部の安山岩火砕岩に相当するが,鯨岡(1953)の命名した庄内層群は最上部に安山岩火砕岩をわずかに介在する,凝灰質砂を主体とする地層である.しかしながら,酒田地域北部及び本地域では火砕岩が卓越し,砂を主体とする地層は認められない.従って,本報告では庄内層群とせずに天狗森火砕岩と呼ぶことにする.加藤(1986)は本火砕岩を月の原 - 楢橋火砕流・泥流と呼び,西鳥海馬蹄形カルデラの形成に伴うものとしているが,月光川中流で本火砕岩は鳥海火山のステージ I初期の溶岩に覆われること,また,常禅寺層の下位にも分布し,少なくともその一部は酒田衝上断層群(池辺ほか, 1979)の形成に伴う地殻変動を受けていることなどから,鳥海火山に先行する火山活動として位置づけられていたが,0.58 ± 0.06Ma 及び 0.4 ± 0.1Ma の K-Ar年代測定が得られたことにより(林ほか, 1994),鳥海火山ステージ I 最初期の噴出物と位置づける.本火砕岩は杉沢谷で観音寺層を整合に覆い,常禅寺層に整合に覆われる.しかし,本火砕岩は常禅寺層に類似した砂層を挟んでいたり,月光川上流では本火砕岩は常禅寺層を覆っていることから,両者は指交関係にあると判断する.
月光川中流では凝灰角礫岩からなり,一部は安山岩質スコリア流堆積物及び軽石流堆積物である.月光川と藤倉川の合流点付近では凝灰角礫岩が卓越する.ところにより岩屑なだれの岩塊相(宇井・荒牧, 1985)に似た岩相を示し,軟弱な堆積物のブロックを含むこともある.庄内熊野川上流の杉沢谷では最大径3 m,大部分は径30 cm 以下の角礫-亜角礫安山岩岩塊と細 - 中粒砂の基質からなる混然とした火山角礫岩 - 凝灰角礫岩で,膠結度がよい.軟弱な堆積物や軽石流堆積物のブロックを含むことがある.吹浦地域内の庄内熊野川沿いでは未固結の中粒砂層を挟むことがある.火山角礫岩 - 凝灰角礫岩を主体とするが,ところにより,岩屑なだれの岩塊相に似た岩相を示す.径10 m の溶岩岩塊には割れ目が発達する.径 6 m の中粒砂のブロックにも割れ目が見られ,それらのブロックの間を径 30 cm 以下の安山岩,軽石凝灰岩,中礫砂の礫や細粒物が埋めている(第10図). 杉沢西の月光川左岸では火山角礫岩が分布する.ところにより塊状溶岩・火砕岩の互層が 70-80°の傾斜を示すようにも見えるが,露出が悪く,全体がブロックの可能性もある.
本火砕岩の岩質は(かんらん石含有)斜方輝石単斜輝石安山岩及び斜方輝石含有単斜輝石かんらん石玄武岩であり,岩質ではその後の鳥海火山噴出物との区別は困難である.なお,本火砕岩の化学組成は林ほか(1994)により報告されている( 第4表を開く).
斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57038)
産地・産状:遊佐町杉沢,庄内熊野川右岸の道路沿い,標高150 m地点.溶岩の石塊(岩塊相).
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,燐灰石,鉄鉱,メソスタシス
斜方輝石含有単斜輝石かんらん石玄武岩(GSJ R57039)
産地・産状:八幡町下黒川,落差 20 m の不動滝(酒田地域北東部).凝灰角礫岩に含まれる岩塊.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石に囲まれる),かんらん石,鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,鉄鉱,褐色ガラス
中粒砂ブロック及び割れ目の発達した安山岩ブロック,それらの間を岩塊や礫混じりの基質が埋めている.露頭の高さ約8m
(図幅第22図)
下玉田川層
鳥海山地域中央部,下玉田川上流から赤崩沢左股・右股にかけて分布し,成層構造が明瞭な火山礫凝灰岩・シルト - 中粒砂の互層を主体とし,凝灰角礫岩及び玄武岩溶岩流を挟む地層を下玉田川層と呼ぶ(新命名).膠結度はよい.露頭での最大層厚は 30 m以上,鳥海火山の溶岩に覆われる.林(1984a)では,玖瑯集塊岩類(本報告の百宅火山岩)に含められている.
シルト - 中粒砂及び火山礫凝灰岩を主体とする部分は,厚さ10-40 cmの単層の累重からなり,明瞭な成層構造を示す(第11図).南または西へ最大で 30°以上傾斜していたり,小断層が発達しているなど変形していることがある.油のしみ出しがしばしば見られる.これらに挟在する玄武岩溶岩は塊状またはやや破砕しており,やや変質していることが多い.岩質は赤崩沢下部溶岩などの鳥海火山の初期の噴出物に類似しており,本層中の火山岩類は鳥海火山の活動によるものと判断できる.
本層の堆積時期は,鳥海火山の活動の開始とほぼ同時期であると考えられる.本層中の溶岩からは 0.55±0.03Maの K-Ar 年代(伴ほか,2001)が得られている.
単斜輝石かんらん石玄武岩(GSJ R57040)(第12図 )
産地・産状:鳥海町,下玉田川上流赤崩沢右股,標高970 m地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,かんらん石(一部は炭酸塩鉱物と粘土鉱物に置換されている),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,アルカリ長石(一部は炭酸塩鉱物と粘土鉱物に置換されている)
火山礫凝灰岩を主体とし,砂・シルト層を挟む.最下位に玄武岩溶岩が露出する.
層厚 15 m
(図幅第23図)
(図幅第IV図版2)