有珠火山の岩石
火山研究解説集:有珠火山 by 産業技術総合研究所・地質調査総合センター
- 有珠火山の代表的な岩石(東宮ほか,2009).上段は岩石の外観(物差しの数字はcm),下段は偏光顕微鏡(クロスニコル)で見た様子(写真の横幅は2cm).外輪山溶岩は大型の斑晶を多量に含む (25〜50vol.%,斜長石が多い; 大場ほか,1985).昭和新山(1943〜45年)をはじめとする溶岩ドームの岩石は微斑晶を十数vol.%含み,微斑晶はしばしば集合体(crystal clot)をなす.1663年軽石は,きわめてよく発泡し,斑晶を数vol.%しか含まない.
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バイモーダルな火成活動
有珠火山では,活動期によってマグマの化学組成が大きく異なります (e.g., 大場ほか, 1985) (図:有珠火山の代表的な岩石) (図:有珠火山の岩石の組成範囲) (図:有珠火山噴出物の化学組成変化図). 成層火山体の形成期には,玄武岩〜玄武岩質安山岩マグマ(SiO2=49〜54 wt.%)が噴出しました. 一方,1663年以降の歴史時代の活動には,デイサイト〜流紋岩マグマ(SiO2=68〜75 wt.%)が噴出しました. そして,日本の火山に多く見られる安山岩マグマは噴出していません.
このように中間的な組成を欠く活動は,バイモーダル火成活動などと呼ばれます.
成層火山体形成期の岩石(外輪山溶岩)
成層火山体形成期に噴出した溶岩流およびスコリアなどは,一括して有珠外輪山溶岩と呼ばれています (図:有珠火山の代表的な岩石). 外輪山溶岩は,分布・岩相などによって,タイプI〜タイプVIIに分類されています(大場, 1964a,b).
タイプ | 岩石名 |
---|---|
I | 単斜輝石斜方輝石かんらん石玄武岩 |
II | 単斜輝石かんらん石斜方輝石玄武岩 |
III | 斜方輝石単斜輝石かんらん石玄武岩 |
IV | かんらん石含有単斜輝石斜方輝石玄武岩 |
V | 単斜輝石含有斜方輝石安山岩 |
VI | 単斜輝石斜方輝石安山岩 |
VII | ピジョン輝石斜方輝石安山岩 |
- 有珠外輪山溶岩の分類(大場, 1964a,b)
成層火山体形成最初期に噴出したタイプI溶岩は,SiO2に乏しくMgOに富む比較的未分化な玄武岩であり,斑晶の中にかんらん石をやや多く(6 vol.%)含みます. 続いて,やや分化した,かんらん石を少量(2 vol.%以下)含む玄武岩が噴出するようになります(タイプII〜IV). 中期〜晩期になると,かんらん石を欠く玄武岩質安山岩が噴出します(タイプV〜VII). タイプI〜VIIいずれも多量(17〜36 vol.%)の斜長石斑晶を含み,しばしば粒径1cm以上の灰長石が見られます.
歴史時代の活動の岩石
歴史時代の噴出物は,1663年噴出物だけが流紋岩で,他は全てデイサイトです (図:有珠火山の代表的な岩石) (図:有珠火山噴出物の化学組成変化図).含まれる斑晶の量や組織に基づいて,(i) 1663年,(ii) 先明和から1943〜45年,(iii) 1977〜78年以降,の3グループに分けられます(Tomiya and Takahashi, 2005) (図:歴史時代の岩石(デイサイト〜流紋岩)の分類).
(i) 1663年噴出物: 主要な噴出物は流紋岩軽石(Us-b軽石;SiO2≒75 wt.%)で,白色でよく発泡しており,石基はガラス質です.斑晶として,主に斜長石・斜方輝石・磁鉄鉱・イルメナイトを含みます(他に微量の単斜輝石・角閃石).斑晶量が少なく,また斑晶化学組成が非常に均質であるという際立った特徴があります.
(ii) 先明和から1943〜45年の噴出物: 溶岩も火砕物も同様の組成で,SiO2=70〜73 wt.%のデイサイトです.斑晶として,主に斜長石・斜方輝石・磁鉄鉱を含みます(ごく微量の単斜輝石・角閃石を含むことがありますが,いずれもしばしば分解しています).1663年噴出物に比べると,微斑晶が多い(10〜15 vol.%)のが特徴で,微斑晶はしばしば集合体(crystal clot; 大場,1989)をなしています.これら微斑晶の組織は不均質で,著しい累帯構造を示します.
(iii) 1977〜78年以降の噴出物: SiO2=68〜70 wt.%のデイサイトです.斑晶として,主に斜長石・斜方輝石・磁鉄鉱を含みます.斑晶の量は少なく,それらは不均質な組織を示します.
このような岩石の変化から,他の様々な岩石学的証拠とも合わせ,1663年噴火の後,および1977年噴火の前,の少なくとも2回,有珠のマグマ供給系に大きな変化があったことが推定されています.これについては,岩石学的研究からみたマグマ溜まりの章で詳しく説明します.
参考文献
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中川光弘ほか15名(2002)有珠2000年噴火の噴出物:構成物とその時間変化.火山,vol.47,p.279-288.
大場与志男(1964a)有珠火山の岩石学的研究−とくに外輪山熔岩について− (I).岩石鉱物鉱床学会誌,vol.51,p.53-66.
大場与志男(1964b)有珠火山の岩石学的研究−とくに外輪山熔岩について− (II).岩石鉱物鉱床学会誌,vol.51,p.87-97.
大場与志男(1989)北海道有珠火山円頂丘溶岩(石英安山岩)中のCrystal clots.岩鉱,vol.84,p.192-199.
大場与志男・勝井義雄(1983)有珠火山の珪長質火山岩の岩石学的研究.岩鉱,vol.78,p.123-131.
Oba, Y., Katsui, Y., Kurasawa, H., Ikeda, Y. and Uda, T. (1983) Petrology of historic rhyolite and dacite from Usu volcano, North Japan. Jour. Fac. Sci., Hokkaido Univ., Ser. IV, vol. 20, p.275-290.
大場与志男・吉田武義・青木謙一郎(1985)北海道,有珠火山の岩石化学.核理研研究報告,vol.18,p.189-202.
曽屋龍典・勝井義雄・新井田清信・堺幾久子・東宮昭彦(2007)有珠火山地質図(第2版)1:25,000.火山地質図2,産総研地質調査総合センター,9p.
Tomiya, A. and Takahashi, E. (2005) Evolution of the magma chamber beneath Usu volcano since 1663: A natural laboratory for observing changing phenocryst compositions and textures. Jour. Petrol., vol.46, p.2395-2426.
東宮昭彦・宮城磯治・星住英夫・山元孝広・川辺禎久・佐藤久夫(2001)有珠火山2000年3月31日噴火とその本質物.地質調査研究報告,vol.52,p.215-229.
東宮昭彦・定池祐季・伊藤大介・渡辺真人(2009)有珠火山 −その魅力と噴火の教訓−.地質調査総合センター研究資料集,no.491,産総研地質調査総合センター.