鳥海山 Chokai Volcano


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icon 岩屑なだれ堆積物・崩壊堆積物 及び
    扇状地堆積物


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icon 噴火物の化学組成と鉱物組成

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icon 今後の噴火について

icon 引用文献

2015/06/19
このデータ集は5万分の1地質図幅「鳥海山及び吹浦地域の地質」(中野・土谷,1992)から抜粋, 再構成し,さらに,「矢島地域の地質」(大沢ほか,1988)の一部及びその後に公表された研究成果を加えて修正・加筆したものである.
なお,地名については当時の地名をそのまま踏襲しており,その後の市町村合併等による変更を反映していない.

このデータ集を引用する場合,次のように引用してください.
中野 俊(2015)詳細火山データ集:鳥海火山.日本の火山,産総研地質調査総合センター
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/chokaisan/index.html)

岩屑なだれ堆積物・崩壊堆積物 及び 扇状地堆積物

 以下の堆積物は複数の図幅にまたがり,一部を除いてそれぞれの層序関係が不明な点が多いが,基本的にステージ I に相当する古い順に記述する.


子吉川岩屑堆積物(鳥海山図幅)
 子吉川岩屑堆積物は鳥海山地域北部の猿倉南方の子吉川沿いに分布する.現河床及び沖積低地堆積物よりも高度が高く,奥山岩屑なだれ堆積物よりも低い平坦面を構成している.岩相は,安山岩岩塊や軟弱なシルト・砂層などが変形し破砕しかけた岩塊相と,岩塊,礫と細粒物質が混然となった基質相からなり,岩屑なだれ堆積物と考えられる.未炭化の木片が含まれることが多い.最大層厚は約10 mで,上位を厚さ2-3 mの河床堆積物が覆う.岩相では奥山岩屑なだれ堆積物と区別はつかないが,地形面で区分した.


崩積堆積物(鳥海山図幅)
 崩積堆積物は地すべり堆積物や小規模な岩屑なだれ堆積物などの岩屑堆積物である.大八木ほか(1982)では新第三系及び鳥海火山噴出物の末端などに崩落崖やその移動体が多く示されている.
 鳥海町前之沢の南の地すべり堆積物は中新世〜鮮新世の百宅火山岩に属する凝灰岩・砂岩・凝灰角礫岩由来の岩塊,安山岩礫,船川層の泥岩などが混然一体となった堆積物で,成層構造を残している岩塊もある.それらの間をさらに破砕された淘汰が悪い岩屑が埋めている.この地すべりの崩落崖は開析され,明瞭ではない.

 八幡町,鹿ノ俣川上流の鶴間池周辺の本堆積物は,その周囲を取り囲む直径1.5 kmの崩落崖の形成に伴う堆積物と考えられる.鹿ノ俣川沿いでは,鳥海火山起源の成層した溶岩・火砕岩が破砕され,小断層が発達し変形した露頭が見られる(第45図).そのほか,上ノ台溶岩の末端や大台野火砕流台地の東縁などでは,崩落崖及び崩落堆積物が開析されずに残っている.

fig45a
fig45b
第45図 鹿ノ俣川上流の崩積堆積物(標高750m)
おそらく鳳来山火山岩からなるブロックの成層構造が小断層で切られ変形している.露頭の高さ約6m
(図幅第56図)


由利原岩屑なだれ堆積物(矢島 及び 鳥海山図幅)
 由利原岩屑なだれ堆積物は,仁賀保丘陵から由利原一帯,上原などに広く分布し,基盤の笹岡層及び西目層などを不整合に覆っている.層厚が薄く,また,台地の平坦面を形成しているために,台地の側端崖以外では露出が悪い.本岩屑なだれ堆積物は全体が単一の岩屑なだれによるものかどうかは不明であり,また土石流堆積物や熱雲堆積物と思われる露頭もあるが,子吉川及び白雪川の間に挟まれる高原を覆っているものを総称して由利原岩屑なだれ堆積物と呼ぶ.

 本堆積物の層厚は,由利町鮎川上流上 屋敷西方約 0.5 km 地点(第46図)で約60 mであり,鮎川の左岸,西由利原台地の側端崖でも最大80 mに達する(多数の試掘井のデータによれば,厚さ 30〜80 mである).また,南由利原南方など沢沿いでは本堆積物に覆われて基盤の笹岡層が露出している地点が十数か所で確認されている.

fig46
第46図 由利町上屋敷西方約0.5km の道路沿いで見られる由利原岩屑なだれ堆積物の露頭
露頭の堆積物は厚さ約10mで,ここではほとんど基質層からなる
(矢島図幅第26図)

 本堆積物は安山岩溶岩の岩塊・礫及びその細粒物質からなるが,基盤の砂岩及びシルト岩のブロック・ 破片,河床礫なども含む.このうち,主に安山岩溶岩の巨大な岩塊からなる部分はの岩塊相に相当し,円磨されていない安山岩岩片・丸味を帯びた河床礫・基盤岩岩片などとそれらの間を埋める細粒物質からなる部分は基質相に相当する.

 岩塊相の各々の岩塊は長径数10 cm から最大10 m 以上で,内部は不規則な割れ目により破砕されており(第47図),ほとんどほぐれかかって引き伸ばされている場合もある.また,露頭が小さく岩塊相のみからなる露頭は溶岩の露頭のように見えることもあるが,内部には不規則な破砕構造が発達しており,通常の溶岩の露頭とは区別できる.また,基盤の笹岡層及び西目層のブロック(最大数m大)が 取り込まれて変形していたり内部に断層が発達していることも多い.

fig49
第47図 矢島町谷地沢南方約 1.0 km の地点で見られる由利原岩屑なだれ堆積物の岩塊相
上が岩塊相で,下が基質相である.岩塊相は溶岩のブロックからなり,破砕構造がよく見られる
(矢島図幅第27図)

 基質相は“泥流”状の見かけを呈し,淘汰が悪い.岩塊相からほぐれた角ばった岩片から,かなり円磨された岩片まで円磨度は様々で,また岩種も様々であるが,多くは鳥海火山起源の安山岩溶岩の岩片である.明らかな河床礫が存在することもある.基盤の末固結堆積物の小片も多い.

 本堆積物の基質相は膠結度がよく,細粒物質がほとんど風化している点で,また,岩塊相(第47図) を構成する岩石が角閃石を含まない安山岩である点でも,角閃石斑晶をしばしば含む安山岩の岩塊からなる象潟岩屑なだれ堆積物とは容易に区別される.

 地形的には流れ山は不明瞭であり,上位にローム層が確認できる場合が多い.

 仁賀保丘陵や南由利原などでは,熱雲堆積物であると判断される露頭がある.層厚は 5 m 以下である.第48図 のように表面に急冷節理を持つ岩片が存在するなどの理由により,熱雲堆積物であると考えられる.一部では岩屑なだれ堆積物を不明瞭ながら覆っていることが確認できる.構成物は岩塊及びその細粒物質である.岩塊は直径2 m 以下の安山岩の角礫である.細粒物質はローム又は粘土化した火山灰を主体としており,岩屑なだれ堆積物の基質相の細粒物質との区別は困難である.また,岩片自体も風化が著しく,岩屑なだれによるものであるのか熱雲によるものであるのか判然としないことが多い.露頭が少なく,露出状況も悪いため,この堆積物は岩屑なだれ堆積物の一部である可能性もあり,ここでは由利原岩屑なだれ堆積物として一括する.

 矢島地域(大沢ほか, 1988)では由利原岩屑堆積物と呼んだ.林(1984a)の白雪川火砕流堆積物を含み,鳥海山地域北西部,飯ヶ森北東の鶯川と北西の赤川の間及び鳥海山地域北西端 - 吹浦地域北東端,奈曽渓谷 - 鳥越川に囲まれた上の山放牧場付近に分布する岩屑堆積物を一括する.上の山放牧場付近では奈曽川に面した急崖の最上部に露出し,層厚 20 m 以上で,笹岡層砂層やステージ I の鳥越川溶岩を覆う.径50 cm 以下の安山岩亜角 - 亜円礫を含み,風化火山灰基質からなる.変質した礫も含まれる.礫の濃集部が見られる.本堆積物のうち上の山放牧場北西部では流れ山らしき地形が認められ,新鮮な安山岩礫を伴い,基質がルースである.この部分は完新世の象潟岩屑なだれに関連している可能性もあるが明確ではなく,ここでは本堆積物に含めておく.本堆積物は鶯川上流部では層厚 50 m 以上の岩屑なだれ堆積物である.破砕された径数 m の溶岩岩塊からなる岩塊相と,大小さまざまな安山岩岩塊・礫を含む小礫 - 細礫混じりの細粒物質(砂及び泥)からなる基質相が認められる.白雪川沿いでも多くは基質相であるがわずかに岩塊相も認められる.そのほかでは露出が悪く,岩屑なだれ堆積物であるか否か明確でない.したがって,主に矢島地域で採取された岩塊の検鏡結果 (57 試料)によると,岩塊相を構成する溶岩ブロックはその 1/2 がかんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩または玄武岩,残りが斜方輝石単斜輝石安山岩である.角閃石斑晶は全く認められず,大蕨岩屑堆積物と同様に,本堆積物は鳥海火山のステージ I に形成されたと推定される.本堆積物は石禿川溶岩及び飯ヶ森溶岩を覆うと考えられる.

fig48
第48図 仁賀保町釜ケ台東方 0.6 km の道路沿いで見られる熱雲堆積物の本質岩片
急冷節理をもち,高温であったことを示す.基質は粘土化している
(矢島図幅第28図)


白雪川岩屑なだれ堆積物(矢島図幅)
 白雪川岩屑なだれ堆積物は,矢島地域南西端,白雪川両岸のみに露出する.上位の沖積低地堆積物に覆われ(第49図),一部では笹岡層の砂岩を覆っている.Ui et al. (1986) の Shirayukigawa Debris Avalanche Deposits は本堆積物に相当する.層厚は 10-30 m 以上であるが,一般に10-20 m である.全体としては基質相が卓越するが,安山岩岩塊からなる岩塊相の存在により,土石流(泥流)ではなく岩屑なだれ堆積物であると判断される.基質相は安山岩岩塊・火山礫及びそれらの細粒物質からなり,膠結度は象潟岩屑なだれ堆積物よりもよく,より古い堆積物である.本堆積物は由利原岩屑なだれ堆積物を切って発達するアバランシュバレー(仁賀保丘陵と上の山放牧場の間,(第50図)の谷底に分布することから,由利原岩屑なだれ堆積物よりも新しいと判断される.本堆積物はこのアバランシュバレーの形成に関係した堆積物であるのかどうかは判断できない.

fig49
第49図 白雪川沿いで見られる白雪川岩屑なだれ堆積物とそれを覆う沖積低地堆積物
(矢島図幅第29図)
fig50
fig50
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第50図
 鳥海山北麓の鳥海火山噴出物の分布略図
大沢ほか(1982), 林(1984)に基づき編集した
(矢島図幅第25図)

 白雪川と赤川との合流点にはスコリア流堆積物が露出する.これは,本堆積物の下位の地層の可能性もあるが,ほかに露頭が確認できず,本堆積物の岩塊相として本堆積物に含める.


奥山岩屑なだれ堆積物(鳥海山 及び 矢島図幅)
 奥山岩屑なだれ堆積物は,鳥海山地域内奥山放牧場付近から矢島地域に至る鶯川に沿った地域及び子吉川沿い猿倉南方から才ノ神にかけて分布する(第50図).両者は同一層準の堆積物であるのかは不明であるが,後者は奥山放牧場付近を通過した後,子吉川になだれ落ち,子吉川を堰き止めたと考えられること,及び二次泥流(御嶽土石流)堆積物と段丘堆積物との関係から,両者は同一層準であると判断される.層厚は奥山放牧場付近で20 m 以上,その下流の金ヶ沢付近で10 m 以下,子吉川沿いでは最大 30 m 以上に達する.

 本堆積物は,奥山放牧場付近にて不明瞭な起伏地形を持つ平坦面を形成する.そこから鶯川沿いに平坦面が所々に認められる.子吉川沿いにも,猿倉南方から下流にかけて平坦面が続くが,いずれも上原付近の由利原岩屑なだれ堆積物が覆う台地にアバットしている.

 金ヶ沢付近での御嶽土石流堆積物との区別は,地形的に起伏があることにより岩屑なだれ堆積物とし,堆積物の層厚が2-5 m程度で表面地形が平坦である場合は土石流堆積物であるとするが,両者は漸移的なものである.子吉川沿いでは両者の区別は明確でない.

 本堆積物は岩塊相及び基質相からなる.岩塊相は安山岩溶岩の岩塊及びその破砕された岩片からなり,基質相は安山岩岩塊,火山礫及びそれらの細粒物質を主体としている.膠結度はややよい.林(1984a)は奥山放牧場付近の本堆積物を「奥山火砕流堆積物」と命名したが,安山岩岩塊からなる岩塊相の存在から,岩屑なだれ堆積物であると判断した.林(1984a)によると,「奥山火砕流堆積物」は鳥海火山のステージ I に属する.


御嶽土石流堆積物(矢島図幅)
 御嶽土石流堆積物は,奥山岩屑なだれの二次泥流堆積物であり,矢島町御嶽・田沢付近及び鳥海町貝沢・郷具付近に分布し,平坦面を形成している.確認できる層厚は,金ヶ沢北方で2-5 mであるが,末端部では1 m 以下となる.貝沢南方では10 m以上と考えた.本堆積物と岩屑なだれ堆積物の基質相との区別は困難であるが,本堆積物には岩塊相が認められない.直径1 m 以下の安山岩を主体とした火山岩の岩塊(円礫-角礫)が多く,河床礫も認められる.その間を砂質ないし泥質の細粒物質が埋めている.膠結度はややよく,極めて淘汰が悪い.


大蕨岩屑堆積物(鳥海山 及び 大沢図幅)
 大蕨岩屑堆積物(土谷,1989)は鳥海山南麓の大沢地域の八幡町大蕨付近の丘陵地上をはじめ,八幡町升田・大芦沢・草津・二階及び平田町丸山北方の丘陵地上,さらに,酒田地域北東部の鷹尾山を南限とする丘陵地上にも分布する岩屑なだれ堆積物である.層厚は10数m〜数10 m,最も厚いところでも120 m程度と推定される.

 大蕨岩屑堆積物は斜方輝石単斜輝石安山岩の岩塊及び礫を,同質の細片及び火山灰からなる基質が充填している.この岩質は林(1984a)による鳥海火山ステージ Iの噴出物と類似する.岩屑堆積物の上位は2 - 3m以下の風化火山灰層に覆われている.八幡町大蕨付近の大露頭(第51図)では本堆積物の断面が観察される.ここでは,不規則ないし板状に割れた安山岩岩塊が認められる.安山岩岩塊は通常長径1 -10数mで,数10 m大の岩塊も認められる.岩塊内部は不規則な割れ目に富み,割れ目の隙間が開いていて,その間に安山岩の細片が充填していることがある.礫は長径数10 cm以下の角礫で,ほとんど淘汰されていない.赤褐色に酸化された礫も認められるが,急冷節理は見いだされなかった.基質は安山岩の細片や火山灰からなり,塊状で,しばしば著しく風化している.

fig51
第51図 大蕨岩屑堆積物の露頭(八幡町大蕨)
溶岩岩塊からなる岩塊相が多く,一部は基質相からなる

 二階付近の本堆積物は鳥海山起源の安山岩以外の異質岩塊を含んでいる.異質岩塊は下位の新第三系 - 第四系の泥岩及び砂岩で,ときに不規則な形態をなす.また,少量の円磨された安山岩礫が含まれている.大芦沢付近の本堆積物の一部は,安山岩の円礫に富んでいる.平田町丸山北方の堆積物の一部は安山岩の他に泥岩の円礫を含み,砂や泥に富む成層した基質からなる.

 大蕨における本堆積物の産状の特徴は岩屑なだれ堆積物の特徴に類似している.しかし,本堆積物は地域によって異なった岩相を示し,丸山北方で見られる本堆積物は円礫に富み,岩屑なだれ堆積物の特徴を示していない.岩屑なだれ的な部分とそうでない部分の分布や関係は露出が悪いために明確でない. 本堆積物の岩塊や礫は林(1984a)による鳥海火山ステージIの噴出物と同様に斜方輝石単斜輝石安山岩からなっている.


草津川岩屑なだれ堆積物(鳥海山図幅)
 鳥海山地域南西部,草津川沿いに分布する岩屑なだれ堆積物である.新第三系丸山層及び観音寺層を覆う.大蕨岩屑堆積物との関係は不明である.確認できる層厚は 20 m で,無層理である.本堆積物は玄武岩または安山岩溶岩の岩塊,礫及びそれらの細粒物質からなり,淘汰の悪い堆積物である.大きさ数 10 cm から最大 10 m 以上の溶岩岩塊は破砕されて不規則な割れ目が発達することが多い.それらの基質は凝灰角礫岩で,岩塊,礫,細粒砂及びシルトからなり,淘汰が悪い.これらはそれぞれ宇井・荒牧(1985)の岩屑なだれ(岩屑流)堆積物の岩塊相及び基質相に相当し,本堆積物は岩屑なだれ堆積物と判断される.岩塊相は鳳来山火山岩起源の岩塊が多い.


奥山岩屑なだれ堆積物(矢島 及び 鳥海山図幅)
 矢島地域(大沢ほか, 1988)の奥山岩屑なだれ堆積物に相当する.林(1984a)の奥山火砕流堆積物に相当する.鳥海山地域北部,奥山放牧場の不明瞭な起伏を持つ平坦面及び猿倉付近子吉川左岸の平坦面を構成する岩屑なだれ堆積物である.大沢ほか(1988)と同様,両者を一括する.新第三系を覆い,また,地形から由利原岩屑堆積物を覆うと判断する.本堆積物は鶯川沿いで好露頭が見られる(第52図).岩塊相 は最大径数 m の笹岡層砂層,円礫層,凝灰角礫岩などのブロックからなる.基質相は径 1 m 以下の安山岩亜円 - 亜角礫や半固結シルト - 砂や河川礫(円礫)を含み,小礫 - 細礫混じりの細粒物質からなる.確認された層厚は鶯川沿いで 20 m 以上であるが,子吉川沿い猿倉付近では地形的に比高最大 50 m の崖をなしている.

fig52
第52図 奥山岩屑なだれ堆積物の露頭(矢島町,鶯川標高560 m地点)
長径 30cm 以下の安山岩角 - 亜角礫と砂 - 泥質細粒物質からなる.
礫の濃集の程度が不均質である
(図幅第38図)


象潟岩屑なだれ堆積物(象潟 及び 矢島図幅)
 象潟岩屑なだれ堆積物は地形的に流れ山が顕著で,鳥海山図幅地域内の東鳥海馬蹄形カルデラの形成をもたらした山体崩壊による岩屑なだれ堆積物である.総体積は3.5立方kmとされる(大沢ほか,1982).加藤(1977)及び大沢ほか(1982)の象潟泥流堆積物に相当する.堆積物の主体は象潟平野に広く分布し,崩壊源からの最大到達距離は24km以上である.また,崩壊源より直進し,比高100 mを超える谷壁を乗り越えた部分が由利原高原上に分布し,冬師・釜ヶ台付近の堆積物が象潟岩屑なだれ堆積物であることは,加藤(1977)により初めて指摘された.

 本堆積物中には多くの埋れ木が含まれており,14C 年代測定がしばしば行われ,加藤(1977,1978)によると約 2,600 年前,大沢ほか(1982)によると約 3,000年前とされた.その後,年輪年代法により紀元前466年であることが確定した(光谷,2001;奈良文化財研究所埋蔵文化財センター,2007).象潟平野では最大層厚は 120 m である(大沢ほか,1982).“流れ山”は象潟平野(第53図)のほか,冬師・上坂より南方で顕著であるが(第54図),釜ヶ台付近にも幾つか存在する.流れ山の内部は安山岩岩塊を主体とした岩塊相よりなる.西象潟平野では海岸線沿いや採石場において流れ山の内部構造がよく観察できる(第55図).本堆積物の基質相は,安山岩岩塊・火山礫及びそれらの細粒物質からなり,由利原・白雪川岩屑なだれ堆積物のものに比べると,膠結度が悪く容易にくずれる.また,流れ山上にはローム層が被覆しておらず,この点でも古い時代の由利原岩屑なだれ堆積物と容易に区別がつく.

fig42
第53図 象潟岩屑なだれ堆積物の流れ山(象潟町象潟)
象潟平野の田園地帯に多数の小山があるが,流れ山.奥は仁賀保丘陵.


fig42
第54図 仁賀保町上坂南方で見られる象潟岩屑なだれ堆積物の流れ山地形
遠方にかすんで見えるのは,東鳥海馬蹄形カルデラ
(矢島図幅第30図)

fig55
第55図 象潟岩屑なだれ堆積物の流れ山の断面
クラックが発達した溶岩ブロックからなる(金浦町)

 山本・只隈(1983)や山本ほか(1984)によると,象潟岩屑なだれ堆積物全体では,比高5-40 m,長径10-400 mの流れ山が300個以上存在する.国指定天然記念物の九十九島(くじゅうくしま)は岩屑なだれが海中に流れ込んで形成された流れ山群であったものが,1804年の象潟地震で隆起して干潟となった部分である.象潟地震以前の地形は絵図としての除されている(第56★☆◎図).

fig56
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第56図 象潟地震以前の象潟の風景(象潟町,蚶満寺所蔵の羽州八十八潟九十九島之図,中野(1993)の第6図).
流れ山にはそれぞれ島名が明記されている.

 岩塊相と基質相の量比,基質相中の岩片の粒度分布と,給源(東鳥海馬蹄形カルデラ)からの距離変化との間には相関性はみられないという.山後ほか(1998)や吉田(2012)では流れ山の形態に地域差があることが示されている.

 東鳥海馬蹄形カルデラ内には,カルデラ形成に伴うと考えられる岩屑堆積物が存在する(第57図).赤川上流では最大層厚10m以上に達し,径1.5m以下の安山岩角礫及びそれらの細粒物質からなる,淘汰の悪い軟弱な堆積物であり,荒神ヶ岳溶岩に覆われている.その中には破砕された溶岩の岩塊が認められる.

fig56
第57図 東鳥海馬蹄形カルデラ内の崩壊堆積物(遊佐町,赤川上流標高 1,240m 地点)
象潟岩屑なだれに相当する堆積物で,岩屑なだれ堆積物に見られる岩塊相と基質相が識別できる.
ここでの構成岩石はほとんどが七高山溶岩に由来する
(図幅第57図)

扇状地堆積物(鳥海山 及び 象潟図幅)
 扇状地堆積物は鳥海火山の山麓に分布する火山麓扇状地堆積物である.このうち,黒森・布沢,月光川右岸白井新田,奈曽川下流から川袋にかけてなどは扇状地地形を形成しているが,朱ノ又川,洗沢川や南ノコマイ沿いでは溶岩流の下位に分布している.本堆積物としたものにはおそらく火砕流や小規模な岩屑なだれ堆積物も含まれていると推定されるが,これらを一括して扇状地堆積物とした.堆積時期は鳥海火山の活動が始まった中期更新世から完新世にわたっている.なお,紀元前5世紀の象潟岩屑なだれ堆積物以降の扇状地堆積物は象潟平野北端の平沢地区まで達し,16層以上の土石流堆積物や河川流堆積物などに細分されている(白雪川ラハール堆積物:南ほか,2015).

 鳥海町,黒森から布沢にかけては,層厚 3 m 以上の泥流堆積物で,10-20 cm の半軟弱なシルトないし細粒砂層,ところにより粗粒砂層を挟むことが観察される.安山岩の亜円礫が多い.鳥海町,朱ノ又川では法体溶岩や朱ノ又川溶岩の下位に泥流堆積物が分布している.層厚10 m で,葉理のある軟弱な中粒砂層を挟む.一部は火砕流堆積物の可能性がある.遊佐町,月光川右岸の扇状地(白井新田,三の俣)では層厚 20 m以上の礫層からなり,安山岩亜円礫〜亜角礫と中粒〜細粒砂大の岩片や火山灰物質の基質からなる.南ノコマイでは層厚10 m以上の土石流・泥流堆積物で,南ノコマイ溶岩に覆われている.遊佐町,洗沢川では北折川溶岩や滝淵川溶岩に覆われ,最大層厚は20 m 以上に達する.径 50 cm 以下の安山岩亜円礫を含み細粒岩片や砂・シルト大の火山灰を基質とし,ややしまった中粒砂層を挟む.象潟町川袋から本郷にかけての山麓扇状地は,大砂川溶岩や小滝溶岩に覆われた扇状地を形成しており,礫,砂及び泥からなる.吹浦地域北東部の奈曽川沿いでは,小滝泥流堆積物(象潟地域:大沢ほか,1982)の少なくとも一部は,奈曽渓谷上部の崩壊地形の形成に関係している可能性も指摘されている(井口,1988).


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