鳥海山 Chokai Volcano


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  icon ステージ IIIbの噴出物

icon 岩屑なだれ堆積物・崩壊堆積物 及び
    扇状地堆積物


icon 有史時代の活動記録

icon 1974年の噴火

icon 噴火物の化学組成と鉱物組成

icon 火山体付近の活断層

icon 今後の噴火について

icon 引用文献

2015/06/19
このデータ集は5万分の1地質図幅「鳥海山及び吹浦地域の地質」(中野・土谷,1992)から抜粋, 再構成し,さらに,「矢島地域の地質」(大沢ほか,1988)の一部及びその後に公表された研究成果を加えて修正・加筆したものである.
なお,地名については当時の地名をそのまま踏襲しており,その後の市町村合併等による変更を反映していない.

このデータ集を引用する場合,次のように引用してください.
中野 俊(2015)詳細火山データ集:鳥海火山.日本の火山,産総研地質調査総合センター
https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/chokaisan/index.html)

噴出物 - ステージ I の噴出物 -

中野・土谷(1992)で扱ったステージ I 噴出物のうち,山体崩壊に伴う噴出物は「岩屑なだれ堆積物・崩壊堆積物及び扇状地堆積物」のページに一括した.

石禿川火山岩
 林(1984a)の石禿川溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域北西部,石禿川と赤川に囲まれた尾根(丸森 - 赤はげ)及び東鳥海馬蹄形カルデラ内の赤川上流に分布する安山岩溶岩及び火砕岩からなる.石禿川では天徳寺層を不整合に覆う.赤川上流標高 1, 450 - 1, 550 m では層厚 1-10 m の 9 枚以上の塊状溶岩と成層した凝灰岩,火山礫凝灰岩及び細粒砂岩層(第13図)などからなり,全層厚は 100 m 以上である.これらの火砕物の少なくとも一部は火山活動とは直接関係なく,二次的に堆積したものである.赤川上流標高 1, 150 m付近では固結した凝灰角礫岩(第14図)と塊状溶岩からなる.赤川標高 970 m付近の法体(ほったい)滝では層厚 50 m で,厚さ 2-5 m の 4 枚以上の塊状溶岩と火砕岩(一部は溶岩のクリンカー)の互層である.岩質は斜方輝石(含有)かんらん石単斜輝石安山岩(一部は玄武岩質)及び少量の斜方輝石単斜輝石安山岩で,変質していることが多い.

斜方輝石含有単斜輝石かんらん石安山岩(玄武岩質)(GSJ R57041)
産地・産状:象潟町,赤川標高970 m付近の法体滝の最下部.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石縁に囲まれる),かんらん石(完全に粘土鉱物と炭酸塩鉱物に置換されている),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,アルカリ長石,燐灰石

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57042)
産地・産状:遊佐町,新山の北,赤川上流標高1, 430 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石?,鉄鉱,メソスタシス

fig13
第13図 石禿川火山岩の火山礫凝灰岩
(遊佐町,赤川上流標高1,510m地点)
(図幅第27図)

fig14
第14図 石禿川火山岩の凝灰角礫岩(遊佐町,赤川標高1,150m地点)
基質は団結し,岩片はよく発砲している
(図幅第28図)


飯ヶ森溶岩
 おそらく林(1984a)の善神池溶岩に相当する.鳥海山地域北西部,飯ヶ森の北斜面に分布する安山岩溶岩流である.鶯川玄武岩を覆い,由利原岩屑堆積物に覆われるが,直接の関係は確認されていない.祓川神社の北 800 m 地点では 1 枚の溶岩流からなり,確認できた層厚は 15 m 以上である.分布の大部分は岩屑堆積物に覆われている.岩質はかんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩である.

かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57043)
産地・産状:矢島町,祓川神社の北 800 m,標高 1,110 m地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石,鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス


赤崩沢下部溶岩
 林(1984a)の下玉田川溶岩の一部である.鳥海山地域中央部,下玉田川上流の赤崩沢左股下部左岸や赤崩沢右股に分布する安山岩溶岩流である.下玉田川層を覆う.赤崩沢右股では層厚 15 m 以上の 1 枚の溶岩で,厚さ 3 m の二次堆積物(淘汰の悪い火砕物)を挟んで下玉田川層を覆う.岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩である.

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(玄武岩質)(GSJ R57044)
産地・産状:鳥海町,下玉田川上流赤崩沢右股標高 920m 地点の左岸.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石縁に囲まれる.単斜輝石と平行連晶することがある),かんらん石(少量のスピネルを含む.一部イディングサイト化.まれに単斜輝石縁に囲まれる),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,ガラス


赤崩沢右股溶岩
 林(1984a)の第二赤崩川溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域中央部,下玉田川上流の赤崩沢右股上部に分布する安山岩溶岩流である.下玉田川層を覆う.また,おそらく赤崩沢下部溶岩を覆うが野外では確認していない.赤崩沢右股標高1, 170 m 付近では1枚の溶岩で,厚さは 20 m以上である.岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩である.

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57045)
産地・産状:鳥海町,下玉田川上流赤崩沢右股標高 990 m 付近の右岸.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(しばしば単斜輝石縁に囲まれる),かんらん石(一部イディングサイト化), 鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石


朱ノ又川溶岩
 林(1984a)の朱ノ又川溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域中央部,下玉田川の支流,朱ノ又川の標高700 m 付近の谷底の小露頭(地質図では省略)及び左岸支沢上流で礫層(扇状地堆積物)を覆って分布する安山岩溶岩流である.左岸の支沢では,層厚 10 m 以上の 1 枚の溶岩で板状節理が発達する.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩である.


斜方輝石単斜輝石安山岩( GSJ R57046)(第15図
産地・産状:鳥海町,朱ノ又川左岸標高 720 m 付近に合流する支沢,標高 810 m の落差 20 m の滝.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト

fig15
fig15
第15図 
1.鳥海山ステージ I 朱ノ又川溶岩(GSJ R57046),斜方輝石単斜輝石安山岩
2.鳥海山ステージ I 下玉田川溶岩(GSJ R57047),斜方輝石かんらん石単斜輝石玄武岩

(図幅第V図版)

下玉田川溶岩
 林(1984a)の下玉田川溶岩の一部に相当する.鳥海山地域中央部,朱ノ又川の左岸及び下玉田川に分布する玄武岩溶岩流である.しばしば柱状節理が発達している(第16図).朱ノ又川左岸上部では朱ノ又川 溶岩を覆う,層厚 8 m 以上の 1 枚の溶岩である.下玉田川右岸では厚さ 20 m の成層した砂礫層(二次堆積物)を挟んで下玉田川上部溶岩に覆われ,層厚 20 m以上の1枚の溶岩である.岩質は斜方輝石(含有)かんらん石単斜輝石玄武岩である.

斜方輝石かんらん石単斜輝石玄武岩(GSJ R57047)(第15図2
産地・産状:鳥海町,下玉田川標高 660 m 地点の左岸.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石縁に囲まれる),かんらん石,鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,かんらん石,鉄鉱,燐灰石,ガラス

fig16
第16図 下玉田川溶岩の柱状節理(鳥海町,下玉田川標高660m地点の右岸)
露頭の高さは約10m
(図幅第29図)


下玉田川上部溶岩
 林(1984a)の下玉田川上流溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域中央部,下玉田川本流 - 赤崩沢と朱ノ又川の間に分布する安山岩溶岩流である.赤崩沢左股の標高 900 m 地点の右岸で,下玉田川層中の玄武岩溶岩を直接覆う.また,成層した砂礫層を挟んで下玉田川溶岩を覆う.下玉田川右岸では厚さ 10 m 以上の 1 枚の溶岩である.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩である.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57048)
産地・産状:鳥海町,朱ノ又川標高 600 m 地点の左岸.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(ごく少量),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,フロゴパイト,メソスタシス


上ノ台溶岩
 林(1984a)の上の台溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域中央部,日向川の北岸の上ノ台と呼ばれる緩斜面を構成する安山岩溶岩流である.新第三系及び蕗沢層を覆う.末端及び白沢川沿いは複数の崩落崖で切られている.層厚の確認できる露頭はないが,日向川支流蕗沢上部で比高 50 m 以上の崖をなす.岩質はかんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩である.また,蕗沢の標高 700 m 地点で蕗沢層の中粒 - 細粒砂層を覆う,斜長石大型斑晶(最大径 8 mm)に富む溶岩(斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩)も本溶岩に含めた.

かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57049)
産地・産状:八幡町,小黒瀬川標高 810 m 地点,落差 10 m の滝.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57050)
産地・産状:八幡町,日向川支流蕗沢標高 700 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(少量のスピネルを含むことがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石,褐色ガラス


鳳来山火山岩
 
林(1984a)の三の俣溶岩の一部に相当する.鳥海山地域南西部,草津川に沿って鳳来山北から湯ノ台西へ南北に延びる尾根を構成する安山岩溶岩及び火砕岩である.鹿ノ俣川上流の火砕岩・溶岩層も本火山岩に含める.鳳来山東及び鹿ノ俣川上流では新第三系丸山層を不整合に覆う.鹿ノ俣川上流では鹿ノ俣川下部溶岩に覆われ,ほぼ北へ 15-20°傾斜する,成層した凝灰角礫岩や火山礫凝灰岩などの火砕岩が卓 越し,厚さ3-5 mの(玄武岩質)安山岩溶岩を挟んでいる.全層厚はおよそ200 mである.鳳来山付近から湯ノ台西の尾根では成層した凝灰角礫岩,凝灰岩及び凝灰質粗粒砂岩(やや固結)からなり,北西ないし西へ 30-50°傾いている.溶岩は鳳来山付近には分布するが,湯ノ台付近には認められない.岩質はかんらん石単斜輝石安山岩(玄武岩質)及び斜方輝石単斜輝石安山岩である.変質していることが多い.

かんらん石単斜輝石安山岩(玄武岩質)(GSJ R57051)(第17図1
産地・産状:八幡町,草津川上流標高 750 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石・単斜輝石・かんらん石(スピネルを含むことがある.一部粘土鉱物と炭酸塩鉱物に置換されて いる),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,ガラス

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57052)
産地・産状:八幡町・鳳来山の東300 m,草津川に標高 650 m付近で合流する支沢(赤滝沢)の標高710 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,褐色ガラス

fig15_1
fig15_2
第17図 
1. 鳥海火山ステージ I の鳳来山火山岩(GSJ R57051), かんらん石単斜輝石安山岩
2. 鳥海火山ステージ I の藤倉川溶岩(GSJ R57060), 斜方輝石含有かんらん石単斜輝石安山岩

(図幅第VI図版)

月光川溶岩
 
林(1984a)の三の俣溶岩の一部に相当する.鳥海山地域南西部,藤倉川-月光川-鳳来山にかけて分布す る安山岩溶岩流である.天狗森火砕岩及び鳳来山火山岩を覆う.月光川上流金俣沢では少なくとも 4 枚 の溶岩からなり,いずれも 5-20 m の厚さである.全層厚は 50 m 以上である.さらに下流の月光川・藤倉川の合流点の南,吹浦地域南東部の月光川ダム下流に露出している溶岩(第18図)も本溶岩に含める. 吹浦地域内では扇状地堆積物,沖積扇状地堆積物及び河床堆積物に覆われている.岩質はかんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩である.

かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57058)
産地・産状:遊佐町,月光川上流金俣沢標高850 m,落差20 mの滝.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(単斜輝石縁に囲まれることがある),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57059)
産地・産状:遊佐町,月光川ダム南西月光川右岸,道路沿い標高150 m地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(まれに単斜輝石縁に囲まれる),かんらん石(一部イディングサイト化), 鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,フロゴバイト 玄武岩質包有物を含む.

fig18
第18図 月光川溶岩の板状節理(遊佐町,月光川ダムの下流250m)
スケール(写真中央)は1m 上位を河底堆積物(沖積層)に覆われる
(図幅第30図)


藤倉川溶岩
 林(1984a)の三の俣溶岩の一部に相当する.鳥海山地域南西部から吹浦地域南東部にかけての,藤倉川 - 金俣沢及び南米沢に分布する安山岩溶岩流である.藤倉川及び金俣沢では月光川溶岩を覆う.南ノコマイ - 南米沢では扇状地堆積物を覆う.藤倉川では厚さ10 m 以内の少なくとも 5 枚以上の溶岩からなる.全層厚は50 m以上である.岩質は斜方輝石含有かんらん石単斜輝石安山岩である.

斜方輝石含有かんらん石単斜輝石安山岩(玄武岩質)(GSJ R57060)(第17図2
産地・産状:遊佐町,月光川支流藤倉川右岸,標高 600 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石縁に囲まれる),かんらん石,鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト


三の俣溶岩
 林(1984a)の三の俣溶岩の一部に相当する.鳥海山地域西部,西鳥海馬蹄形カルデラ南東部のカルデラ壁から三の俣にかけて分布する安山岩溶岩流で,カルデラ内では火砕岩を伴う.南米沢で藤倉川溶岩を覆い,カルデラ壁では最下位に露出する.南ノコマイ標高1,250 - 1,300 m付近で溶岩流を覆って厚さ2 m のシルト及び火山礫凝灰岩層が,さらに上位に厚さ 10 m 以上の無層理の凝灰角礫岩が分布する.この凝灰角礫岩の上位は厚さ 20 m 以上の安山岩溶岩である.部分的に熱水変質が認められる.全層厚はおそらく200 m以上であろう.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩からなり,
斜長石斑晶が細かい特徴がある.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57062)
産地・産状:遊佐町,南ノコマイ支流南米沢,標高640 m地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石と平行連晶することがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57063)
産地・産状:遊佐町,南ノコマイ上流,標高 1,360 m地点(月山森北北東600 m).溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(まれに単斜輝石に囲まれる.単斜輝石と平行連晶することがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス


檜ノ沢火山岩
 
林(1984a)の三の俣溶岩の一部に相当する.鳥海山地域西端 - 吹浦地域東端,西鳥海馬蹄形カルデラのカルデラ西壁に露出する最下位層で,安山岩溶岩流からなり,檜ノ沢中流では火砕岩が卓越する.檜ノ沢右岸では部分的に弱く成層した層厚40 m以上の火砕岩(凝灰角礫岩・火山角礫岩)からなり,南東に 40-50°傾いている.その上流の檜ノ沢 - 笙ガ岳にかけては,ほとんどが 3-6 m 厚さの 15 枚以上の溶岩流 (斜方輝石単斜輝石安山岩 > かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩)で檜ノ沢の下流方向に 40°傾いており,全層厚は 300 m である.笙ガ岳南斜面では溶岩の厚い部分がある(第19図).檜ノ沢沿い上流では熱水変質が認められる.また,吹浦地域東部,カラ沢の支流の狭い範囲に,笙ガ岳溶岩,洗沢川溶岩,南ノコマイ溶岩及び八森溶岩に囲まれて分布する安山岩溶岩は,ここでは本火山岩に含めるが,笙ガ岳下部溶岩に相当する可能性もある.岩質は(かんらん石)斜方輝石単斜輝石安山岩で,斜長石斑晶は細かく,カルデラ壁下部ではかんらん石が変質していることが多い.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57064)

産地・産状:遊佐町,檜ノ沢に標高1,140 m 付近で右岸から合流する支沢,標高 1,350 m 地点(白山岩).溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),鉄鉱,燐灰石

石基:斜長石・単斜輝石,斜方輝石・鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト

かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57065)
産地・産状:遊佐町,檜ノ沢,標高 1,140 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(微斑晶のみ.完全に粘土鉱物に変質している),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス

かんらん石含有斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57066)
産地・産状:遊佐町,カラ沢標高 270 m 付近に左岸から合流する支沢(カニノ目沢)の上流,標高 450 m 地点. 溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(微斑晶のみ.一部周囲がイディングサイト化),角閃石(半分オパサイト化.微斑晶が 1 個認められる),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,フロゴパイト 玄武岩質包有物を含む.



fig17
第19図 檜ノ沢火山岩の溶岩(白山岩:遊佐町,笙ヶ岳山頂の南400m)
この部分で厚さ20m以上,部分的に板状節理が発達している
(図幅第31図)


金俣沢溶岩
 林(1984a)の南米沢溶岩の一部に相当する.鳥海山地域南西部,八丁坂から鳳来山にかけての尾根を構成し,さらに藤倉川及び金俣沢に分布する安山岩溶岩流である.藤倉川溶岩を覆う.金俣沢では少なくとも 4 枚以上の溶岩からなりそれぞれ 6-10 m,ところにより 20 m の厚さである.確認できる全層厚は 40 m 以上である.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩からなり,少量のかんらん石斑晶を含むことが多い.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57061)
産地・産状:遊佐町,月光川上流金俣沢,標高1,070 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(まれに単斜輝石縁に囲まれる),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト


鹿ノ俣川下部溶岩
 
林(1984a)の鹿ノ俣川第一溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域南西部,鹿ノ俣川上流で,鳳来山火山岩を覆う安山岩溶岩流である.太右エ門沢では 4枚以上の溶岩,中沢では 3枚の安山岩溶岩で1枚の厚さ数 m-40 m,それぞれの溶岩の間に,最大 20 m に達する厚い成層した砂礫層または凝灰角礫岩を挟むことが多い.全層厚は中沢では 70 m,太右エ門沢では 80 m 以上である.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩及びかんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩である.斜長石の大型斑晶がないことで,鹿ノ俣川上部溶岩と区別できる.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57053)
産地・産状:八幡町,鹿ノ俣川上流太右エ門沢,標高 1,170 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁.単斜輝石と平行連晶することがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス

かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57054)
産地・産状:八幡町,鹿ノ俣川上流太右エ門沢,標高1,250 m地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石,鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,ガラス


鹿ノ俣川上部溶岩
 林(1984a)の鹿ノ俣川第二溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域南西部,鹿ノ俣川上流の太右エ門沢及び中沢で,厚さ15-20 mの二次堆積物(凝灰角礫岩,火山円礫岩,砂層)を挟んで鹿ノ俣川下部溶岩を覆い,厚さ15-25 mの火砕物からなる二次堆積物を挟んで七高山溶岩に覆われる安山岩溶岩流である.中沢で は 3 枚の溶岩からなり,それぞれ 8-20 m,全層厚は 60 m 以上である.岩質はやや玄武岩質の斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩で,斜長石大型斑晶で特徴づけられる.

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57055)
産地・産状:八幡町,鹿ノ俣川上流太右エ門沢,標高 1,270 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(多くは単斜輝石縁を持つ),かんらん石(少量のスピネルを含むことがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト


白沢川溶岩
 林(1984a)の鹿ノ俣川溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域南西部,鹿ノ俣川と白沢川の間の尾根及び白沢 川上流に分布する安山岩溶岩流である.七高山溶岩に覆われる.鹿ノ俣川下流の標高 450 m 地点の左岸 (屏風岩:第20図)では新第三系青沢層を直接覆い,柱状節理の発達した 1 枚の溶岩で層厚はおよそ 100 m である.白沢川上流では層厚およそ 20 m で 1 枚の溶岩流である.岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石 安山岩であり,石英捕獲結晶をしばしば含む.

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57077)
産地・産状:八幡町,日向川支流白沢川,標高470-480 m 付近の右岸上部の岩壁.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石縁に囲まれることがある),かんらん石,鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石 単斜輝石コロナに囲まれた石英捕獲結晶を含む.

fig18
第20図 白沢川溶岩の柱状節理(屏風岩:八幡町,鹿ノ俣川標高 450 m 地点の左岸上部)
1 枚の溶岩で,露頭の高さは約 100 m
(図幅第32図)



大台野火砕流堆積物
 林(1984a)の大台野火砕流堆積物にほぼ相当する.鳥海山地域南西部,大台野の緩斜面(南傾斜約 5°)を構成する非溶結の火砕流堆積物である.新第三系,鳳来山火山岩及び草津川岩屑なだれ堆積物を覆う.数河ノ池付近や日向川沿いでは多数の崩落崖で切られている.貝沢付近で層厚 70-100 m である.フローユニット境界は認められない.上部は厚さ 1 m の風化土壌となっている.本堆積物は安山岩岩塊,礫及び火山灰基質からなる.岩塊は直径 2 m 以下のやや丸みを帯びたものが多いが,50 cm 以下で風化が著しく,急冷割れ目を持つ岩塊が数 %-10数 %程度含まれる.板状節理を持つものもある.基質は風化の進んだ細粒物質からなる.宇井(1972)によると,急冷割れ目を持つ持たないにかかわらず帯磁方位は現在の地球磁場方位と一致しており,いずれも本質岩塊であり,本堆積物は高温の火砕流堆積物である.南隣酒田及び大沢地域(池辺ほか, 1979; 土谷, 1989)の日向川沿いの段丘堆積物とされた堆積物の少なくとも一部は本火砕流堆積物に対比される.なお,加藤(1986)は本火砕流堆積物と大蕨岩屑堆積物を一括し,大台野火砕流・泥流と呼び,鹿ノ俣川上流の崩壊地形と関係しているとしている.

斜方輝石含有かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57056)
産地・産状:八幡町貝沢 - 大台野間の道路沿い,標高 350 m 地点.直径 2 m 以上の急冷縁を持たない岩塊.
斑晶:斜長石・単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(少量のスピネルを含むことがある),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石


大台野上部溶岩
 
林(1984a)の大台野上部溶岩にほぼ相当する.鳥海山地域南西部,草津川左岸大台野の北から鹿ノ俣川上流マタフリ沢にかけて分布する安山岩溶岩流である.少なくとも 2 枚以上の溶岩からなる.新第三系 及び大台野火砕流堆積物を覆う.本溶岩の末端及び側端(荒木川及び鶴間池の西)では崩落崖が発達し,切られている.2枚の溶岩流は荒木川沿いではいずれも20 m以上の厚さである.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩で,少量の角閃石またはかんらん石斑晶を含むことがある.

角閃石かんらん石含有斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57057)
産地・産状:八幡町,荒木川標高 840 m 地点,落差 20 m の滝.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(微斑晶のみ),角閃石(オパサイト縁に囲まれる),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石,メソスタシス


笙ガ岳下部溶岩
 
林(1984a)の南米沢溶岩の一部に相当する.鳥海山地域西端,笙ガ岳付近のカルデラ壁上部及び鳥海湖東の狭い範囲に分布する安山岩溶岩流である.檜ノ沢火山岩を覆う.鳥海湖の東では熱水変質が著しい. 確認された層厚は 50 m である.岩質は斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩である.

斜方輝石かんらん石単斜輝石安山岩(GSJ R57067)
産地・産状:遊佐町,笙ガ岳北東 500 m,カルデラ壁の標高 1, 350 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石と平行連晶することがある),かんらん石(単斜輝石に囲まれることがある),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石


洗沢川下部溶岩
 
林(1984a)の洗沢下部溶岩にほぼ相当する.吹浦地域東部,洗沢川上流の谷底に露出する安山岩溶岩流 である.厚さ 10-20 m の少なくとも 2 枚以上の溶岩からなる.本溶岩の基底部は露出してない.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩である.かんらん石の微斑晶を含むことがあり,斜長石斑晶が細かい特徴がある.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57068)
産地・産状:遊佐町,洗沢川上流,標高 1,050 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石と平行連晶することがある),かんらん石(ごく少量の微斑晶),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴパイト


御滝火山岩
 
林(1984a)の御滝溶岩類の全部及び奈曽谷溶岩の一部を合わせたものである.鳥海山地域北西部から 吹浦地域北東部にかけて,奈曽渓谷のほぼ全域に露出する最下位層で,安山岩溶岩流・火砕岩と少量の玄武岩溶岩流からなる.火砕岩は凝灰角礫岩及び火山礫凝灰岩を主体とする.その一部はスコリア流堆積物や再堆積した火砕物などである.奈曽川標高 980 m 付近の右岸には,幅 3-4 m,走向 N40°W でほぼ垂直の玄武岩質安山岩岩脈が成層した火砕岩層を貫いている(第21図).玄武岩溶岩は鉾立南東 800 m の白糸の滝下流において本火山岩の上部に分布する.玄武岩は 5 枚以上で 1 枚 5-6 m の厚さである(第22図).最上部の溶岩の上部クリンカーは風化が著しく,上位を奈曽谷溶岩に覆われている.ツキダシ(奈曽川標高 680 m 地点の東側の崩壊地形)では 3 枚以上の安山岩溶岩からなり,上位の奈曽谷溶岩との間に風化帯を挟んでいる.安山岩の岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩で,少量のかんらん石を含むことがある.玄武岩は斜方輝石かんらん石単斜輝石玄武岩である.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57069)
産地・産状:象潟町,奈曽川上流,標高 900 m地点の右岸.最下部の溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石と平行連晶することがある),かんらん石(ごく少量の微斑晶.粘土鉱物と炭酸塩鉱物に置換されている),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,メソスタシス

fig21a
fig21b
第21図 御滝火山岩の火砕岩を貫く岩脈(遊佐町,奈曽川標高980m地点の右岸)
露頭の高さ約30m.火砕岩は凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩が主体でシルト層も挟む.上部には酸化したスコリア凝灰岩が成層する.最上部は安山岩溶岩
(図幅第33図)

fig20
第22図 御滝火山岩上部の玄武岩溶岩流(象潟町,奈曽渓谷,白糸の滝の下流標高 1,000m 地点)
中央の白色部が塊状部,その上下はクリンカーである
(図幅第34図)

奈曽谷溶岩
 
林(1984a)の奈曽谷溶岩の大部分に相当する.鳥海山地域北西部 - 吹浦地域北東部,ツキダシより上流の奈曽渓谷両岸に分布する安山岩溶岩流である.奈曽川の標高 1,050m 右岸の沢では 4 枚以上の溶岩からなり全層厚 120 m で,凝灰角礫岩を主体とした火砕岩が卓越している.ステージ I の谷櫃川下部溶岩に岩質が類似した岩脈に貫かれる.岩質はかんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩である.

かんらん石斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57071)
産地・産状:象潟町,奈曽川,標高 800 m 地点に合流する左岸の枝沢,標高 960 m地点(鉾立東の崖).溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(一部はイディングサイト化),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,かんらん石(イディングサイト),鉄鉱,燐灰石,メソスタシス


鳥越川溶岩
 
林(1984a)の鳥越川溶岩の一部に相当する.鳥海山地域北西部,唐吹長峰から稲倉岳付近にかけての鳥越川左岸の最下部,さらに,吹浦地域北東端,奈曽渓谷右岸上の山放牧場付近に,おそらく笹岡層を覆って分布する安山岩溶岩流である.鳥越川大水揚左岸では複数枚(少なくとも 3 枚以上)の溶岩で,全層厚 80 m 以上,谷櫃滝の下流では 50 m 以上の溶岩である.また,奈曽渓谷の本溶岩は厚さ 20 m 以上の溶岩である.岩質は(かんらん石含有)斜方輝石単斜輝石安山岩である.奈曽渓谷右岸の溶岩はかんらん石斑晶をほとんど含まない.

かんらん石含有斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57072)
産地・産状:象潟町,鳥越川支流谷櫃川左岸,標高610 m地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(±単斜輝石縁),かんらん石(微斑晶のみ.粘土鉱物と炭酸塩鉱物に置換 されている),鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57073)
産地・産状:象潟町,奈曽川標高 380 m の東方 500 m の右岸,標高 480 m 地点(新堤南東 500 m).溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石と平行連晶することがある),かんらん石?(ごく少量の微斑晶. 粘土鉱物に置換されている),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,フロゴバイト


岩脈
 
鳥海山地域西端,奈曽渓谷上流部右岸にて奈曽谷溶岩を貫く安山岩岩脈である.走向は N50-65°W, ほぼ垂直である.奈曽川標高1,050 m地点の右岸の沢では幅 5-10 m,貫入面に垂直に柱状節理が発達し (第23図),北西端で二股に分岐している.奈曽川標高 850 m 地点の右岸の沢では両岸に 30 m 以上の高 さの露頭となっている.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩で,斜長石斑晶に富み,谷櫃川下部溶岩と同質である.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57074)
産地・産状:象潟町,奈曽川標高 1,050 m 地点の右岸に合流する支沢の左股,標高1,250 m地点.岩脈.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石

fig23
第23図 奈曽谷溶岩を貫く岩脈(遊佐町,奈曽川標高 1,050 m 地点の北岸 1,250 m地点)
貫入面に垂直の,直径5-10 cmの柱状節理が発達している
(図幅第35図)


谷櫃川下部溶岩
 林(1984a)の鳥越川溶岩の一部及び蟻の戸渡溶岩の一部を合わせたものである.鳥海山地域北西部,東鳥海馬蹄形カルデラ西縁のカルデラ壁(第24図)から唐吹長峰にかけてと,奈曽渓谷に分布する安山岩溶岩流である.御滝火山岩及び鳥越川溶岩を覆う.奈曽渓谷最上流では 5 枚以上の溶岩流で全層厚約 100 m,谷櫃(やびつ)滝付近では1-2枚の溶岩で層厚100 m以上に達する.また,蟻ノ戸渡南東のカルデラ壁では熱 水変質が著しい安山岩溶岩が露出しているが(第25図),これも本溶岩と同一であると判断した.岩質は 斜方輝石単斜輝石安山岩で,斜長石斑晶と燐灰石微斑晶に富む特徴がある.

斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57075)
産地・産状:象潟町,鳥越川支流の谷櫃川,標高 800 m 地点(谷櫃滝下).溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,燐灰石  
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石,フロゴバイト

fig22
表 図を拡大する
第24図 東鳥海馬蹄形カルデラの西壁
カルデラ東縁標高1,200m付近から眺める.図の左端は第37図参照.蟻ノ戸渡と稲倉岳の距離は約1km
(図幅第36図)

fig25
第25図 東鳥海馬蹄形カルデラ南壁の谷櫃川下部溶岩の変質帯(白色部)
写真右上は稲倉岳,ほぼ中央が蟻ノ戸渡である(第36図参照)
(図幅第37図)


谷櫃川上部溶岩

 林(1984a)の蟻の戸渡溶岩の一部に相当する.鳥海山地域北西部,稲倉岳の南から谷櫃滝上部にかけて分布する安山岩溶岩流である.鳥越川大水揚の西で厚さ 10 m の泥流堆積物を挟んで谷櫃川下部溶岩を覆う.2 枚以上の溶岩からなり,全層厚は 40 m である.岩質は斜方輝石単斜輝石安山岩で,かんらん石を含むことがある.谷櫃川下部溶岩とは斜長石大型斑晶がないことで区別できる.

かんらん石含有斜方輝石単斜輝石安山岩(GSJ R57076)
産地・産状:象潟町,鳥越川大水揚(標高 940 m)西のカルデラ壁上部,標高 1,190 m 地点.溶岩.
斑晶:斜長石,単斜輝石,斜方輝石(単斜輝石と平行連晶することがある).かんらん石(斜長石との集合結晶として薄片中に 1 個のみ),鉄鉱,燐灰石
石基:斜長石,単斜輝石,斜方輝石,鉄鉱,シリカ鉱物,燐灰石



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