北西上空よりみた鳥海山(大阪-秋田間の定期航空便より1987年10月4日,原山智氏撮影)
奈曽渓谷(右手前)及び後カルデラ期の溶岩流に埋め立てられた東鳥海馬蹄形カルデラ(中央奥)
がよくわかる
(図幅第4図)
地形
鳥海火山は溶岩流を主体とした第四紀後半の成層火山で,日本海に面した秋田・山形県境に位置し,山体の主部は5万分の1地形図「鳥海山」地域西半の子吉川・日向(にっこう)川以西と,「吹浦」地域の庄内平野を除いた大部分を占める.最高点(新山)は標高 2,236 m に達し,東北地方では福島県の燧ヶ岳に次ぐ第二の高峰である.火山体の基底部は東西約 26 km,南北約 14 km に達し,日本でも有数の規模を誇る火山である(第1図 及び 上写真).噴出年代の若い溶岩流では,溶岩堤防,溶岩条溝や溶岩じわなどの表面地形の保存が良好で,フローローブの識別が容易である(守屋, 1983;第2図).
山体の傾斜は緩やかで視野が広く発達している
(図幅第3図)
成層火山体表面のほとんどは溶岩流により構成されている
1. 新期溶岩流(幅広く薄い);2. 河成面;3. 地すべり地形;4. 流れ山;5. 断層崖
6. 古期溶岩流(幅広く厚い);7. 火砕流?堆積面;8. 円錐火山原面
(図幅第7図)
鳥海火山はおおまかに西部(西鳥海)と東部(東鳥海)に分けられる.“西鳥海”は南西に開いた西鳥海馬蹄形カルデラからその西側に,溶岩流に覆われたなだらかな山容が日本海に向かって広がっており,海岸線はほぼ溶岩の浸食された断崖で,その隙間にわずかに砂礫浜が形成されている程度である.山体の上部には東西ないし北西 - 南東方向に延びた北ないし北東落ちの正断層群が発達する.一方,“東鳥海” は北に開いた東鳥海馬蹄形カルデラを中心とする.山体の表層部は若い溶岩流で覆われている.山頂近くは30°近い傾斜をなし,比較的なめらかな円錐形の山体である.東鳥海も西鳥海も,山頂部を中心に放射状に河川が刻まれているが,一部を除いて谷幅は狭く下刻作用もそれほど著しくない.
鳥海火山の周辺には火山岩屑よりなる堆積物が広く分布し(主に,北の5万分の1「象潟」及び「矢島」,南の「酒田」及び「大沢」地域内 ),山体崩壊によってもたらされた岩屑なだれ堆積物に特徴的な流れ山地形や岩塊相が見られることも多い( 第3図 ).それらの給源としていくつかのカルデラないし崩壊地形がみられる(第4図).カルデラ地形として東鳥海馬蹄形カルデラ(第4図のA)や西鳥海馬蹄形カルデラ(第4図のB)が顕著である.これらのカルデラ内は新しい溶岩ドーム(溶岩円頂丘)や溶岩流により一部が埋め立てられている.東鳥海馬蹄形カルデラは 紀元前466年の象潟岩屑なだれの発生源である.奈曽渓谷(奈曽川中・上流の渓谷,奈曽谷とも呼ぶ;第4図のC)は,鳥海火山に刻まれる谷としては著しく幅が広く,かつ深い渓谷の一つで(幅500-1,000 m,深さ300-500 m),下流域より谷頭部が広がっており,単に河川の下刻作用のみでなく谷頭の崩壊により拡大した可能性が大きい.また,南麓の鳳来山から北へたどる尾根(第4図のD)や上ノ台の西縁(第4図のE)で囲まれる凹地形も古い崩落崖である可能性がある.その内側の鶴間池を囲む直径 1.5 km の凹地形(第4図のF)も崩壊によるものであり,その滑落ブロック上には鶴間池がある.火山体の北や南に分布する古い時代の岩屑堆積物はその多くが山体崩壊によるものと考えられ,その一部はこれらのカルデラないし崩壊地形に由来するのかも知れない.また,西鳥海の大平(おおだいら)周辺にも西に開いた凹地形がある.そのほか,日向川北岸,上ノ台の溶岩末端崖や大台野の火砕流台地の東縁でも多数の滑落崖が発達している.
この岩屑なだれ堆積物は,紀元前466年に発生し,東島海馬蹄形カルデラを形成した
(図幅第8図)
(図幅第9図)
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