衛星画像

火山研究解説集:有珠火山 by 産業技術総合研究所・地質調査総合センター

火山研究解説集:有珠火山
1. まえがき
2. 地形,地質概要,噴火史,火山活動の特徴
おいたち 歴史時代の噴火 噴火の特徴 岩石
3.マグマだまりと地下構造
マグマだまり 地下の構造
4. 噴火と変動
噴火の概要 火山性地震
地下水 噴出物と噴火様式 マグマの破砕 火山ガス
衛星画像
5.リンクお問い合わせ

ASTER usu 000403.jpg

  • 2000年4月3日に撮影されたASTER画像.噴火口から火山灰による黒い帯が何本か見られます.

目次

はじめに

衛星リモートセンシングによる火山観測は1970年代から開始され,近年は著しい進歩を遂げ,火山観測の重要な位置を占めるようになってきました.リモートセンシングによる火山観測は,広域的・周期的・定量的な観測を実施することが容易であるため,今後の火山観測に大きな役割を果たすと期待されています.


衛星リモートセンシングによる火山観測では,噴煙・火山灰・溶岩流・火砕流などの火山噴出物の分布,そして温度異常の存在やその規模などが把握できます.ここでは詳しく取り上げませんが,cm単位の地殻変動も観測可能です.有珠火山では2000年噴火以降現在(2010年)まで,沈降が観測されています.

火山灰の反射スペクトル

火山灰の粒度分布
乾燥した火山灰の反射スペクトル
16%の水分を付加した火山灰の反射スペクトル

衛星画像を解釈する上で火山灰のスペクトルを知ることは重要です.多くの場合,火山灰は衛星画像上で黒く見えますが,これは,火山灰が周りの物質よりも反射率が低いからです.火山灰の反射スペクトルを測定することによって,衛星画像で得られる放射輝度の違いを定量的に議論することができます.浦井ほか(2001)では有珠山2000年噴火に伴う火山灰を採取して,粒度や含水量を制御して,反射スペクトル測定を実施しました.ここでは,その測定結果を見てみましょう.

この実験で使用した火山灰は2000年5月28日に,新しい火口群から北西に1-2km離れた,洞爺湖温泉のホテル天翔の洞爺湖側で採取しました.採取した火山灰の一部に純水を加えて泥水を作り,1mm,0.5mm,0.25mm,0.125mm,0.063mmのふるいで篩い分けました.0.063mm以上の火山灰は12日間室内で乾燥しました.0.063mm未満の火山灰は沈殿させた後,45℃のオーブンで48時間乾燥しました.採取した火山灰の粒度分布は細粒が多く,0.063mm以下が半分以上を占めました(図:火山灰の粒度分布).

乾燥した火山灰の反射スペクトルを,粒度ごとに測定しました(図:乾燥した火山灰の反射スペクトル).反射スペクトルは細粒であるほど高くなる傾向が見られます.1400nmと1900nm付近に見られる反射スペクトルの低下は水分による吸収と思われます.2300nmに見られる反射率の低下は粘土鉱物による吸収と思われます.粒度分けする前の火山灰の反射スペクトルは,0.063mm以下の粒度が卓越しているためその反射スペクトルに近いですが,粒度の大きい火山灰も混ざっていますので,0.063mm以下の火山灰それよりやや低い値を示します.

火山灰は元から水分を含む場合や堆積してから水分を含む場合があります.乾燥した火山灰に水分を加えて,反射スペクトルを測定しました(図:16%の水分を付加した火山灰の反射スペクトル).反射スペクトルはどの波長帯でも低下し,10%以下になりました.

これに比べて,雪の反射スペクトルは80%程度,植物は900nm付近で60%程度ですから,火山灰が堆積した地域は黒く見えることが理解できます.

温度異常

1984年11月20日の地表面温度分布
2000年10月16日の地表面温度分布
2010年9月26日の地表面温度分布

火山活動には熱的な活動が伴うことが多くあります.有珠山2000年噴火以前にランドサット衛星によって観測された夜間の地表面温度分布では,有珠山山頂と昭和新山山頂の温度が周囲より高いことが分かります(図:1984年11月20日の地表面温度分布).夜間は洞爺湖や海の温度は陸域より高くなります.

有珠山2000年噴火中にTerra衛星のASTERセンサによって観測された夜の地表面温度分布では,有珠山山頂と昭和新山山頂のほかに西山付近の新しい火口の温度も周囲より高いことが分かります(図:2000年10月16日の地表面温度分布). 温度の絶対値は季節や気象条件によって変化しますが,火山活動による温度異常は周囲の温度との相対的な差として現れます. 2000年噴火の10年後に観測された地表面温度分布では,西山付近の温度異常は見えなくなり,有珠山山頂と昭和新山山頂の温度は,依然として,周囲より高いことが分かります(図:2010年9月26日の地表面温度分布).海に見える温度変化は雲の影響と思われます.このように,衛星から火山の表面温度を観測することによって,火山活動の様子を監視することができます.

火山衛星画像データベース

衛星画像は火山観測に役立つことは認識されてきましたが,十分に活用されているとは言えません.これは,必要な衛星画像を検索することが難しい,または,面倒であることが原因であると考えられます.

そこで,産総研は火山衛星画像データベースを開発し,一般公開しています. 火山衛星画像データベースでは,定期的に観測された火山の衛星画像を時系列として表示することができます.このデータベースは火山研究者に火山の衛星画像を提供することと火山災害の低減を目的として構築しました.このデータベースには世界の964火山が登録され,これらの火山についてASTERで観測された全ての衛星画像を公開しています.また,新たに観測された画像はそのつど追加されます.

もちろん,有珠火山についても,時系列衛星画像を公開しています.

参考文献

浦井 稔・川辺禎久・伊藤順一・高田 亮・加藤雅胤(2001)ASTERによる有珠火山2000年噴火に伴う降灰域の観測.地質調査研究報告,vol.52,p.189-197.