吹浦溶岩
林(1984a)の吹浦溶岩と宿町火砕流堆積物を合わせたものにほぼ相当する.吹浦地域西部,女鹿から宿町にかけての海岸沿いに露出し,小野曽付近の平坦面を構成する安山岩溶岩流である.牛渡川溶岩を覆う.湯ノ田東の旧採石場では板状節理が発達する塊状部と厚い上部クリンカーからなり,層厚 50 m 以上の 1 枚の溶岩流で,上位を砂丘堆積物に覆われる(第30図).林(1984a)の宿町火砕流堆積物は本溶岩の上部クリンカーに相当する.日本海に面した宿町西方の十六羅漢岩は,節理の発達しないやや発泡した本溶岩の塊状部であり,全部で22体の仏像が 100 年ほど前に彫られたが,波の浸食作用により不明瞭になっているものが多い(第31図 ).岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩で,少量の角閃石斑晶を含むことがある.
斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57102)
産地・産状:遊佐町湯ノ田東 1 km の旧採石場.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(スピネルを含む.斜方輝石結晶粒に囲まれることがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴバイト
溶岩は塊状部(下 1/3)と上部クリンカーからなり,それを砂丘堆積物が覆う.露頭の高さ約 50m
(図幅第41図)
吹浦溶岩の溶岩塊状部 発泡して酸化した溶岩の塊状部には節理が発達せず,十六羅漢像が彫られている.中央の石像の頭の長さ約 50cm
(図幅第42図)
箕輪溶岩
林(1984a)の滝淵川溶岩の一部に相当する.吹浦地域中部,駒止付近から箕輪にかけて分布する安山岩溶岩流である.滝淵川溶岩及び牛渡川溶岩を覆う.溶岩流表面には溶岩堤防や溶岩じわが部分的に認められる.末端崖の比高は 30 m 以上であるが,層厚の確認できる露頭はない.岩質は角閃石斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩である.肉眼的に黒色を呈することが多い.
角閃石斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57103)
産地・産状:遊佐町落伏北東 2.3 kmの林道沿い,標高 210 m 地点.溶岩の転石.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(スピネルを含む.単斜輝石粒に囲まれるものがある),角閃石(周縁部がオパサイト化),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,褐色ガラス
玄武岩質包有物を含む.
大平溶岩
林(1984a)の滝淵川溶岩,大平溶岩,駒止溶岩及び牛渡溶岩を合わせたものである.吹浦地域中部,大平から女鹿・小野曽付近にかけて分布する安山岩溶岩流である.吹浦溶岩及び箕輪溶岩を覆う.本溶岩の噴出火口は大平付近(大平火口)である.大平の西斜面では火口近傍に堆積したと考えられる粗粒な降下スコリアや火山弾からなる火砕物が本溶岩を覆い,また,東側(山頂側)の鳥海ブルーライン沿いでも降下スコリアが洗沢川溶岩を覆っている.駒止より下流では溶岩堤防や溶岩じわが比較的よく保存されている.本溶岩の末端崖は 30 - 80 m の比高を持つ.なお,大平周辺では西に開いた直径 1.5 km の凹地形 が存在し,大平火口はその中にある.この凹地形はおそらく崩落地形であろうが,それに関連したと考えられる堆積物は確認できない.おそらくのちの溶岩に覆われてしまっているのであろう.本溶岩の岩質は角閃石含有斜方輝石単斜輝石かんらん石安山岩である.林(1984b)のかんらん石角閃石玄武岩質包有物(同源捕獲岩)を含むことがある.なお,大平西斜面の鳥海ブルーライン沿い,標高 900 m 付近の露頭から採取した試料には黒雲母捕獲結晶が見いだされた.
佐藤(1950)や林(1984a)は駒止山荘北西の 595 m ピークやその南西1.5 km の 425 m ピークを火口位置としており,そこから別の溶岩流が流出したとしている.しかし,その周辺に粗粒な降下火砕物が分布せず,また岩質が周りの溶岩流と同質であり,火口が存在したとする積極的な証拠はない.このような地形的な高まりは,微地形がよく保存されて溶岩流のフローローブの識別が明らかな桜島火山や草津 白根火山などの新しい溶岩流にも存在し,鳥海火山では猿穴溶岩に認められる(例えば,女鹿の北北西 700 m 付近).そのような場所は溶岩のフローローブが分岐する地点の溶岩堤防の高まりであり,高まりは流れの方向に直交するように延びている.本溶岩中の駒止付近の高まりでもほぼ同じ形態を示す.このことから,これらの地形的高まりは火口ではなくフローローブの分岐点にできた溶岩堤防上の高まりであると判断する.
角閃石含有斜方輝石単斜輝石かんらん石安山岩(GSJ R57104)
産地・産状:遊佐町,国民宿舎大平山荘北西 300 m,鳥海ブルーライン沿い標高 950m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(スピネルを含む.斜方輝石に囲まれることがある),角閃石(完全にオパサイト化した微斑晶),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,ガラス
大平北溶岩
林(1984a)の大平溶岩の一部に相当する.吹浦地域東部,大平を囲む凹地形の中にある,大平の北の平坦面付近(火口位置?)から流出した安山岩溶岩流である.本溶岩の下位には層厚 5 m 以上のスコリアに富む火砕流及びその二次堆積物が認められる.本溶岩は平坦面の北斜面で 10 m 以上の層厚を持つ.岩質は 斜方輝石角閃石かんらん石単斜輝石安山岩である.
斜方輝石角閃石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57105)
産地・産状:象潟町,猿穴の東 1 km(川袋川上流の沢),標高 860m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(スピネルを含む.斜方輝石結晶粒や玄武岩質石基に囲まれるものがある),角閃石(周縁部がオパサイト化),鉄鉱,スピネル
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石,メソスタシス
かんらん石が角閃石に囲まれたかんらん石角閃石玄武岩(林,1984b)の包有物を含む.
鳥ノ海溶岩
林(1984a)の鳥の海溶岩にほぼ相当し,霊峰溶岩の一部を含む.鳥海山地域中西部から吹浦地域北東
部,鳥海湖付近から霊峰の北まで,奈曽渓谷の西側に分布する安山岩溶岩流である.谷櫃川下部溶岩,笙ガ岳溶岩,洗沢川溶岩,本郷溶岩及び元滝溶岩を覆う.東西ないし北西-南東走向の多数の断層に切られている.奈曽川標高 1,000 m 地点の左岸の支沢では14枚の溶岩が確認でき,全層厚は 150 m 以上である.また,霊峰付近では地形的に複数のフローローブが認められる.溶岩表面には溶岩堤防や末端崖が比較的よく保存されている.本溶岩は西鳥海馬蹄形カルデラに切られており,また,カルデラ内の本溶岩上には直径約 400 m の鳥ノ海火口が形成され,小規模の火砕丘が形成されている(おそらくステージ IId の活動.この火砕物の分布は地質図では省略した).中腹の霊峰ピークは林(1984a)によると溶岩の噴出口であるが,大平溶岩の一部と同様に,溶岩のフローローブが分岐する際に形成される溶岩堤防の高まりであると判断する(大平溶岩の項参照).本溶岩の岩質は角閃石(含有)斜方輝石かんらん石普通輝 石安山岩である.
角閃石斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57106)(第32図 )
産地・産状:象潟町,鉾立北西 1.2 km,鳥海ブルーライン沿い,標高 890 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(まれに単斜輝石縁に囲まれる),かんらん石(スピネルを含む.単斜輝石や斜方輝石結晶,または玄武岩質石基に囲まれるものがある),角閃石(周縁部がオパサイト化),鉄鉱,
燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス
かんらん石角閃石玄武岩質包有物を含む.
鳥海火山ステージ IIb の鳥ノ海溶岩(GSJ R57106), 角閃石斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩
(図幅第VII図版2)
清水溶岩
林(1984a)の清水溶岩に相当する.吹浦地域東部,鳥ノ海(鳥海湖)西方 2 km の清水から南西方向洗沢川右岸にかけて分布する小規模な安山岩溶岩流である.洗沢川溶岩及び鳥ノ海溶岩を覆う.火ロ地形はないが,上流部で溶岩全体が周囲より約 10 m 高まっており,清水付近から流出したと考えられる.上流部で分岐し,2組の溶岩堤防が認められる.層厚は 10 m 以上である.本溶岩は洗沢断層を埋め立て,一部は断層崖に沿って北西方向へ流出し,また一部は断層崖を越えて流出しているが,本溶岩も洗沢断層によって変位している.このことは洗沢断層の変位が繰り返し起こっていることを意味している.岩質 は角閃石含有斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩である.
角閃石含有斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57107)
産地・産状:遊佐町,大平東南東,吹浦口登山道の脇,標高 1,330 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(スピネルを含む.単斜輝石さらに斜長石結晶に囲まれるものがある),角閃石(一部オパサイト化),鉄鉱ガラスに富む粗粒な玄武岩質石基に囲まれたかんらん石・斜長石・単斜輝石集合結晶がある.
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石,褐色ガラス
単斜輝石コロナに一部囲まれた石英捕獲結晶を含む.
稲倉岳溶岩
林(1984a)の稲倉岳溶岩に相当する.鳥海山地域北西部,稲倉岳付近から北方約 2 km に分布する安山岩溶岩流である.谷櫃川上部溶岩と奈曽川上部溶岩を覆う.稲倉岳山頂東側のカルデラ壁では厚さ 10 m 以内の溶岩流 6 枚以上からなり,全層厚は約 70 m である.稲倉岳山頂部を東方から遠望すると,溶岩層は南から北へやや傾斜しており( 第24図),本溶岩の噴出口は稲倉岳山頂部付近ではなく,さらに南方である.岩質は角閃石含有斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩である.
角閃石含有斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57108)
産地・産状:象潟町,稲倉岳山頂東側の崖の最上部,溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(スピネルを含む.玄武岩質石基に囲まれるものがある),角閃石(一部オパサイト化),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,燐灰石,メソスタシス
観音森溶岩
林(1984a)の観音森山溶岩及び観音森溶岩を合わせたものにほぼ相当する.吹浦地域中央部,観音森集落付近まで達する安山岩溶岩流と観音森溶岩ドームを構成する.小砂川溶岩及び川袋溶岩を覆う.溶岩ドーム(観音森ピーク)の北斜面では溶岩堤防が分岐しているのが認められ,一方は北へ流れ西に向きを変えて観音森集落に達し,一方は北西ないし西方へ流出し斜面を覆っているように見える.この西側斜面(傾斜約 20°)が観音森ドームの原地形面であったかは不明であるが,ドーム頂上と基底部の標高差は 350 m に達している.岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩で,石英捕獲結晶を含むことが多い.また,少量の角閃石を含むことがある.
なお,気象庁は観音森集落付近で観測井のボーリングを行ったが,それによると観音森溶岩の厚さは40mを越える(火山噴火予知連絡会コア解析グループ, 2011, p.127-134).
斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57109)
産地・産状:象潟町,観音森ピーク西北西700 mの林道沿い.溶岩
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(スピネルを含む),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石,ガラス
石英捕獲結晶を含むが,融食形の石英はクリストバライトと褐色ガラス,さらに単斜輝石コロナに囲まれている
川袋川火砕流堆積物
吹浦地域中部,猿穴の北ないし北西に分布する非溶結の火砕流堆積物である.猿穴 - 観音森北斜面の林道沿いと川袋川沿いで観察できる.川袋溶岩を覆う.本堆積物は直径 50 cm 以下の発泡の悪い安山岩岩塊と,小礫大の安山岩岩片を含む風化した火山灰基質からなる.岩塊の中には表面に冷却割れ目を持つものがあり,また,基質中では炭化した木片も見つかっている.したがって,本堆積物は高温の火砕流であったと判断する.確認できる層厚は 5 mである.
角閃石含有斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57110)
産地・産状:象潟町,猿穴北西 1.2 km の林道沿い.冷却割れ目を持つ岩塊.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(スピネルを含む),角閃石(周縁部がオオパサイト化),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,褐色ガラス
黒雲母・斜長石・斜方輝石・単斜輝石・角閃石・鉄鉱からなる集合結晶が包有物として含まれている.
猿穴下部溶岩
林(1984a)の猿穴下部溶岩にほぼ相当する.吹浦地域中部,猿穴の西から観音森集落東にかけて分布する小規模の安山岩溶岩流である.観音森溶岩及び川袋川火砕流堆積物を覆う.層厚は10-20 mである.溶岩堤防の保存がよいが,猿穴溶岩に覆われ,噴出口は不明である.岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩で,少量の角閃石斑晶を含むことがある.
角閃石含有斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57111)
産地・産状:象潟町観音森ピーク北東 1 km の林道沿い.溶岩
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(スピネルを含む.斜方輝石または玄武岩質石基に囲まれるものがある),角閃石(完全にオパサイト化),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,褐色ガラス
玄武岩質包有物を含む.